クレアチン摂取の影響は朝と夜で異なるのか エリート女性ハンドボール選手で検討
クレアチンを朝摂取した場合と夜摂取した場合とで、体組成やパフォーマンスへの影響の程度が異なるか否かを検討したデータが報告された。パフォーマンス関連指標については12週間の介入でどちらも有意に改善したという。スペインのエリート女性ハンドボール選手対象の研究。
エルゴジェニックサプリはいつ摂取すべきか?
エルゴジェニックサプリメントとしてのクレアチンの有用性については多くのエビデンスがある。最近では、クレアチンをトレーニングのタイミングにあわせて摂取すると、グリコーゲン合成やインスリン感受性亢進という点で、より高いメリットを得られる可能性が報告された。一方、近年、エルゴジェニックサプリに関しても、時間栄養学の知見を応用する試みがなされるようになっている。サーカディアンリズム(概日リズム)を考慮してサプリメントの摂取タイミングを設定することで、より高いエルゴジェニック効果が得られる可能性がある。
クレアチンについては上記のように、トレーニングとの関連で摂取タイミングを検討した研究が既に報告されているが、概日リズムとの関連を検討した研究はまだない。今回紹介する論文は、そのような視点でクレアチン摂取の影響の変化を検討した報告。
12週間にわたり、朝または夜のクレアチン摂取とトレーニングを継続
研究参加者は、2020/2021シーズンにスペインのトップリーグでプレーする女性ハンドボールチームのプロ選手から選ばれた。適格基準は年齢が18~35歳、疾患や怪我を有していないこと。介入によるパフォーマンスへの影響の検出に必要なサンプル数は14名と計算され、16名が研究に参加した。なお、全員が正常な月経状態にあり、1名は経口避妊薬を服用していた。
全体を無作為に2群に分け、1群はクレアチンを朝、他の1群は夜、ともにトレーニング後に摂取するように指示した。クレアチンの用量は、最初の5日間は0.3g/kg/日、それ以降は0.03g/kg/日とした。
介入期間は12週間で、その間、週に5日は1時間半のハンドボールトレーニング、週に3日は1時間以上の基礎トレーニングを実施。食事は炭水化物5.0g/kg除脂肪体重(FFM)/日、タンパク質2.5g/kg FFM/日、脂質1.0g/kg FFM/日となるような食品交換ガイドを手渡し遵守を求めた。また、研究期間中、他のエルゴジェニックエイドの摂取を禁止した。
介入効果は、体重と体組成、および、下半身の評価指標としてバックスクワットの1RMとカウンタームーブメントジャンプ、上半身の評価指標としてメディシンボール投げ(5kg)と握力を測定し検討した。
パフォーマンス指標の多くは両群で向上し、変動幅に有意差はない
研究期間中に各群1名、計2名が脱落し、解析対象は14名となった。クレアチンを朝摂取する群は、25.71±3.90歳、BMI21.91±1.62、夜摂取する群は22.71±3.90歳、BMI22.02±2.65だった。
では、介入前後の変化をみていこう。
体重、BMIは変化しないが、体脂肪率は朝摂取群で有意に低下
まず、体重やBMIについては、朝摂取群も夜摂取群も有意な変化がなかった。それに対して体脂肪率は、朝摂取群は27.43±2.40%から22.55±4.21%へと低下し、その差は-4.88±3.36でベースライン値と有意差があった(p<0.05)。一方、夜摂取群は27.22±5.79%から24.50±4.61%に低下していたものの、その差は-2.38±6.34であり変動は有意でなかった。
パフォーマンス指標は両群ともに有意に向上
パフォーマンス関連指標は以下のとおり。握力を除いて、両群ともにベースライン値から有意に向上していた。
0週 | 12週 | 差 | |
---|---|---|---|
朝摂取群 | 98.80±22.86 | 112.79±23.35 | 13.98±12.86* |
夜摂取群 | 89.95±12.32 | 104.01±23.30 | 14.05±14.36* |
0週 | 12週 | 差 | |
---|---|---|---|
朝摂取群 | 36.11±6.07 | 38.32±5.54 | 2.21±1.81* |
夜摂取群 | 35.22±6.86 | 37.81±8.16 | 2.58±2.13* |
0週 | 12週 | 差 | |
---|---|---|---|
朝摂取群 | 4.98±0.34 | 5.35±0.50 | 0.37±0.25* |
夜摂取群 | 4.66±0.34 | 5.03±0.44 | 0.37±0.28* |
0週 | 12週 | 差 | |
---|---|---|---|
朝摂取群 | 36.57±5.14 | 37.42±5.28 | 0.85±1.64 |
夜摂取群 | 33.66±5.67 | 34.08±5.06 | 0.41±0.99 |
握力に有意な変化がない理由について、さらなる研究が必要
差分の差分分析(difference-in-differences design)の結果、朝摂取群と夜摂取群のベースライン値からの変動幅に群間の有意差はなかった。
このように、評価した4項目のパフォーマンス指標のうち、3項目は、クレアチンを朝摂取しても夜摂取しても、同等の向上効果が認められた。その一方、握力に関しては、クレアチンの摂取タイミングにかかわらず、有意な向上が認められなかった。この点について著者らは、「多くの既報研究がクレアチン摂取の握力に対する効果を報告しており、それらとは異なる結果になった。本研究の対象がハンドボールという握力が重要な競技アスリートであることから、この理由を解き明かすさらなる研究を行うべきと言える」と述べている。
論文の結論としては、「エリート女性ハンドボール選手のスポーツパフォーマンスを改善する上でのクレアチンサプリメントのエルゴジェニック効果が確認された。ハンドボールは、方向転換、ジャンプ、スローなど、短時間で高強度のアクションを行うスポーツであり、ホスホクレアチン系がATPの生成において重要な生理学的役割を果たす。ただし、クレアチンサプリメントを朝摂取する場合と夜摂取する場合とで、パフォーマンスへの影響に有意差は観察されなかった」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Morning versus Evening Intake of Creatine in Elite Female Handball Players」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Dec 30;19(1):393〕
原文はこちら(MDPI)
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