クルクミンの運動誘発性筋損傷に対する影響のナラティブレビュー
クルクミン摂取の運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)に対する影響をナラティブレビューとしてまとめた論文が報告された。クルクミンがEIMDを軽減すると考えられるがその至適用量の設定は困難だという。
イントロダクション
ウコンに豊富に含まれている天然ポリフェノールのクルクミンは、抗酸化作用と抗炎症作用を有しており、メタボリックシンドローム、関節炎、および癌などに影響を及ぼす可能性が研究されてきている。また近年では運動誘発性筋肉損傷(EIMD)に対する効果の理解に関心が高まっている。
クルクミンは、筋肉痛を軽減し、パフォーマンスを改善するとともに、炎症マーカーを低下させるといった研究結果の報告がみられる。また、クルクミンはCOX-2(シクロオキシゲナーゼ-2)の発現をダウンレギュレートし、プロスタグランジンの放出を抑制して、筋損傷を軽減するように働くことも報告されている。ただし、それらの研究で用いられたクルクミンの量は90mg/日~5g/日と極めて広い範囲に分布しており、至適用量は不明。
著者らはナラティブレビューのため、SCOPUS、Medline(PubMed)、Web of Science(WOS)などの文献データベースを用いて文献を検索。キーワードは、クルクミン、筋肉、運動、炎症、回復、筋損傷、遅発性筋肉痛、酸化ストレス、運動誘発性筋肉損傷(EIMD)、抗酸化物質、運動パフォーマンスなどを設定した。抽出された報告をもとに、クルクミンの代謝経路、サプリメントとして摂取した場合の薬物動態、流通しているサプリの組成、臨床研究で用いられている用量、EIMD・筋肉痛・パフォーマンスへの影響、クレアチンキナーゼ・炎症マーカー・酸化マーカーの変化など、幅広い考察が加えられている。一部を抜粋して紹介する。
運動誘発性筋肉損傷(EIMD)に対するクルクミンの影響
激しいトレーニングはEIMDを誘発することがあり、筋肉痛や筋力の低下を引き起こす。筋肉痛は、運動後24~48時間で増加し、72時間後には減少に転じる。EIMDのマーカーとも言えるクレアチンキナーゼ(CK)は、運動から24時間以降に上昇し、7日程度高値が持続することがある。これに対してクルクミンの摂取は、炎症シグナルカスケードを調節することで、筋肉痛、筋肉のパフォーマンス低下、CKレベルを抑制するように働く。
文献検索で抽出された15件の研究の大半は、身体活動が活発な20~40歳の男性を対象に行われていた。さまざまなプロトコルで実施され評価指標が異なるため、クルクミン摂取の有効性について決定的な結論を得ることは困難だった。
筋肉痛
5件の研究から、クルクミンを運動のタイミングにあわせて摂取すると、筋肉痛が有意に抑制されることが示された。例えば、運動直後に150mgのクルクミン摂取で、トレーニングを行っていない男性の不慣れなスクワット運動の48および72時間後のビジュアルアナログスケール(VAS)スコアが低下したという。トレーニングを行っている対象での研究では、例えば運動後2、3、4日目にクルクミン500mg/日の摂取で、対プラセボよりVASスコアが大きく低下したことが報告されている。
すべての研究が、筋肉痛の軽減におけるクルクミンの明確なメリットを示しているわけではない。例えば、トレーニングを行っている対象での検討では、1,000mgのクルクミンの56日間の摂取で、統計的に有意な筋肉痛の低下は認められなかったという。
筋肉のパフォーマンス
トレーニングを行っていない男性が1日2回(朝食と夕食時)に90mgのクルクミンを7日間摂取すると、プラセボ群と比較して最大随意収縮力や可動域に有意差が生じたという報告がみられる。一方、150mgを1日2回、1日のみ摂取するという条件の研究では、有意な影響はみられなかったという。
クレアチンキナーゼ
クルクミンの摂取により、EIMDのマーカーとしての側面をもつクレアチンキナーゼの低下を報告した研究も複数ある。150mgのクルクミンを集中的な運動後に単回摂取するという研究でも、対プラセボでCK活性の上昇幅が少ないことが示されている。ただし、上昇抑制の程度は、研究間で大きく異なる。この差異は、研究対象者のトレーニング状況、運動プロトコル、摂取タイミングなどによるものと考えられる。
炎症マーカー、酸化マーカー
腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症マーカーに対するクルクミン摂取の影響も複数の報告があるが、それらの結果は一貫性を欠いている。
酸化マーカーに関する検討については、トレーニングを行っていない集団での検討ではクルクミン摂取による有意な上昇抑制が報告され、トレーニングを行っている集団では非有意となる傾向がみられた。これは、トレーニングを行っている集団では、研究条件の運動負荷がEIMDの誘発に十分でなかったことが結果に影響を及ぼした可能性も考えられる。
至適用量の決定などにはさらに多くの研究が必要
クルクミンは、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が低く、用量反応性の検討が難しい面がある。しかし近年、ナノ粒子、ミセル化などの技術により、バイオアベイラビリティを向上させた製品がみられるようになった。
クルクミン摂取は、トレーニングを行っていない対象ではEIMDの抑制に有効であり、運動直後または少なくとも24時間以内の摂取が推奨される。また、トレーニングを行っている対象でも、CKの上昇抑制などのメリットが認められる。ただし、至適用量や摂取タイミングなどは明らかでなく、今後の研究が求められる。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of curcumin supplementation on exercise-induced muscle damage: a narrative review」。〔Eur J Nutr (IF: 5.61; Q1). 2022 Jul 13〕
原文はこちら(Springer Nature)