新型コロナウイルスのパンデミック中でも安全に運動する方法 米国心臓協会が提言
昨年末に中国・武漢から始まった新型コロナウイルス「SARS-CoV2」による感染症「COVID-19」は、パンデミック(感染爆発、世界的流行)となり世界各地の医療はもとより経済にも深刻な影響を及ぼしている。東京オリンピック・パラリンピックの延期も決まった。政府や自治体の外出自粛要請(国や地域によっては外出禁止)が出され、ふだんどおりにスポーツや運動を続けることは、世界中で困難となっている。
こうした中、世界の循環器疾患領域に強い影響力をもつ米国心臓協会(American heart association;AHA)が3月17日、このような状況においても安全性を確保しながら運動を継続することの重要性を訴える記事をWeb掲載した。以下はその要約。
新型コロナウイルス発生時の安全なトレーニング法
コロナウイルスの蔓延を防ぐという目的のため、人々は家にいるように勧められている。人々が集うべき場所・施設もそれが許されなくなり、その場所の制限リストが増加するにつれて、スポーツジム通いをしていた人も継続不可能になりつつある。しかしそれは、人々がフィットネスを完全にあきらめなければいけないことを意味するものではない。
仮にエクササイズができそうな場所を見つけた人も、そこがウイルス感染のリスクがない場所なのかどうかを知りたいと思うだろう。自分を守るための対策は自分で講じなければならない。
まず最初に理解しておくことは、高齢者や心臓病、糖尿病、肺疾患のある人は、コロナウイルスによる深刻な合併症のリスクが高まるという点だ。疾病対策センター(centers for disease control and prevention;CDC)は、これらが該当する人々は他の人との距離を保ち、可能な限り家にいる必要があると述べている。COVID-19パンデミックを起こしているコロナウイルスは、潜在的には致命的となる可能性もある呼吸器疾患である。CDCは、COVID-19の感染者が咳やくしゃみをすると、ウイルスが密接に接触している人々の間を飛散すると考えている。
CDCは、「あらゆる規模のイベントは、脆弱な集団を守る手段をとり、手指衛生や人と人の距離を守るというガイドラインを遵守し実行できる場合にのみ、継続すべき」と述べ、イベント主催者に対しては、可能であればイベントを仮想的手段に変更するように提案している。また公衆衛生当局は、10名以上の集まりを避けるように勧告している。一部の州では、スポーツジム、カフェ、レストランを閉鎖するよう求めている。他の地域では既に一部のスポーツジムが一時的に閉鎖されている。
オハイオ州インディペンデンスにあるケント州立大学のMark Dalman氏は、スポーツジムのウイルス・細菌汚染の可能性を研究している。同氏は16のフィットネスセンターで黄色ブドウ球菌の存在を調査し、テストした表面の38%以上でそれを発見した。
もちろん細菌は、SARS-CoV2のようなウイルスと同じではない。しかしウイルスもまたスポーツジムの機器に潜んでいる可能性を否定できない。同氏によると「ウイルスは食べ物や日光を必要としないので、細菌より長く活性を持続することができる」という。同氏の研究では、スポーツジムで最も汚染が少ないのは、バスルームのレバーとドアハンドルであり、一方「木材、革、多くの手袋、そのような多孔質のものはウイルス粒子が付着している可能性がかなり高い」という。また、「懸念の1つは、自分の目、顔、口に触れることだ」としている。
ノースカロライナ大学ウィルミントン校のSteven Zinder氏は、「スポーツジムに行くにあたり、他の誰かの保護を頼りにすべきではない」と話す。全米アスレチックトレーナー協会のガイダンスの執筆協力者でもある同氏は、「使用前にマシンを拭くことができない理由はない。また、自分のタオル、自分の水筒、自分のヨガマットをスポーツジムに持ち込むことができない理由はない」と語っている。そして、運動直後に石鹸を用いてシャワーを十分に浴び、清潔な服を、運動器具とは別のバッグに入れておくことで、細菌の繁殖を防ぐことができるとしている。
多くのスポーツジムは、クリーニング作業を強化することでコロナウイルスに対応してきた。CDCも「適切に処理されたプールが危険なはずはない」と述べている。しかしそれでも多くの市民がスポーツジムの中を再び見られるようになるまでに数週間かかるかもしれない。
