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日本人男性は“非肥満”でも、わずか6日の高カロリー高脂肪食でインスリン感受性が低下する

肥満のない日本人男性では、わずか6日という短期間でも高脂肪食の負荷によって、脂肪肝・脂肪筋の傾向が強まり、それらの組織でのインスリン感受性が低下することが明らかになった。順天堂大学大学院代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの門脇聡氏、田村好史氏らの研究によるもので、「Journal of Clinical Medicine」に論文が掲載された。

日本人男性は“非肥満”でも、わずか6日の高カロリー高脂肪食でインスリン感受性が低下する

インスリン感受性は人種/民族や社会・文化的背景によって異なる

肥満によってインスリン感受性が低下し、2型糖尿病などの代謝性疾患のリスクが上昇することはよく知られている。また、アジア人は白人に比べて軽度の肥満でもインスリン感受性が低下しやすいことも明らかにされており、さらに南アジア人では非肥満でも短期間の高脂肪食で筋肉のインスリン感受性が低下することが報告されている。ただし、日本人を含む東アジア人でも同様の傾向があるのかは確認されていない。

同じアジア人であっても、南アジア人と東アジア人ではインスリン抵抗性の程度が異なることが報告されており、これには遺伝的な要因だけでなく、食習慣や身体活動習慣、社会・文化的要因が関与していると考えられている。そのため、東アジアの非肥満者でのインスリン感受性の病態の理解が必要とされる。

以上を背景として門脇・田村氏らは、非肥満で健康な日本人男性を対象とする、短期間の高脂肪食によるインスリン感受性への影響を詳細に検討した。

エネルギー量+45%とする高カロリー高脂肪食(HCHFD)を6日間継続

研究参加者は、21~29歳の日本人男性で、除外基準(糖尿病・高血圧・脂質異常症・心疾患・消化器疾患・ウイルス性肝疾患・食物アレルギーの既往、肝機能・腎機能異常、喫煙者、習慣的飲酒者、最近の減量または体重変化、低炭水化物食の施行など)に該当しないボランティア21人(23.8±3.1歳)。

研究期間は12日間で最初の6日間を標準食、6~11日を高カロリー高脂肪食(high-calorie high-fat diet;HCHFD)とした。標準食は、炭水化物57.5%、タンパク質17.5%、脂質25%で、エネルギー量は身体活動量と基礎代謝量に基づき個別に設定された食事が提供された。高カロリー高脂肪食(HCHFD)は、標準食をベースとして、クリーム(飽和脂肪酸が約70%、一価不飽和脂肪酸が約30%)によって摂取エネルギー量が+45%となるようにした。HCHFDの組成は、炭水化物40%、タンパク質12%、脂質48%。

各試験食条件の最後の2日間(5~6日目と11~12日目)に、エネルギー代謝測定室(メタボリックチャンバー)や磁気共鳴画像法(MRI)、磁気共鳴分光法(MRS)、食事負荷試験、グルコースクランプ法、便検体採取などの諸検査を施行。肝臓と筋肉の異所性脂肪やインスリン感受性、糖・脂質代謝、腸内細菌叢の組成、エンドトキシン(内毒素)血症のマーカーであるリポ多糖結合タンパク質(lipopolysaccharide binding protein;LBP)などを評価した。研究期間中の飲酒は禁止した。また、研究開始前から参加者には加速度計が提供され、研究期間中の日々の身体活動量の変動が±10%以内になるように努めてもらった。食事介入のコンプライアンスは、毎食後に写真を研究者にメール送信してもらうことで確認した。

6日間の高カロリー高脂肪食で筋肉や肝臓の脂肪が増えてインスリン感受性が低下

高カロリー高脂肪食(HCHFD)介入後に体重やBMIが上昇

結果について、まず体重や生化学検査値に着目すると、高カロリー高脂肪食(HCHFD)介入によって、体重、BMI、空腹時血糖値、総コレステロール、HDL-コレステロール、総アディポネクチン、レプチン、線維芽細胞成長因子-21(FGF-21)などが有意に上昇し、遊離脂肪酸、総ケトン体などは有意に低下していた。体脂肪率、LDL-コレステロール、中性脂肪、AST、ALT、ALP、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、および基礎代謝量などの変化は有意でなかった。

エンドトキシン(内毒素)血症マーカーのLBPが有意に上昇

エンドトキシン血症のマーカーであるリポ多糖結合タンパク質(LBP)は、ベースラインが4.9±0.7μg/mLであったものが、HCHFD介入後には5.6±0.7μg/mLと、14%有意に上昇していた(p=0.006)。

筋細胞内脂肪が約31~47%、肝細胞内脂肪は約200%増加

筋細胞内脂肪(intramyocellular lipid;IMCL)は、クレアチンシグナルを基準にメチレンシグナルの強度で評価。前脛骨筋ではベースラインが1.7±1.2であったものがHCHFD介入後には2.5±1.3と約47%有意に上昇し(p=0.009)、ヒラメ筋でも同様に5.2±2.7から6.8±2.7へ約31%有意に上昇していた(p=0.005)。

また、肝臓の細胞内の脂肪量は、ベースラインが0.5±0.4%、HCHFD介入後は1.5±1.0%と、約200%有意に増加していた(p<0.001)。

インスリン感受性は筋肉で約4%、肝臓で約8%低下。ただし血糖恒常性は維持

2ステップ高インスリン正常血糖クランプ法により、HCHFD介入後に筋肉でのインスリン感受性は約4%、肝臓では約8%低下したことが確認された。ただし、食事負荷試験(炭水化物104.4g、タンパク質35.3g、脂質19.5g)では、インスリン分泌の上昇とインスリンクリアランス(metabolic clearance rate of insulin;MCRI)の低下によって、負荷240分後までの血糖曲線下面積に有意差は生じていなかった。

なお、インスリンクリアランスの低下は、インスリン抵抗性増大や肥満につながる初期変化として近年注目されている。本研究において、インスリンクリアランスは筋肉のインスリン感受性の低下と有意な相関が認められた(r=0.636、p=0.002)。ただし肝臓のインスリン感受性とインスリンクリアランスの関連に有意差は認めなかった(r=0.23、p=0.925)。

このほか、腸内細菌叢への影響については、α多様性、β多様性ともにHCHFD介入後の有意な変化は認められなかった。また、エンドトキシン血症に関わるリポ多糖(LPS)産生グラム陰性腸内細菌叢を含むバクテロイデーテス門のベースライン相対存在量は、筋インスリン感受性(r = -0.46、p = 0.04)およびMCRI(r = -0.57、p = 0.009)の変化と相関していた。

著者によると本研究は、非肥満の東アジア人を対象に、短期間の食事の変化によるインスリン感受性への影響を検討した初の研究という。結論としては、「非肥満の日本人男性において、短期間の高カロリー高脂肪食が異所性脂肪蓄積を惹起し、筋肉と肝臓のインスリン感受性を低下させた。ただし、代償的なインスリン分泌亢進とインスリンクリアランス低下によって、耐糖能は維持された」とまとめられている。また、このトピックに関する今後の研究として、女性を含めたより大きなサンプルサイズでのさらなる検討が必要と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「A Short-Term High-Fat Diet Worsens Insulin Sensitivity with Changes in Metabolic Parameters in Non-Obese Japanese Men」。〔J Clin Med. 2023 Jun 16;12(12):4084〕
原文はこちら(MDPI)

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