新型コロナウイルスのワクチン接種、アスリートが注意すべきこと
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種が国内でも間もなくスタートする。医療従事者の接種が優先され、続いて高齢者や基礎疾患のある人という順番で、現在のところアスリートが優先されることはないようだ。ところで、アスリートはワクチン接種にあたり、どのようなことに注意すべきだろうか。
「The Lancet. Respiratory medicine」に「COVID-19 vaccination in athletes: ready, set, go...(アスリートへのCOVID-19ワクチン接種)」というタイトルの短報が掲載された。その一部を紹介する。
COVID-19パンデミックは、ワクチンの登場により新しい局面を迎えた。市販されたワクチンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に対する大規模な多国籍試験の結果、有効性と短期的な安全性が証明されており有望。スポーツの世界では、COVID-19により数々の競技大会が延期・中止された。ワクチンに対するアスリートの期待は高い。
現在、エリートアスリートおよびハイレベルのレクリエーションアスリートの間で、ワクチン接種関連の課題への関心が急速に高まっている。エリートアスリートは上気道感染症の感受性が高いことが古くから認識されており、アスリートのワクチン接種に関する議論は昨日今日に始まったわけではない。毎年行われているインフルエンザワクチンについても長年議論されてきた歴史がある。インフルエンザワクチンについては現在、接種後にアスリートが変化を感知できるほどの副反応はほとんどないとされている。
COVID-19ワクチンについても懸念の大半は副反応についてである。現在はまだ市販後調査データが待たれる段階だが、臨床試験からは、総じて重篤な有害事象は少ないことが示されている。
後期臨床試験における副反応は一般に軽度であり、日常生活に影響を与えるものではない。ただ、年齢層別にみると比較的若年者(55歳未満)で発生率が高く、2回目の接種後により顕著になる。
ファイザー社のワクチンでは、局所反応(発赤、腫脹、疼痛など)は若年者の83%で発生し、全身倦怠感と頭痛を伴う全身性副反応は接種者全体の約50%で報告され、約25%は解熱薬や鎮痛薬が必要だったと報告されている。アスリートに関連することとしては、1回目のワクチン接種後、若年者の21%で筋肉痛が報告され、この割合は2回目の接種後、37%に上昇した。このデータは重要な参考事項と言える。
アストラゼネカ社のワクチンでは、接種者の約50%が接種部位に軽度から中等度の局所的な痛みと圧痛を訴えている。この痛みは、アセトアミノフェン(鎮痛薬)の投与後にも、初回摂取後4~5日持続したという。疲労感と頭痛も、初回接種後に約70%で報告され、筋肉痛と発熱は約60%でみられた。ただし、2回目の接種後のこれらの報告は少数だった。
これらの副反応は場合によって接種後1週間続き、アスリートの場合、トレーニングや競技大会参加に影響を与える可能性がある。よって、予想される副反応に関する質の高い事前カウンセリングが必要とされる。
医師は、ワクチン接種を受けようとするアスリートとこれらの問題について話し合い、かつ接種後の症状を注意深く監視する計画が重要である。ワクチン接種後の48~72時間、とくに2回目の接種後については、トレーニング負荷の一時的な抑制を検討することも適切かもしれない。また、局所的な副反応を抑制するために、ワクチンが正しく投与されること(筋肉内注射の場合はとくに)、解熱薬や鎮痛薬の必要性、入手法の伝達などの配慮も求められる。
なお、アスリートのワクチン優先接種を認めることについて、倫理的な面から検討すべきとの声がある。ただし現状において大半の国々で、アスリートはワクチン優先接種の対象とされておらず、この議論は時期尚早の可能性がある。とは言っても、ワクチンの入手可能性は今後数カ月から数年で急速に変化する可能性があり、新たなワクチンが開発された場合などに備えた議論は必要だろう。
効果的なワクチンが登場したとは言え、スポーツ競技大会での感染がワクチンにより予防可能かについて確固たる結論は出ておらず、大規模イベントがCOVID-19感染拡大の一つの機会である可能性を考慮すると、スポーツイベント開催時に現在行われている制限の解除に先立ち、詳細なアスリートレジストリデータの収集が求められる。
文献情報
原題のタイトルは、「COVID-19 vaccination in athletes: ready, set, go...」。〔Lancet Respir Med. 2021 Feb 5;S2213-2600(21)00082-5〕
原文はこちら(Elsevier)
新型コロナウイルスに関する記事
栄養・食生活
- 日光曝露、ビタミンD摂取の双方が呼吸器感染症リスクを抑制 英陸軍のRCTで有意差
- COVID-19パンデミックが摂食障害のある人に及ぼす影響をSNSの投稿から分析
- 日光曝露またはサプリ等によるビタミンD摂取は、新型コロナウイルスの重症化を予防するか?
- 発表!「スポーツ栄養Web」2020年で最も読まれたニュースランキング20【新型コロナウイルス編】
- ビタミンD、C、E、亜鉛、セレン、ω3脂肪酸は新型コロナウイルスのリスクを下げ得るか?
- ビタミンDサプリは、アスリートのCOVID-19リスク低減とパフォーマンス向上に効果があるのか?
- 飲み会での新型コロナ感染事例の研究結果 国立感染研が客と店員向けに提言
- 会食時に新型コロナに感染した事例の研究結果「斜め向かい着座などがリスクを下げる可能性」国立感染症研究所
- 運動習慣と機能性食品の新型コロナウイルスに対する予防効果をレビュー
- ロックダウン中の免疫能の維持 焦点をアスリートに当てた学際的アプローチ
- SNDJ動画『タンパク質をしっかり摂るレシピ』第2弾【牛肉編】3本を公開しました!
