親の食品リテラシーにより、コロナで学校閉鎖中の子どもの食事の質に差が生じていた
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック発生に伴う学校閉鎖期間中の子どもたちの食事の質の変化を、保護者の食品リテラシーと関連づけて検討した研究結果が報告された。新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科の堀川千嘉氏らによるもので、「Appetite」に論文が掲載された。食品リテラシーが高い保護者の子どもは、学校閉鎖に伴う食事の質の低下が軽微だったという。
学校閉鎖による子どもたちの食事への影響を全国規模で調査
学校給食は、日本の子どもたちの栄養改善に長く貢献してきており、海外からも高く評価されている。2018年度には、小学生の99.1%、中学生の88.9%が給食を利用していたと報告されている。つまり、保護者にとっても、平日の子どもの昼食は支度しなくてよい状態が、当たり前のように続いていた。ところが2020年初頭にCOVID-19パンデミックが発生し、4月16日~5月6日の間、学校閉鎖の措置がとられた。保護者にとっては予定外とも言える、食事の支度の必要性が発生した。
個人の栄養摂取状況は、食事の支度をする人の食品リテラシーと関連があると報告されている。よって学校閉鎖期間中の子どもたちの食事の質が、保護者の食品リテラシーの影響を受けていた可能性が考えられる。堀川氏らはこの点を全国規模の横断研究により検討した。
全国を8ブロックに分け、各ブロックから無作為に6~7市町村、計50の自治体を選択。住民登録データを用いて小学5年生または中学2年生のいる家庭を、各自治体から各30世帯、総計で3,000世帯を無作為に抽出し、保護者あてにアンケートの協力を依頼した。なお、回答協力者には600円相当のギフトカードを送付した。
3,000世帯中1,551世帯(51.7%)が回答に同意してアンケートを返送。回答内容が不完全なものを除く1,107世帯(全体の36.9%)の回答を解析対象とした。
食品リテラシーに関する7項目の質問、各5点のリッカートスコアで評価
アンケートでは、食品リテラシーを評価するための9項目の質問が含まれていた。例えば、「栄養バランスのとれた食事とは?」「主食、主菜、副菜とは?」「料理の際に新鮮な食材を5品目以上使っているか?」など。それらの回答を1~5点のリッカートスコアで評価。探索的因子分析により、9項目の質問のうち2問を除く7問を、「知識」「スキル」「姿勢」という三つの要素に分類可能と判断され、合計35点のスコアで食品リテラシーを評価した。
このスコアの四分位で全体を4群に分け、子どもの食事の量や質との関連を検討した。なお、第1四分位群(食品リテラシーが最も低い下位4分の1)のスコアは21点以下であり、第2四分位群のスコアは22~25点、第3四分位群は26~29点、第4四分位群(リテラシーが最も高い上位4分の1)は30点以上だった。
子どもの食事の評価方法
子どもの食事については、アンケートの回答に基づき、「牛乳・乳製品」「肉、魚、または卵」「野菜」「果物」を「積極的に摂取すべき食品」、それら以外は「控えるべき食品」として分類。積極的に摂取すべき食品とされる食材をそれぞれ1日に2回以上摂取している場合を「バランスのとれた食事」と定義し、学校閉鎖の前、閉鎖中、閉鎖解除後という三つの期間ごとに、その該当率を評価した。
また、「学校閉鎖期間中の食事の支度時間は閉鎖前より減ったか?」「支度時間が増えた?」「支度をする精神的な余裕は?」といった質問によって、食事の支度に関する負担を把握した。
その他、交絡因子として、世帯人員、世帯収入、保護者の教育歴などを把握した。
学校閉鎖は子どもの食事に影響を与えたが、保護者のリテラシーが保護的に作用
解析対象の子どもは世帯数と同じ1,107人であり、男児49.0%、平均BMIは18.6±3.1だった。
学校閉鎖中は保護者の食品リテラシーにかかわらず、子どもの食事の質が低下
学校閉鎖の前・最中・解除後の子どもの食事の変化をみてみると、学校閉鎖期間中は、保護者の食品リテラシーの高低にかかわらず(すべての四分位群で)、積極的に摂取すべき食品の摂取量が有意に減少していた。一方で、控えるべき食品の摂取量は、保護者の食品リテラシーの高低にかかわらず有意に増加していた。ただし、学校閉鎖解除後は、閉鎖前と有意差のないレベルに回復していた。
食品リテラシーの高い保護者の子どもは食事の質の低下幅が少ない
「バランスのとれた食事」に該当する子どもの割合をみると、保護者の食品リテラシーの第1四分位群では、学校閉鎖の前に77.7%だったものが閉鎖中は51.8%に低下し、解除後は80.7%に回復した。子どもの性別と年齢、BMI、世帯人員あたりの世帯収入、父親と母親の教育歴の影響を調整すると、閉鎖前から閉鎖中の相対リスク増加率(relative risk increases;RRI)は、-40.6%(95%CI;-41.4~-39.8)だった。
一方、保護者の食品リテラシーの第4四分位群の「バランスのとれた食事」に該当する子どもは、学校閉鎖の前が99.3%、閉鎖中は85.2%、解除後は97.4%であり、閉鎖前から食事の質が高い子どもが多く、かつ、学校閉鎖に伴う影響もRRI-15.3%(同-16.0~-14.7)と、小幅に抑えられていた。
なお、第2四分位群は、学校閉鎖の前に87.4%の子どもが「バランスのとれた食事」に該当し、学校閉鎖に伴うRRIは-34.0%(―34.7~―33.3)であり、第3四分位群は同順に97.1%、RRI-13.1%(―13.8~―12.4)だった。
このほか、食品リテラシーが低い保護者は、学校閉鎖期間中に食事の支度時間が短くなったり、精神的負担が増加したり、経済的余裕がなくなる傾向が認められた。これらが、子どもの食事の質の低下につながったと考えられた。
学校給食の重要性を再確認できる研究結果
以上の結果から著者らは、「保護者の食品リテラシーは、COVID-19パンデミックに伴う学校閉鎖期間中の子どもの食事の質に関連していた」と結論づけたうえで、「この結果は学校給食の意義を浮き彫りにしている。学校給食は子どもたち、とくに食品リテラシーの低い保護者の子どもにとって重要」と述べている。また、「子どもたちが十分な食物と栄養素を摂取可能とするためには、保護者の食品リテラシーを向上するための教育と環境を提供する必要がある」と提言している。
文献情報
原題のタイトルは、「Japanese school children's intake of selected food groups and meal quality due to differences in guardian's literacy of meal preparation for children during the COVID-19 pandemic」。〔Appetite. 2022 Jul 31;106186〕
原文はこちら(Elsevier)