「スポーツジムに行けないからといって、運動をやめるべきではない」とZinder氏は言う。「自宅で運動する方法を見つけるのは簡単なこと。また屋外での運動も、推奨されている他人との距離を保っている限り、散歩、ジョギング、サイクリングが可能だ」としている。
そして、「自宅でワークアウトする際の唯一の制限要因は、創造性だ」と同氏は力説する。「さらに最近は、創造的である必要さえない。インターネットに接続するだけだ。そこからダウンロードできるビデオやプログラムがたくさんある」。
もちろん、オンラインのプログラムを介さずとも、運動したり家の中で活動的に過ごす方法もある。アトランタ地域の運動生理学者で健康コーチであるSteve Collett氏は、トレーナーとの人間関係があるのであれば、連絡を取り合うことを提案している。
「トレーナーがあなたのそばに行くことができない場合でも、少なくとも彼らは電話またはテキストベースの連絡で、運動やトレーニングが必要な人々の存在を認識できる。我々トレーナーには、我々を必要としている人々を、困難な状況下でも引き続きサポートしていく責任がある」。
過去にフィットネススタジオを経営していたことのあるCollett氏は、屋外や駐車場の所有者と協力して、現在の環境に適応し始めている。彼のクライアントのほとんどすべてが、彼ら自身のルーチントレーニングを続けている。同氏はそれが最善のことだと思っている。
変わっていないことが1つある。同氏は30年のキャリアを通し、基本的な力、十分な栄養、十分な睡眠、定期的な運動の重要性を説き、免疫システムを強化する必要性を強調している。「強い免疫機能を持っている人は、これらの原則に従わない人よりも、あらゆるタイプの病気やウイルスを撃退する可能性がはるかに高い」。
文献情報
原題のタイトルは、「Working out while staying safe during the coronavirus outbreak」。
原文はこちら(American Heart Association)
新型コロナウイルスに関する記事
栄養・食生活
- 発表!「スポーツ栄養Web」2020年で最も読まれたニュースランキング20【新型コロナウイルス編】
- ビタミンD、C、E、亜鉛、セレン、ω3脂肪酸は新型コロナウイルスのリスクを下げ得るか?
- ビタミンDサプリは、アスリートのCOVID-19リスク低減とパフォーマンス向上に効果があるのか?
- 飲み会での新型コロナ感染事例の研究結果 国立感染研が客と店員向けに提言
- 会食時に新型コロナに感染した事例の研究結果「斜め向かい着座などがリスクを下げる可能性」国立感染症研究所
- 運動習慣と機能性食品の新型コロナウイルスに対する予防効果をレビュー
- ロックダウン中の免疫能の維持 焦点をアスリートに当てた学際的アプローチ
- SNDJ動画『タンパク質をしっかり摂るレシピ』第2弾【牛肉編】3本を公開しました!
- 新型コロナロックダウン中の10代若者の変化 身体活動量や超加工食品摂取頻度を5カ国で比較
- COVID-19に対する世界の行政府、保健機関の推奨事項をレビュー 食事やサプリメント、母乳育児、食品衛生など
- こばたてるみ先生が登場! SNDJ動画「タンパク質をしっかり摂るレシピ」がスタート
- 新型コロナウイルスの罹患率、死亡率とビタミンDに関連性 欧州20カ国のデータを比較検討
- 新型コロナウイルスが食生活・身体活動に与えた影響 オンライン国際調査の結果
- 厚労省が新型コロナ禍の「新しい生活様式」における熱中症予防のポイントを公開
- SNDJアンケート「新型コロナ自粛生活における栄養士・アスリートの環境変化に関する調査結果」を公開
- バランスの良い食事とは? 感染症に負けない食事とは? 連載「新型コロナ自粛中の食生活ガイド」
- ステイホーム中、家での時間を最大限に活用しよう! 米国栄養アカデミーがアドバイス
- 新型コロナで外出自粛中の高齢者向け食品購入・活用アドバイスシート 英国栄養士会
- 自粛生活がもたらす健康リスクと睡眠・栄養の考え方 連載「新型コロナ自粛中の食生活ガイド」
- 農水省、新型コロナ対策で日本の牛乳を救う「プラスワンプロジェクト」緊急スタート
- ウイルス感染症に対する免疫強化の栄養戦略 新型コロナを念頭に置いての文献レビュー
- SNDJ動画「ビタミンDを意識的に摂ろう!」を公開 新型コロナに勝つ!公認スポーツ栄養士の食事
- 新連載「新型コロナウイルスで自粛中の食生活ガイド」スタート! 今こそスポーツ栄養で、負けないカラダをつくろう
- 新型コロナ関連情報コーナーを新設、外出自粛生活に役立つ動画コンテンツなどスタート!
