新型コロナ禍のサッカー無観客試合はアウェーチームに有利? 欧州トップリーグで調査
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、多くのスポーツイベントは無観客で実施されているが、サッカーの無観客試合では、ホームチームのアドバンテージが失われることを示唆する研究結果が報告された。欧州のトップリーグで行われた1,000試合以上の勝敗やファウルを分析したところ、COVID-19パンデミック前のシーズンに比べてホームゲームでは黒星やファウルが多いとのことだ。
ホームアドバンテージの源泉はなにか?
多くのスポーツの試合で、ホームでプレーすることによるアドバンテージが観察されている。そのアドバンテージは、アウェーよりも疲労が少ないこと、ふだんから慣れ親しんでいる環境で試合できること、観客の声援による選手への心理的なプラス効果などによってもたらされると考えられる。また、観客の声援によりレフリーの判定に微妙な影響が生じる可能性も否定できない。
過去のメタ解析からは、ホームアドバンテージが最も強い競技はサッカーであり、次いでラグビー、バスケットボール、テニス、ボクシングが続くと報告されている。ただ、観客がいない状態でホームアドバンテージがどの程度現れるのかという点については、これまで、観客なしで試合が行われる機会が非常に限られていたため、ほとんど研究されていなかった。COVID-19パンデミックによって生じた無観客の状態で1シーズン戦われるという事態は、この点の研究にはまたとない機会となった。
無観客試合ではホームアドバンテージが失われる
この研究は、スペイン、イングランド、ドイツ、イタリア、ロシア、トルコ、オーストリア、チェコで行われた合計1,286試合の勝敗、ファウル、警告(イエローカード)などについて、パンデミック前の2018/19シーズンと、パンデミック以降に無観客またはごく限られた観客数で行われた2019/20シーズンを比較したもの。解析対象としたのは、欧州サッカー連盟(UEFA)の上位15リーグから、COVID-19パンデミックにより試合開催が停止された国を除外した。具体的には、ラ・リーガ(スペイン)、プレミアリーグ(イングランド)、ブンデスリーガ(ドイツ)、セリエA(イタリア)などが含まれている。
合計試合数1,286試合のうち、有観客試合が645試合、無観客試合(ごくわずかな観客での試合を含む)が641試合だった。
勝敗への影響
まず白星の数を比較した結果をみてみよう。
2018/19シーズンにホームチームの白星は310であったのが、2019/20シーズンには255となり、55試合ホームゲームでの勝利を逃していた。これは統計的に有意な違いだった(p<0.01)。一方、アウェーで戦ったチームは、2018/19シーズンの白星が178に対し、2019/20シーズンは231であり、53試合多く勝利していた。こちらも統計的に有意な差が認められた(p<0.01)。
次に勝率を比較すると、2018/19シーズンのホームゲームの勝率は48.1%で、敗戦確率は27.6%、ドローが24.3%であり、白星が黒星より有意に多かった(p<0.001)。ところが2019/20シーズンには、勝率が39.8%、敗戦確率が36.0%、ドローが24.2%となり、白星と黒星の有意差は消失していた。
ホームゲームでの白星はパンデミック後に-8.3%と減少した一方、黒星は+8.4%と増加していた。ドローは-0.2%でほぼ変化がなかった。
ホームアドバンテージを評価する方法としてこれまでに提案されている4種類の手法で検討したところ、すべての手法の解析結果が、無観客となって以降、ホームアドバンテージが失われたことを示していた。
ファウルの回数やレフリーの判定も変化
無観客試合の影響は、ファウル数やレフリーの判定にもみられた。
まず、2018/19シーズンと2019/20シーズンのファウルの絶対数を比較すると、ホームでは+296(+3.7%)増加し、アウェーでは+75(+0.9%)の増加で、ホームチームのほうが有意に多く増えていた(p=0.041)。アウェイチームのシーズン間の増加は有意でなかった(p=0.240)。
また無観客試合では、ホームチームのファウルに対して与えられるイエローカードが+238(+26.2%)と大幅に増加し(p<0.001)、一方でアウェイチームへのイエローカードは+28(+2.8%)とわずかな増加だった。
ホームアドバンテージの源泉は、サポーターによるレフリーへのプレッシャーか
これらの結果を著者らは以下のようにまとめている。
まず、COVID-19パンデミック中のプロのエリートサッカーの無観客試合は、通常の有観客の試合とは趣が大きく異なることが示唆されるとしている。具体的には、第一にファウルに対するイエローカードについて、通常の試合ではレフリーはホームチームを有遇する傾向があるが、無観客試合ではその傾向が消失する。第二に、無観客試合ではホームで戦うアドバンテージ自体が大きく低下する。これら二つの結果に関連性が存在することは明らかと言ってよいだろう。無観客試合ではホームチームのサポーターからのプレッシャーがなくなることが、レフリーの判定に影響を及ぼすものと考えられる。
このことは、とりもなおさず、レフリーが通常の試合では、ホームチームに無意識のアドバンテージを与える可能性があることを示している。我々の研究結果は、レフリーの意思決定に対する観客の影響を最小限に抑えるため、今後のレフリーのトレーニング方法の開発などに生かされるだろう。
文献情報
原題のタイトルは、「No Fans–No Pressure: Referees in Professional Football During the COVID-19 Pandemic」。〔Front Sports Act Living. 2021 Aug 19;3:720488.〕
原文はこちら(Frontiers Media)
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