日本人高齢者の女性では身体活動量が多いほどロコモになりにくく、男性ではその傾向が認められなった
日本人高齢一般住民を対象に、身体活動習慣とロコモティブシンドロームの関連を調べた研究結果が報告された。女性では、1日の中高強度運動の時間が28分以上の場合に、ロコモに該当するオッズ比の有意な低下が認められたという。東京電機大学未来科学部の石原美彦氏や順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の町田修一氏らの研究グループによるもので、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に論文が掲載された。
ロコモと身体活動量の関連は? 予防につながる閾値はある?
ロコモティブシンドローム(ロコモ)は、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」であり、生活活動や社会活動が低下し、要介護リスクが上昇するため、予防や早期発見による対処が求められる。身体活動量が少ないことは当然、ロコモのリスクを高めると考えられるが、これまでのところ十分には検討されておらず、ロコモ予防に必要な身体活動量も明らかになっていない。
これを背景に町田氏らは、三軸加速度計を用いて地域高齢者の身体活動量を把握し、ロコモとの関連を検討した。研究の仮説は、「ロコモに該当する高齢の男性および女性は、ロコモでない高齢者に比較して日々の身体活動量が少なく、中高強度身体活動は高齢者のロコモ該当者率と関連がある」というものだった。
地域在住高齢者80人を対象に横断的な検討
研究参加者は、千葉県北西部(印西市、佐倉市、酒々井市、成田市、富里市)から、コミュニティーや公共施設で配布・掲示されたチラシやポスターを通じて募集された。143名の高齢一般住民が説明会に参加。筋骨格系の疾患がある人、中強度以上の身体活動に制限のある人、レジスタンストレーニングやサイクリングなどの運動を継続的に行っている人、60歳未満または80歳以上の人などを除外し、最終的に80人(男性と女性が各40人)が参加した。
参加者には、手首に着用するリストバンドタイプの三軸加速度計を9〜14日間、入浴と睡眠時を除いて連続使用してもらった。その記録を基に、1.1METsを「安静」、1.1~1.4METsを「座位行動」、1.5~2.9METsを「立位行動」、3.0~5.9METsを「中強度運動」、6METs以上を「高強度運動」と定義して、それぞれの時間を把握。安静と座位行動の合計を「RSB(resting and sitting behaviors)」、中強度運動と高強度運動の合計を「MVPA(moderate to vigorous physical activity)」として、ロコモとの関連を検討した。
ロコモの該当/非該当は、日本整形外科学会の定義に基づき、3種類のテスト[立ち上がりテスト(10~40cmの高さの椅子から、片足または両足で立ち上がる)、2ステップテスト(できるだけ大股で2歩、バランスを崩さずに歩く)、およびロコモ25(25項目の質問)]の結果から判定した。
このほか、生体インピーダンス法により体組成を把握したほか、膝伸筋の筋力を測定した。
女性のみ、身体活動量がロコモに対して影響を及ぼす可能性
ロコモの該当者率は51.3%(男性50.0%、女性52.5%)だった。
性別毎にロコモ群、非ロコモ群を比較すると、年齢については、男性は有意差がなく、女性はロコモ群のほうが有意に高齢だった。BMIや骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)は男女ともに有意差がなく、体脂肪率は女性のみロコモ群で有意に高値、体重あたりの膝伸筋力(knee strength/body weight;KE-WBI)は男女ともにロコモ群が有意に低値だった。
歩数、安静と座位行動の時間、中高強度身体活動の時間とロコモとの関係
次に、身体活動量(1日の歩数、RSB〈安静と座位行動〉の時間、MVPA〈中~高強度身体活動〉の時間)と、ロコモとの関連を性別にみると、男性についてはいずれも有意な関連性が認められなかった。一方、女性については以下に記すように、いずれもロコモと有意な関連が認められた。歩数は非ロコモ群が6,829±2,390歩、ロコモ群が4,905±2,321歩(p<0.01,効果量〈d〉=0.82)、RSBは同順に1,008.4±78.1分、1,065.3±80.7分(p<0.05,d=0.72)、MVPAは40.7±18.0分、22.6±12.2分(p<0.01,d=1.19)。
ロコモの判定に用いた、立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25の結果、および体重あたりの膝伸筋力(KE-WBI)と、身体活動量の相関を検討すると、男性についてはいずれも有意な相関が認められなかった。一方、女性では、RSBの時間が短いほど立ち上がりテストが良好という逆相関(r=-0.35,p=0.04)、MVPAの時間が長いほどKE-WBIが強いという正相関が認められた(r=0.39,p=0.02)。歩数については女性も、いずれのロコモ関連指標とも有意な関連がなかった。また、2ステップテストとロコモ25の結果は、すべての身体活動指標と有意な関連がなかった。
女性では中高強度身体活動時間が28分以上でロコモのオッズ比が有意に低値
続いて、男性・女性ごとに、歩数およびRSB・MVPAの時間の中央値で二分。年齢を調整したうえで、ロコモに該当するオッズ比を算出した。その結果、男性については前記の一連の検討の結果と同様に、やはり、歩数、RSB、MVPAの多寡によるオッズ比の有意な差は認められなかった。
一方、女性はMVPAの高値群(28分/日以上)ではオッズ比 0.12(95%CI;0.02~0.59,p=0.009〈二項ロジスティック回帰分析〉)と、有意なオッズ比の低下が認められた。また、歩数についても高値群(5,512歩/日以上)では、オッズ比 0.28(95%CI;0.07~1.15,p=0.076)で有意水準には至らないながら、オッズ比が低下する傾向にあった。他方、RSBの時間が長いこと(1,032分/日以上)によるオッズ比の上昇は認められなかった(オッズ比 1.64〈95%CI;0.42~6.35〉,p=0.477)。
ロコモの判定基準が性差に影響?
著者らは本研究を、地域在住男女高齢者を対象に三軸加速度計を用いて身体活動量を把握しロコモティブシンドロームとの関連を検討した初の研究と位置づけている。結論は、「女性でMVPAの時間が長い高齢者はロコモティブシンドロームの該当率が低く、男性ではこの関連がみられなかった。ロコモと日々の身体活動量との関連には性差が存在していると考えられ、女性においてはMVPAがロコモ予防につながる可能性がある」とまとめられている。
なお、男性では身体活動量とロコモとの間に有意な関連が認められないという結果について、「本研究は横断研究でありメカニズムは不明」としたうえで、既報論文を基に以下のような考察を加えている。まず、ロコモ判定のための立ち上がりテストは高身長では過小評価されやすいため、男性では女性に比べて日常の身体活動量にかかわりなく、ロコモ判定がなされている可能性があるという。また、日常の身体活動で鍛えられる筋力とロコモの判定で評価する筋力が、必ずしも一致しているとは限らないのではないかとも付け加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between Daily Physical Activity and Locomotive Syndrome in Community-Dwelling Japanese Older Adults: A Cross-Sectional Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Jul 3;19(13):8164〕
原文はこちら(MDPI)