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オフシーズンのボディビルダーの栄養戦略を探るナラティブレビュー

ボディビルダーが参照する栄養情報は科学的根拠が十分でないものが多く、時に健康にとり有害な場合もある。とくに、大会に向けて減量ステージにある期間については科学文献のサポートがあるものの、オフシーズンの栄養についてはほとんど目が向けられていない。

オフシーズンのボディビルダーの栄養戦略を探るナラティブレビュー

オフシーズンの目標は、不必要な体脂肪を増やすことなく筋肉量を増やすことである。今回紹介する論文は、あまり注目されてこなかったオフシーズンのボディビルダーの栄養戦略についてのレビューだ。

ボディビルとスポーツの共通点と相違点

ボディビルダーの選手生活は、シーズンオフの準備期間、競技会参加に向けての減量期間、そして競技会参加という3つの異なるステージで構成される。この点は他の多くの格闘系スポーツと同じだが、競技会ではスポーツパフォーマンスではなく外観で判断されるという違いがある。ステージ上で、身体の強靭さや美しさを強調するため、ボディビルダーの食生活のほとんどは、脂肪量の増加を最小限に抑えながら筋肉量を増加させるために費やされる。

かつて、栄養やサプリメントに関する情報はボディビル雑誌など限られた媒体で提供されていたが、現在はソーシャルメディアなど多くの媒体で情報交換されるようになった。その結果、科学的根拠の乏しい情報が氾濫している。

このレビューは、オフシーズンのボディビルダーに関連する栄養と栄養補助食品の関する文献的考察の結果から得られた推奨事項を提供している。

エネルギー

オフシーズン中のボディビルダーの主な目標は、筋力トレーニングを行い、正のエネルギーバランスを維持することにより、脂肪量の増加を最小限に抑えながら筋肉量を増加させることだ。正のエネルギーバランスは、レジスタンストレーニングを伴わなくても同化作用があることが示されている。しかし、レジスタンストレーニングを正のエネルギーバランスに組み合わせることによって、効果的な同化作用が発揮される。

筋肉の成長速度は、筋肉量・筋力がよりハイレベルになるにつれて遅くなる。よって、より正に傾いたエネルギーバランスは初心者のボディビルダーにとってとくに有益である。一方、上級ボディビルダーでは、体脂肪の不必要な増加を制限するため、あまり正へ強く傾いていないエネルギーバランスによって、より多くのメリットを得られる可能性がある。

除脂肪体重を増やし脂肪量の増加を抑制する戦略として、0.25〜0.5kg/週の体重増を目標とすることを推奨する考え方もあるが、上級ボディビルダーの場合は月に体重が2kg増加し体脂肪が不必要に蓄積される可能性があり、この推奨は慎重に検討すべきだろう。現在のエビデンスに基づけば、オフシーズンのボディビルダーにはわずかな高エネルギーの食事(維持量の10〜20%以上)の摂取を推奨し、とくに上級者にはこの推奨範囲の下限を目指すことが適切と考えられる。また体脂肪の大幅な増加がみられる場合は、より控えめな目標にすべきであろう。0.25〜0.5%/週の体重増加が1つの目安になるかもしれない。

タンパク質

骨格筋タンパク質の代謝回転を維持するために、筋タンパク質合成が筋タンパク質分解を上回るバランスを保つ必要がある。健康な一般人のタンパク質摂取推奨量は0.8g/kg/日だ。この約2倍の2.2g/kg/日が、レジスタンストレーニングによる筋肥大最大化の上限と報告されている。しかし、ボディビルダーはこの推奨をはるかに超え、男性は最大4.3g/kg/日、女性では2.8g/kg/日ものタンパク質を摂取しているとの報告がある。

また、かつて、オフシーズンのボディビルダーに「摂取エネルギー量の25〜30%をタンパク質摂取にあてる」との推奨も見られた。しかしこれでは、摂取エネルギーが多い場合、必要量を大きく超えるタンパク質を摂取することになりかねない。また、少なめの摂取エネルギー量の場合は炭水化物と脂質の摂取量が不十分になることもあるだろう。よってやはり体重に基づいたタンパク質摂取推奨値の方が適切と思われる。

