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「やり抜く力」を脳画像で予測する! 目標を細分化してゴール達成の支援にも期待

勉強やスポーツの上達に必要な能力は、いろいろあるだろう。例えば、勉強であれば、読解力や考察力、ひらめき、スポーツであれば基礎体力やいわゆる運動神経の良さだろうか?

「やり抜く力」を脳画像で予測する! 目標を細分化してゴール達成の支援にも期待

しかし、両者に共通する、より重要な"力"がある。目標達成に向けて努力する「やり抜く力」だ。素質に勝るのに努力しない人を、素質は劣るが努力する人のほうが、しばしば良い結果を生み出すことに、異論を差し挟む人は稀であろう。

ところが、その「やり抜く力」を客観的に評価する指標はこれまで存在しなかった。これに対し、MRI(磁気共鳴画像)検査を用いて、客観的に評価可能とする手法が報告された。この評価を応用し、個人差を考慮したトレーニングなどの支援法の開発も期待できるという。

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと東京大学、帝京大学の共同研究グループの研究によるもので、「Communications Biology」誌に論文が掲載されるとともに、同センターのWebサイトにニュースリリースが掲載された。

研究の概要

発表された内容の主旨は、脳の最前部にある前頭極※1の構造の特徴を利用して、複数の課題における「やり抜く力」を80パーセント以上の精度で予測する手法の開発に成功したというもの。また目標設定を細分化することで、目標達成に向けた行動と前頭極構造の可塑的変化※2が促進されることがわかった。

※1 前頭極:前頭葉の前方、先端部にある皮質で、進化的に新しい脳領域。ヒトでよく発達しており、目標志向性、メタ認知、未来予測などの機能を担っていると考えられている。
※2 可塑的変化:刺激に応じてよく使われる神経回路の処理効率を上げ、使われない回路の効率を下げて、神経系が最適の処理システムを作り上げることを「脳の可塑性」という。本研究では学習によって脳構造が変化することを脳の可塑的変化と呼んでいる。

研究内容の詳細

三日坊主になる人とそうでない人の差は?

語学や数学などの学校教育、社員教育、芸術やスポーツなどの修練、健康行動やリハビリテーションなどの医療を含むさまざまな分野において、立てた目標を達成するためには「やり抜く力」が不可欠。「やり抜く力」は、将来の社会的成功を予測する重要な因子と考えられる。しかし、この「やり抜く力」は個人差が大きく、目標を達成するまでやり抜くことが得意な人と、三日坊主になりがちな人がいる。

近年、目標達成にかかわる脳内メカニズムについて研究が進められているが、その多くは特殊な実験環境下での短期的な目標達成の研究にとどまり、実生活に準じた環境での長期目標に対する「やり抜く力」の定量的な指標は知られていなかった。また、「やり抜く力」を司る脳部位に影響を与えて、目標達成に向けた行動を促進する教育法についても、明らかでなかった。

ハノイの塔をやり遂げる人とあきらめる人では、脳MRIデータに差がある

研究グループでは、まず65名の健康な被験者を募り、数十分程度の短期的な達成課題として「ハノイの塔」というパズルを、最後までやり抜くことを目標に実施してもらった。やり抜くことができたのは34名で、被験者の約半数だった。

課題実施前に計測してあった脳のMRIデータを、やり抜いた人と途中であきらめた人とで比較すると、前頭極にある灰白質※3の体積と、その近傍にある白質の拡散異方性※4に差がみられた。

※3 灰白質:大脳皮質や大脳深部にみられる神経細胞体の集合で、大脳皮質では層構造を持つ。
※4 白質の拡散異方性:白質は、灰白質の神経細胞体から出た軸索(神経細胞間の連絡ケーブル)が通っている。白質組織内では、水分子の拡散方向は神経線維束の方向によって強く制約されるため、水分子は線維束と平行する方向によりよく拡散する。この性質を利用して、白質の神経線維束を計測する。

目標をやり抜くか否かが事前にわかる

次に、脳MRIデータでみられたこれら前頭極の構造の特徴を、「やり抜く力」のバイオマーカー※5として学習させた、「やり抜く力」の傾向予測モデルを開発した。

この予測モデルを用いて、参加者が異なる2つの長期目標の達成課題(1カ月間にわたり毎日30分の指運動学習と、3カ月にわたる毎日1時間の英語学習)を最後までやり抜けそうか否かを予測したところ、80パーセント以上の精度で正しく予測できることがわかった。

これにより、「やり抜く力」のバイオマーカーである前頭極の構造が、課題の内容(パズル課題、指運動学習、英語学習)や、目標達成にかかる時間の長短にかかわらず、「やり抜く力」の予測に寄与することが明らかになった(図1)。

※5 バイオマーカー:生物における特定の症状や状態の指標であり、本研究では脳構造を「やり抜く力」を示す指標として利用している。

図1

「やり抜く力」を脳画像で予測する! 目標を細分化してゴール達成の支援にも期待

(出典:国立精神・神経医療研究センター)

やり抜く力が弱い人でも、目標を細分化すると最後までやり抜ける

興味深いことに、「やり抜く力」の傾向予測手法の結果、「やり抜く力」が低いと予測された人であっても、目標を細分化して小さい目標ごとに達成感が得られるような学習プログラムを用いると、最後までやり抜くことができた。そして、この学習プログラムに取り組んだ人は、通常の学習プログラムに取り組んだ人と比べて、より明らかな前頭極構造の可塑的変化を示していた(図2)。

図2

「やり抜く力」を脳画像で予測する! 目標を細分化してゴール達成の支援にも期待

(出典:国立精神・神経医療研究センター)

今後の展開:目標の個別化で達成率の向上へ

研究グループでは、本研究の成果を「やり抜く力を支える神経メカニズムの解明に新たな視点を与えるもの」としている。また今後の展開として、「個人に最適化(パーソナライズ)した効果的な教育・研修法、トレーニング法、リハビリテーション、健康行動など、あらゆる領域で個人の目標達成を最適化する支援法開発に貢献することが期待される。今後も倫理面を考慮した研究開発の進展が重要」とまとめている。

プレスリリース

脳画像から「やり抜く力」を予測する手法を開発~目標の細分化が脳を変化させ達成を支援~(国立精神・神経医療研究センター)

文献情報

原題のタイトルは、「Plastic frontal pole cortex structure related to individual persistence for goal achievement」。〔Commun Biol. 2020 Apr 28;3(1):194〕
原文はこちら(Springer Nature)

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