- 新型コロナロックダウン中の10代若者の変化 身体活動量や超加工食品摂取頻度を5カ国で比較
- COVID-19に対する世界の行政府、保健機関の推奨事項をレビュー 食事やサプリメント、母乳育児、食品衛生など
- こばたてるみ先生が登場! SNDJ動画「タンパク質をしっかり摂るレシピ」がスタート
運動・エクササイズ
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査
- 【医療従事者向け】新型コロナウイルス流行下における熱中症対応の手引き 感染症学会など4学会
- 新型コロナによるロックダウンの不安により体重が有意に増加 イタリアからの報告
- マスク着用は熱中症のリスク! 新型コロナ予防と熱中症予防を両立するには?
- 3カ月間の潜水艦任務で体組成はどのように変わるか? COVID-19外出自粛生活に似た環境
- コロナ禍からの脱却 子どものために保護者、学校の指導者は何をすべきか? 中国の取り組み
- 「自宅や屋外で安全に運動するための注意事項」スポーツ庁が新型コロナ対策を公開
- 新型コロナウイルスによる休校・休園・外出自粛が、子どもの生活と外遊びに及ぼす影響
- 新型コロナウイルス感染症で外出自粛中の運動・エクササイズ WHOガイダンス
- 新型コロナウイルスのパンデミック中でも安全に運動する方法 米国心臓協会が提言
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 予防措置を講じた上で定期的な身体活動の維持が大切
アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者
- アスリートの呼吸器感染症の重症度をプロバイオティクスサプリが軽減 メタ解析の結果
- 新型コロナによる東京オリパラ延期に伴うアスリートの心理的苦痛、その考察と介入の提案
- 新型コロナウイルスによるソーシャルディスタンスが記憶力の低下と関連 ブラジルの研究
- 新型コロナウイルス感染症の影響で、未成年長距離ランナーの怪我が適切にケアされていない可能性
- 新型コロナウイルスが未成年アスリートに与えた精神・身体・QOLへの影響 米国で1万3,000人を調査
- コロナ禍からスポーツへの安全な復帰 英国スポーツ運動医学会のガイドライン提案
- 新型コロナウイルスに罹患したアスリートがスポーツへ復帰する際の留意事項 オランダ心臓病学会
- 大学スポーツ協会、新型コロナウイルス対策『大学スポーツ活動再開ガイドライン』を公開
- スポーツイベントや体育施設の再開へ、新型コロナ感染予防ガイドラインの策定が続く スポーツ庁など
- アスリート、指導者らがCOVID-19の外出自粛期間にとるべき戦略とソリューション
- 世界アンチドーピング機構が新型コロナ後のスポーツ再開を見据えたガイダンスを発表
- 新型コロナで自粛中のアスリートからリポート 中井彩子フランス・ロードバイク日記
- アスリートのための新型コロナウイルス感染症対策 予防から発症、チーム対応、練習復帰までを考察
- 新型コロナウイルス禍のスポーツ関連経済支援、問合せ窓口一覧 スポーツ庁
関連記事
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査
- 【医療従事者向け】新型コロナウイルス流行下における熱中症対応の手引き 感染症学会など4学会
- 新型コロナによるロックダウンの不安により体重が有意に増加 イタリアからの報告
- マスク着用は熱中症のリスク! 新型コロナ予防と熱中症予防を両立するには?
- 3カ月間の潜水艦任務で体組成はどのように変わるか? COVID-19外出自粛生活に似た環境
- コロナ禍からの脱却 子どものために保護者、学校の指導者は何をすべきか? 中国の取り組み
- 「自宅や屋外で安全に運動するための注意事項」スポーツ庁が新型コロナ対策を公開
- 新型コロナウイルスによる休校・休園・外出自粛が、子どもの生活と外遊びに及ぼす影響
- 新型コロナウイルス感染症で外出自粛中の運動・エクササイズ WHOガイダンス
- 新型コロナウイルスのパンデミック中でも安全に運動する方法 米国心臓協会が提言
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 予防措置を講じた上で定期的な身体活動の維持が大切
アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者
- アスリートの呼吸器感染症の重症度をプロバイオティクスサプリが軽減 メタ解析の結果
- 新型コロナによる東京オリパラ延期に伴うアスリートの心理的苦痛、その考察と介入の提案
- 新型コロナウイルスによるソーシャルディスタンスが記憶力の低下と関連 ブラジルの研究
- 新型コロナウイルス感染症の影響で、未成年長距離ランナーの怪我が適切にケアされていない可能性
- 新型コロナウイルスが未成年アスリートに与えた精神・身体・QOLへの影響 米国で1万3,000人を調査
- コロナ禍からスポーツへの安全な復帰 英国スポーツ運動医学会のガイドライン提案
- 新型コロナウイルスに罹患したアスリートがスポーツへ復帰する際の留意事項 オランダ心臓病学会
- 大学スポーツ協会、新型コロナウイルス対策『大学スポーツ活動再開ガイドライン』を公開
- スポーツイベントや体育施設の再開へ、新型コロナ感染予防ガイドラインの策定が続く スポーツ庁など
- アスリート、指導者らがCOVID-19の外出自粛期間にとるべき戦略とソリューション
- 世界アンチドーピング機構が新型コロナ後のスポーツ再開を見据えたガイダンスを発表
- 新型コロナで自粛中のアスリートからリポート 中井彩子フランス・ロードバイク日記
- アスリートのための新型コロナウイルス感染症対策 予防から発症、チーム対応、練習復帰までを考察
- 新型コロナウイルス禍のスポーツ関連経済支援、問合せ窓口一覧 スポーツ庁