現在のエビデンスから、オフシーズンのボディビルダーのタンパク質摂取量は少なくとも1.6g/kg/日とし、2.2g/kgに近い値を目標とすることが良いのではないだろうか。なお、筋蛋白合成を高めるためタンパク質の質を考慮し、個人の好みに応じて適宜、ロイシンと必須アミノ酸を豊富に含む蛋白源、例えば乳清蛋白、ビーガンの場合はエンドウ豆蛋白などを優先し摂取することが有益である可能性がある。

脂 質

ボディビルダーの脂質摂取量は、総摂取エネルギー量の8〜33%の範囲と報告されている。現在のエビデンスに基づき、米国スポーツ医学会がアスリート向けに推奨している摂取エネルギー量の20〜35%という値を援用するのが賢明かもしれない。

ω3やω6などの脂肪質もボディビルダーにとって重要である。これらの脂肪酸を多く含む高品質の食品を十分に摂取している場合、これらを補う必要はないが、最適量を摂取するのが困難な場合もあり、そのような時は栄養補助食品を適宜利用する。

炭水化物

タンパク質や脂肪と異なり、炭水化物は人間の食事には必須ではないとの考え方がある。その理由は、身体は糖新生というかたちで組織が必要とするグルコースを生成する能力があるからとされる。

しかし、高強度の運動中に消費される筋グリコーゲンの基質として炭水化物は主要な寄与因子であり、中程度の負荷を伴う典型的なボディビルトレーニングでも筋グリコーゲン貯蔵量の減少が引き起こされる。またグリコーゲン貯蔵量が少なすぎる場合は、筋肉疲労が早まることが示唆されている。50%炭水化物食と比較し70%炭水化物食は、最大運動中のパフォーマンスに影響を与えないが、25%炭水化物食はパフォーマンスを大幅に低下させたとの報告も見られる。中~高程度の炭水化物食がボディビルダーに適している可能性が高い一方で、極端な低炭水化物食はトレーニングに有害である可能性がある。

男性のボディビルダーは、オフシーズン中に炭水化物を平均5.3g/kg/日摂取していると報告されている。一方、ボディビルダーに最適な炭水化物摂取量は確立されていない。現時点のエビデンスに基づけば、タンパク質と脂肪に割り当てた残り、3〜5g/kg/日以上の炭水化物を摂取するのが妥当と考えられる。

ここまでの要点は以下のようにまとめられる。

週あたりの体重増加
初級~中級者;0.25~0.5%,上級者;~0.25%
摂取エネルギー量
初級~中級者;維持量+10~20%,上級者;維持量+5~10%
タンパク質
1.6~2.2g/kg/日
脂 質
0.5~1.5g/kg/日
炭水化物
残りのカロリー(3~5g/kg/日以上)

栄養補助食品

最近の調査では、ボディビルダーの全てが栄養補助食品を摂取していると報告された。多い順に、タンパク質サプリメント(86%)、クレアチン(68%)、分岐鎖アミノ酸(67%)、グルタミン(42%)、ビタミン(40%)、魚油(37%)、カフェイン/エフェドリン含有製品(24%)などだ。

本論文では各栄養補助食品のエビデンスの紹介と詳細な考察を加えている。またそのエッセンスとして、ボディビルダーへの栄養補助食品推奨摂取量に関して以下の情報が表形式にまとめられている。

クレアチン一水和物3g/日
ベータアラニン3~5g/日
シトルリンリンゴ酸塩8g/日
カフェイン5~6mg/kg
マルチビタミン摂取推奨量の100%以下
ω32~3g のEPA・DHA

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition Recommendations for Bodybuilders in the Off-Season: A Narrative Review」。〔Sports (Basel). 2019 Jun 26;7(7)〕

原文はこちら(MDPI)

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