Twitter投稿の分析から、米国では新型コロナウイルスで人々の食生活が改善した可能性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中の人々の食生活の変化をTwitterの書き込みの分析から明らかにした研究結果が報告された。意外にも、人々の食生活は健康的なものに変化した可能性が浮かび上がったという。また、食料品店の近さや家で過ごす時間の長さなども、このような変化に影響を及ぼしていることがわかった。米国のマサチューセッツ工科大学の研究者らの報告。
Twitterで人々の食行動の変化がわかる
COVID-19のパンデミックで人々の食生活や身体活動習慣が大きく変わったことは、既に数多くの研究論文が報告され指摘されてきている。それらの報告には、非健康的な習慣が強くなったとする報告が多いが、すべてがそうだとは限らず、なかには改善したとする報告もある。今回紹介する論文もその一つだが、この研究はTwitter分析という手法を用いていることも特徴の一つだ。
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Twitter分析では想起バイアスの影響を受けない
最初に、著者が述べている、Twitter分析のメリットについて触れておく。
著者によると、これまでに行われてきている食習慣に関する研究は、研究対象者の食事記録や自己報告に基づくものが主体であり、そのような手法では想起バイアスが生じやすいという。それに対してTwitterの投稿は、人々の考え方や行動に関する自発的な情報をそのまま観察可能であり、その分析には偏りが少なく、パンデミック中の食習慣の潜在的な変化をより正確かつ現実的に把握できるとのことだ。
また、ジオタグと呼ばれる位置情報データ付きの投稿を解析対象とすることで、投稿者がどのような環境にいるときにどのような食事関連のツイートをしたのかという、場所と食関連行動の把握も可能としている。実際、報告された研究論文では、このジオタグのデータを存分に利用し、興味深い結果を示している。
外出自粛で食生活が健康的になった?
この研究には、パンデミック前の2019年5月15日~2020年1月31日と、パンデミック中の2020年5月15日~2021年1月31日のTwitterの投稿が分析に用いられた。分析された投稿数は合計128万2,316件で、すべて位置情報を分析可能なジオタグ付きのツイート。パンデミック前の投稿が全体の63.2%で、パンデミック中の投稿は36.8%だった。
健康的な食品のツイートが増加し、ファストフードなどのツイートは減少
食事について触れられているツイートを、サラダ、りんご、鶏肉、卵、とうもろこしなどの健康的な食品と考えられる単語が使われているものと、ファストフードチェーンやコーヒーチェーンなどの一般にはあまり健康的でないと考えられている単語が使われているもの、および、テキーラ、ビール、ウォッカなどのアルコールに関する単語が使われているものに分類。
これらのカテゴリーごとに、パンデミック前とパンデミック中のツイート数を比べると、最初のカテゴリーの健康的な食品に関するツイートは20.5%増加していた。一方で、二つ目のカテゴリーであるファストフードに関する投稿は9.4%減少し、アルコールに関するツイートも11.4%減少していた。
このような変化から、著者らは、パンデミックに伴うロックダウンと外食店が閉鎖されたことによって、人々が食べ物やアルコールを手に入れる方法が大きく変化し、一部の米国人は健康的な食生活に変わった可能性があるとしている。
居住環境や自宅で過ごす時間の長さも食生活の変化に関連
Twitter分析からわかることは、このような全体的な傾向の変化ばかりではない。ジオタグを活用することで、生活環境と食生活の変化との関係も見てとれる。この研究では、Twitter投稿者が自宅で過ごす時間の長さや、居住環境でのレストラン・食料品店・酒販店・バーの店舗数との関連が解析されている。
自宅で過ごす時間が長いほど健康的な食品のツイートがより増加
まず、健康的な食品に関するツイート数の変化と生活スタイル・環境の関係をみてみよう。
自宅で過ごす時間が、パンデミック前よりも1パーセントポイント長くなるごとに、健康的な食品に関するツイートが約2%有意に増加していた(OR1.019〈95%CI;1.011~1.027〉)。また、人口1万人あたりの食料品店数が1店舗多いごとに、健康的な食品に関するツイートが同じく約2%有意に増加していた(OR1.019〈1.007~1.032〉)。一方、人口1万人あたりのレストランの店舗数は、健康的な食品に関するツイート数にほぼ影響を与えていなかった(OR0.999〈0.0997~1.000〉)。
近所に食料品店が多いほどファストフードのツイートがより減少
次に、ファストフードに関するツイート数の変化と生活スタイル・環境の関係については、検討した三つの指標について、すべて有意な関連が認められた。
自宅で過ごす時間が、パンデミック前よりも1パーセントポイント長くなるごとに、ファストフードに関するツイートが約3%減少(OR0.967〈0.956~0.977〉)、人口1万人あたりの食料品店が1店舗多いごとに同じく約3%減少(OR0.967〈0.949~0.986〉)。また、人口1万人あたりのレストラン数が1店舗多いごとにファストフードに関するツイート数が約1%減少していた(OR0.993〈0.0991~0.995〉)。
近所に酒販店が多いほどアルコールのツイートがより顕著に増加
最後に、アルコールに関するツイート数の変化と生活スタイル・環境の関係については、酒販店の店舗数と有意な関連がみつかり、人口1万人あたりの酒販店数が1店舗多いごとにアルコールに関するツイート数が7%近く増加していた(OR1.066〈1.046~1.087〉)。
一方、人口1万人あたりのバーの店舗数は、アルコールに関するツイート数を1%程度減らすという関連があった(OR0.989〈0.978~1.000〉)。自宅で過ごす時間が増えたことは、アルコールに関するツイート数に全く変化を及ぼしていなかった(OR0.999〈0.993~1.006〉)
健康的でない生活習慣は個人の問題ではない
論文の結論は、「パンデミック中の自宅での時間の増加と食料品店へのアクセスの良さが、健康的な食品の消費を促進した可能性があることがわかった。また、アルコール小売店へのアクセスが良いことは、より多くの飲酒につながった可能性があることを示唆している」とまとめられている。
また、マサチューセッツ工科大学発のリリースの中で、「我々の研究結果は、人々の健康が社会的な要因で決定される可能性を示した既知の研究を裏付けている。食料品店が生鮮食品を手頃な価格で販売したり、地域の食品経済への投資や地域住民の食品へのアクセスを改善するといった行政の取り組みが求められる。健康的でない生活習慣を、そのような個人やコミュニティのせいにすることから、健康を害する政策や構造の問題へとシフトする必要性が強調される」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Diet during the COVID-19 pandemic: An analysis of Twitter data」。〔Patterns (N Y). 2022 Aug 12;3(8):100547〕
原文はこちら(Elsevier)