コロナパンデミックで食生活が健康になった人と不健康になった人の違いは何? 国内6千人の調査
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以来、人々の生活は大きな変化を強いられている。食生活もその一つ。長くなった“おうち時間”を生かして食生活を健康的に変化させた人もいれば、反対に非健康的な食生活になってしまった人もいるだろう。このような差異に関連する因子を検討した研究データが報告された。長野県立大学健康発達学部食健康学科の新保みさ氏らが国内で行った調査結果であり、論文が「Nutrients」に6月14日掲載された。
日本のパンデミック状況下での、日本人の食習慣への影響を調査
COVID-19パンデミックによって人々の食生活が変化したとする研究報告は少なくない。しかし国内発の研究は少なく、また、食生活の変化と関連する因子を検討した研究は海外からの報告も限られている。外出禁止/自粛などの措置の厳格さは国ごとに異なり、さらに食習慣については当然ながらパンデミック以前から国ごとに異なるため、長引く新常態(ニューノーマル)な生活様式で人々の健康的な食生活を維持するための施策検討にあたり、まずは日本国内の状況で日本国民を対象とした調査研究が必要となる。
新保氏らはこのような背景に基づき、以下のオンラインアンケート調査を行った。
20~64歳の成人6,000人対象に、第三波拡大局面で調査
調査を行ったのは、国内でパンデミック第三波が拡大し始めた2020年11月。オンライン調査会社の登録者約3万6,000人に調査協力を呼びかけ、得られた回答から信頼性が低いと判断されたものを除外。年齢と性別を人口構成比に近づけたうえで、無作為に6,000人のデータを抽出した。
解析対象者は、年齢の中央値が45(四分位範囲34~53)歳で、男性が50.7%、BMIは21.5(同19.5~24.1)kg/m2。婚姻状況は43.2%が未婚、51.5%が既婚で、離婚または死別が5.3%だった。
食生活「不変群」、「改善群」、「悪化群」の3群で比較
食生活の変化については、「1年前(2019年11月)と比べて食生活は変化したか」との質問に対する三者択一の回答で把握した。結果は、「変化なし」が71.6%(不変群)、「健康的になった」が20.3%(改善群)、「非健康的になった」が8.2%(悪化群)だった。
この3群について、回答者の背景因子の相違を検討すると、以下のようにさまざまな有意差のある因子が存在していた。
人口統計学的な因子
まず、人口統計学的な因子では、性別(男女比)や居住地(日本を8ブロックに分割して比較)では、回答の傾向に有意差がなかった。その一方、年齢層や婚姻状況、同居者の有無については、分布に有意差が認められた。
例えば、「改善群」と「不変群」では既婚者の割合が最多だったのに対して、「悪化群」は未婚者が最多だった。また、独居者は「悪化群」の該当者が多かった。
社会学的な因子
次に社会学的な因子では、教育歴、世帯年収、および世帯年収の変化の分布に有意差が見られた。具体的に、教育歴については「改善群」で長く、「悪化群」で短い傾向にあった。
世帯年収については、「改善群」では1,000万円以上が最多であるのに対し、「悪化群」では300~400万円が最多、「不変群」は400~500万円が最多だった。またパンデミックに伴う世帯年収の変化にいては、‘減少した’は「悪化群」、‘増加した’は「改善群」、‘変化なし’は「不変群」で、それぞれ最も多く選択されていた。
基礎疾患やBMI、体重変化、ヘルスリテラシー、ストレス
続いて、慢性疾患の有病率を3群で比較すると、高血圧、脂質異常症、脳血管障害、腎不全、COPDの有病率は「不変群」で低かった。糖尿病、心疾患、悪性新生物の有病率は群間に有意差がなかった。
BMIについては、「悪化群」において18.5kg/m2未満および25.0kg/m2以上の割合が他の2群より高いという分布の差が認められた。また、パンデミック中に体重が5%以上減少した人の割合は3群の中で「改善群」が最も多く、反対に体重が5%以上増加した人の割合は「悪化群」が最多であり、体重が変化していない人は「不変群」で最多だった。
ヘルスリテラシーは「改善群」が最も高く、ストレスは「悪化群」が最も高かった。
本人や身近な人のCOVID-19罹患、COVID-19への恐れ
本人がCOVID-19に感染した人の割合、同居家族に感染した人がいる割合、同居していない家族または親族に感染した人がいる割合、および友人に感染した人がいる割合は、いずれも「改善群」が最多であり、「悪化群」「不変群」の順だった。
一方、職場の同僚に感染した人がいる割合は「悪化群」で最も高く、「改善群」「不変群」と続いた。
COVID-19への恐れは「不変群」が他の2群よりも有意に低かった。
運動・喫煙習慣、睡眠時間
運動習慣については3群ともに‘ほとんどしない’が最も多かったが、その割合は「改善群」では35.9%であるのに対して、「悪化群」は62.1%、「不変群」は61.6%であり、運動頻度の分布に有意差があった。また、パンデミック中の運動量の変化については、‘増加した’人は「改善群」が最多、‘減少した’人は「悪化群」が最多、‘変わらない’人は「不変群」で最多だった。
喫煙習慣については3群ともに‘喫煙習慣なし’が最も多かったが、その割合は「不変群」が82.8%であり、「改善群」の78.7%や「悪化群」の79.8%より高かった。
睡眠時間については、「改善群」と「不変群」では6~7時間が最多であるのに対し、「悪化群」は5~6時間が最多だった。また「悪化群」はパンデミック中に睡眠時間が減少した人の割合が29.3%を占め、「改善群」の12.0%や「不変群」の6.9%より高かった。
食生活の変化と関連する因子は?
以上一連の調査項目について、多重ロジスティック回帰分析により、食生活の変化と関連する因子を検討したところ、以下の結果が得られた。
まず、独居は食生活の非健康的に変化に関連していた(OR1.62)。
世帯年収の多さは食生活の健康的な変化に関連し(OR1.08)、パンデミック中の世帯年収の増加も健康的な変化に関連していた(OR1.58)。反対に世帯年収の減少は、非健康的な変化(OR1.53)と健康的な変化(OR1.42)の双方に関連していた。体重の減少も、非健康的な変化(OR2.21)と健康的な変化(OR2.32)の双方に関連していた。ただし体重の増加は非健康的な変化(OR3.11)とのみ関連していた。
職場の同僚にCOVID-19患者が発生したことは非健康的な変化(OR1.88)に関連する一方、友人にCOVID-19患者が発生したことは健康的な変化(OR2.05)に関連していた。ヘルスリテラシーの高さは健康的な変化(OR1.02)、ストレスは非健康的な変化(OR1.05)に関連していた。
このほか、運動頻度や睡眠時間については、それらが増えた場合と減った場合の双方が、健康的な変化と非健康的な変化のいずれにも関連し、COVID-19への恐れも同様に、双方の変化に関連していた。
著者らは、「本研究で得られたこれらの知見を一般化するために、さらなる研究が必要」と述べたうえで、「パンデミックにより生じたニューノーマルな生活様式は今後も続くと考えられる。そのような生活スタイルのもと、人々が健康的な食生活を実践するための施策推進が求められる」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Factors Associated with Dietary Change since the Outbreak of COVID-19 in Japan」。〔Nutrients. 2021 Jun 14;13(6):2039〕
原文はこちら(MDPI)