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ボディビルダーの栄養摂取に関する推奨事項

昨年、今回紹介する論文の著者とは別のグループから「オフシーズンのボディビルダーの栄養戦略を探るナラティブレビュー」が発表された。ボディビルダーの栄養とサプリメントの推奨事項を含む包括的なエビデンスに基づくレビュー論文であった。それに対し今回発表された論文は、競技会に向けてベストコンディションを整えるテクニックである「ピーキング」に焦点を当てた内容だ。

ボディビルダーの栄養摂取に関する推奨事項

著者らは、PubMed、Google Scholar、MEDLINE、SPORTDiscusを用いて関連論文を検索し、抽出された結果をまとめた。前半は各栄養素およびサプリメントごとの解説、後半はピーキングのためのガイドが記されている。極めて長文であるため、ごく一部のみ紹介する。

栄 養

準備期間中のボディビルダーの目標は、体脂肪を減らしつつ筋肉量を維持することである。最近のレビューから、男性ボディビルダーは非競技フェーズで約3,800kcal/日、女性は約2,000kcal/日摂取しているのに対し、競技フェーズでは1,600kcal程度であると報告されている。

タンパク質

メタ解析から、レジスタンストレーニングで脂肪増加を伴わない体重増加を最大化するために、約1.6g/kg/日のタンパク質摂取量が支持される。重要な点は、このデータの信頼区間上限は2.2g/kg/日であることだ。しかしボディビルダーのタンパク質摂取量はしばしばこれを上回る。一方で、高タンパク質の食事によりボディビルダーは満腹感が高まりストレス軽減に有用とする報告もある。現在までに高タンパク質摂取が健常者において、健康に悪影響を与えるというエビデンスは限られており、1.8~2.7g/kg/日、または最大3.5g/kg/日までは推奨可能。この量のタンパク摂取は、食事中の他の栄養素である脂肪や炭水化物の摂取量を、ボディビルのパフォーマンスを損なうほど減らさなければいけないものではない。

栄養摂取のタイミング

ボディビルダーは平均6回の食事を摂取する。この行動は、頻繁なタンパク質摂取が、より大きな同化作用、より完全な消化につながるという概念に基づいているものと考えられる。一方、タンパク質の摂取に加え、同化作用を促進しグリコーゲンを迅速に補充する方法として、トレーニング後の炭水化物摂取も焦点となっている。また、異化作用の遷延を防ぐために、睡眠前に消化の遅いタンパク質(カゼインなど)を摂取することも提案されている。

タンパク質摂取に関する推奨事項をまとめると、3g/kg/日のタンパク質を摂取するボディビルダーであれば、0.75g/kgを含む食事を4食、または0.6g/kgを含む食事を5食とし、非ホエイタンパクを睡眠の1〜2時間前に1回摂取する。また、トレーニングの1〜2時間以内に食事をとる。

炭水化物

ボディビルダーがトレーニングに際して炭水化物を摂取する理由は、レジスタンストレーニングセッションのためにグリコーゲンの補充を促進することだろう。ただし十分な炭水化物が摂取された場合、グリコーゲン枯渇後24時間以内に完全な再合成がなされる。そしてボディビルダーは通常、2日連続で同じ筋肉群を使うトレーニングをしない。そのためトレーニングパフォーマンスが損なわれる可能性は低い。

トレーニング前・中・後の炭水化物摂取がレジスタンストレーニングのパフォーマンスを高めると強く主張するにはエビデンスが不十分であるが、パフォーマンスの低下を防ぐためには、トレーニングの2時間以内に消化しやすい炭水化物を含む食事をとることが賢明だろう。また、ブドウ糖飲料での含嗽も害はないので試みる価値はあるが、その有効性は将来の研究による検証が必要だ。

サプリメント

男性ボディビルダーは平均7.0品目、女性は5.4品目のサプリメントを利用しているとの報告がある。最も一般的なのはプロテインパウダーであり、男性の75.0%、女性の88.9%が利用しているとされる。