- 管理栄養士・足立香代子先生が新型コロナウイルス感染症予防のための食事ブログを開設
- 英国栄養士会が新型コロナウイルス禍の食生活アドバイスを公開・随時更新
- 新型コロナウイルス感染症で外出自粛中の食事と栄養、食品購入ガイダンス WHO
- SNDJアンケートご協力のお願い「新型コロナウイルス感染症拡大における環境変化とスポーツ栄養の役割について」
- 食事・栄養面からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策 WHO
運動・エクササイズ
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査
- 【医療従事者向け】新型コロナウイルス流行下における熱中症対応の手引き 感染症学会など4学会
- 新型コロナによるロックダウンの不安により体重が有意に増加 イタリアからの報告
- マスク着用は熱中症のリスク! 新型コロナ予防と熱中症予防を両立するには?
- 3カ月間の潜水艦任務で体組成はどのように変わるか? COVID-19外出自粛生活に似た環境
- コロナ禍からの脱却 子どものために保護者、学校の指導者は何をすべきか? 中国の取り組み
- 「自宅や屋外で安全に運動するための注意事項」スポーツ庁が新型コロナ対策を公開
- 新型コロナウイルスによる休校・休園・外出自粛が、子どもの生活と外遊びに及ぼす影響
- 新型コロナウイルス感染症で外出自粛中の運動・エクササイズ WHOガイダンス
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 予防措置を講じた上で定期的な身体活動の維持が大切
アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者
- 新型コロナウイルス感染症の影響で、未成年長距離ランナーの怪我が適切にケアされていない可能性
- 新型コロナウイルスが未成年アスリートに与えた精神・身体・QOLへの影響 米国で1万3,000人を調査
- コロナ禍からスポーツへの安全な復帰 英国スポーツ運動医学会のガイドライン提案
- 新型コロナウイルスに罹患したアスリートがスポーツへ復帰する際の留意事項 オランダ心臓病学会
- 大学スポーツ協会、新型コロナウイルス対策『大学スポーツ活動再開ガイドライン』を公開
- スポーツイベントや体育施設の再開へ、新型コロナ感染予防ガイドラインの策定が続く スポーツ庁など
- アスリート、指導者らがCOVID-19の外出自粛期間にとるべき戦略とソリューション
- 世界アンチドーピング機構が新型コロナ後のスポーツ再開を見据えたガイダンスを発表
- 新型コロナで自粛中のアスリートからリポート 中井彩子フランス・ロードバイク日記
- アスリートのための新型コロナウイルス感染症対策 予防から発症、チーム対応、練習復帰までを考察
- 新型コロナウイルス禍のスポーツ関連経済支援、問合せ窓口一覧 スポーツ庁
- 「スポーツに関わる全ての皆様へ」スポーツ庁・鈴木大地長官からのメッセージ
関連記事
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査
- 【医療従事者向け】新型コロナウイルス流行下における熱中症対応の手引き 感染症学会など4学会
- 新型コロナによるロックダウンの不安により体重が有意に増加 イタリアからの報告
- マスク着用は熱中症のリスク! 新型コロナ予防と熱中症予防を両立するには?
- 3カ月間の潜水艦任務で体組成はどのように変わるか? COVID-19外出自粛生活に似た環境
- コロナ禍からの脱却 子どものために保護者、学校の指導者は何をすべきか? 中国の取り組み
- 「自宅や屋外で安全に運動するための注意事項」スポーツ庁が新型コロナ対策を公開
- 新型コロナウイルスによる休校・休園・外出自粛が、子どもの生活と外遊びに及ぼす影響
- 新型コロナウイルス感染症で外出自粛中の運動・エクササイズ WHOガイダンス
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 予防措置を講じた上で定期的な身体活動の維持が大切
アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者
- 新型コロナウイルス感染症の影響で、未成年長距離ランナーの怪我が適切にケアされていない可能性
- 新型コロナウイルスが未成年アスリートに与えた精神・身体・QOLへの影響 米国で1万3,000人を調査
- コロナ禍からスポーツへの安全な復帰 英国スポーツ運動医学会のガイドライン提案
- 新型コロナウイルスに罹患したアスリートがスポーツへ復帰する際の留意事項 オランダ心臓病学会
- 大学スポーツ協会、新型コロナウイルス対策『大学スポーツ活動再開ガイドライン』を公開
- スポーツイベントや体育施設の再開へ、新型コロナ感染予防ガイドラインの策定が続く スポーツ庁など
- アスリート、指導者らがCOVID-19の外出自粛期間にとるべき戦略とソリューション
- 世界アンチドーピング機構が新型コロナ後のスポーツ再開を見据えたガイダンスを発表
- 新型コロナで自粛中のアスリートからリポート 中井彩子フランス・ロードバイク日記
- アスリートのための新型コロナウイルス感染症対策 予防から発症、チーム対応、練習復帰までを考察
- 新型コロナウイルス禍のスポーツ関連経済支援、問合せ窓口一覧 スポーツ庁
- 「スポーツに関わる全ての皆様へ」スポーツ庁・鈴木大地長官からのメッセージ