適切な水分摂取によって子どもの記憶力の一部が向上する
健康な成人男性では体内の水分の2%が失われると喉の渇きを感じるとされる。それに対して子どもが訴える主観的な喉の渇きは、その時点での水分摂取量との相関がないと報告されている。よって計画的な水分摂取が成人よりも重要と考えられる。
ただし、子どもの水分摂取量と喉の渇きやその影響に関する研究はあまり行われていない。本論文の著者らは、学校での子どもたちの水分摂取量と認知能力や、尿比色、および歩行数との関連の有無に着目した検討を行った。
ドイツの10~12歳の子どもたちで調査
対象は、ドイツ国内の5学年と6学年(10~12歳)275名。介入群148名と対照群127名に、無作為に二分し、10月と1月の学校の授業で体育がない日を研究実施日とした。研究実施日に欠席した生徒を除き、最終的に介入群136名、対照群114名、計250名(10.9±0.8歳、46.8%が女子)が解析対象となった。
介入群と対照群のいずれも自由に水分を摂取できることとした上で、介入群には水分摂取の重要性を指導し、研究実施日には積極的に水分を摂取するように指示した。
研究実施日の環境温度は、正午時点の屋外で10.5±5.3℃、教室内で20.7±0.7℃だった。水分摂取量は目盛付きのペットボトルを用いることで把握し、歩数は手首に巻くタイプの加速度センターで測定した。尿比色は8段階のチャートで判定した。
認知能力は、反応の速さと正確さ、記憶力などを評価した。例えば、ディスプレイに表示される数字やアルファベットをできるだけ短時間で昇順に選択するテストなどを行った。
介入/非介入で水分摂取量に差は生じないが、尿比色には有意差
・水分摂取量、喉の渇き、尿比色、歩行数の結果
平均水分摂取量は1,175±640mLで、介入群は1,204±639mL、対照群は1,141±642mLだったが有意差はなかった(p=0.398)。ただし、自己申告による主観的な喉の渇きは、介入群で有意に多く認められた(40.4 vs 28.1%,p=0.033)。また尿比色でスケールの1を示す頻度にも有意差が見られた(77.6 vs 66.7%,p=0.037)。歩行数は、介入群1万5,430±2,831歩、対照群1万5,855±2,891歩で有意差はなかった(p=0.266)。
・認知能力にも有意差は得られず
また、認知能力テストは、評価したすべてにおいて、介入群と対照群で有意な差は認められなかった。これには、前述のように、介入群と対照群とで水分摂取量そのものに有意差がなかったことの影響も考えられる。そこで研究者らは、対象全体を水分摂取量で4群に分けて、次の検討を行っている。
学校での1Lの水分摂取は記憶力にメリット
対象全体(250名)を水分摂取量を基に、0.5L未満(21名)、0.5~1.0L未満(73名)、1.0~1.5L未満(66名)、1.5L以上(64名)の4群に分類したうえで、認知能力テストの結果との関連をみた。すると、水分摂取量が多い群で視空間記憶が高いという有意な関連が認められた。
この関係は、学校での水分摂取量が1.0L(総摂取量の50%)までは有意な関係が存在した。ただしそれ以上摂取した群での追加メリットはみられなかった。
著者は、この研究を「学校での水分補給の短期的な影響を初めて示したもの」と述べて、「水分摂取量を増やすと、子どもの記憶力が向上した。介入により水分摂取量、尿比色、喉の渇きに弱い関連がみられた。尿比色や主観的な喉の渇きは実用的なツールではあるが、すでに一定量の水分を摂取している状態では有用でない。脱水のより有効な評価法の確立が求められる」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Water Consumption during a School Day and Children's Short-Term Cognitive Performance: The CogniDROP Randomized Intervention Trial」。〔Nutrients. 2020 May 2;12(5)〕
原文はこちら(MDPI)