クレアチン

クレアチンもボディビルダーの間で最も一般的に利用されるサプリメントの1つだ。クレアチンの補給により筋肉貯蔵が増加しパフォーマンスが向上する。一方、副作用として1〜2 kg程度の急激な体重増加がみられる。これはクレアチンの浸透圧により保水力が増加したことに起因するもので、理論的には細胞内にとどまるため体格の外見に悪影響を与えないが、競技の1〜2週間前は避けるのが賢明と思われる。

カフェイン

カフェインは、運動パフォーマンスを直接改善するエビデンスのある数少ない栄養補助食品の1つとして認識されている。運動の約1時間前に3~6mg/kgの摂取が良いようで、それ以上は効果的ではないようだ。なお、致死量は10,000mg前後と推定されているが、健康な成人に対しても1日摂取量を約6mg/kg以下に抑えるよう推奨されることが多い点に留意が必要だろう。

一酸化窒素前駆体

シトルリンや硝酸塩などの一酸化窒素(NO)前駆体も、ワークアウト前によく利用される。硝酸塩のエルゴジェニック効果を検討した研究では、運動の2〜3時間前に少なくとも400〜500mgの硝酸塩が提供される傾向がある。ただし、レジスタンストレーニングのパフォーマンスと筋肥大を目的とするNO前駆体のエルゴジェニック効果に関する決定的な結論を引き出すには、より多くの研究が必要。

ベータアラニン

ベータアラニンもエルゴジェニックエイドとして認識されている。筋肥大を促進するか否かはエビデンスが確立されていないが、クレアチンとベータアラニンの併用により、クレアチン単独より有意にレジスタンストレーニング誘発性筋肥大を起こしたとする報告もみられる。

競技準備フェーズ

ピークウィーク

競技会の直前1週間は一般に「ピークウィーク」と呼ばれる。ピークウィークの目標は、皮下の水分を最小限に抑えながらグリコーゲンを補充することにより、筋肉をより大きく見せることだ。ボディビルダーの94%がピークウィークに栄養面でのアプローチを変更していることが報告されている。

炭水化物

筋グリコーゲンは1gにつき、脱水状態にある筋肉内に少なくとも3~4gの貯蔵水をもたらし、炭水化物補給が適切な水分補給と組み合わさると最大17gに及び、体格の外観が良くなるとされる。また、3日間のグリコーゲン枯渇後、大量の炭水化物摂取によりグリコーゲンの過補償が起こり、当初のグリコーゲンの1.79倍もが筋肉に蓄積される。これにより、ステージ上でさらに完全な外観となる場合がある。

体内の水分の約3分の2は細胞内に、3分の1は細胞外にあり、細胞外にあるものの20%は血漿で、残りの80%が間質液だ。ピークウィークのボディビルダーの目標は、この間質液を最小限に近づけることである。多くの場合、水の摂取量を減らすことで行われる。ただし、それにより筋肉の水分量が減少し筋肉のサイズが小さくなる。また水の摂取量を減らすと血液量が減少し血圧が低下するため、筋肉への血流を増やすことが難しくなる可能性が考えられる。

ナトリウム

ナトリウムは主要な細胞外の溶質であり、これに水が引き込まれるため、一部のボディビルダーは細胞外液を減らすためにナトリウムの摂取を嫌う。しかし血漿ナトリウムは腎臓によって厳格にコントロールされている。たとえ極端な低ナトリウム食に切り替えたとしても、ナトリウム排泄が大幅に減少し、細胞外液に大きな影響は起こらない。また、ナトリウムは血圧に影響を与え、ステージ上の一時的な筋肉のサイズを変える可能性がある。

考慮すべき因子は無数にある

本論文では以上のほかにも「実際的な推奨事項」として、競技会後のリカバリー、女性の月経周期への対応、睡眠、ボディビルの心理社会的側面など、ボディビルダーの栄養に関連する事項を多面的に分析している。

結論として、「競技準備フェーズとオフシーズンへの移行後のボディビルダーについては考慮すべき因子が無数に存在する。本レビューに基づいて構造化された計画を持つことを推奨するが、より具体的なガイドラインの作成にはさらなる研究が必要」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Recommendations for Physique Athletes」。〔J Hum Kinet. 2020 Jan 31;71:79-108〕

原文はこちら(Sciendo)

関連情報

オフシーズンのボディビルダーの栄養戦略を探るナラティブレビュー

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