集中力は「息を吸う瞬間」に低下することが示される 運動パフォーマンスにも影響する可能性
集中力や注意力は、息を吸うタイミングで低下する可能性が報告された。兵庫医科大学の研究グループの研究によるもので、「Cerebral Cortex Communications」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。男女計25人を対象とするfMRIを用いた研究の結果、明らかになった
研究概要:息の吸い方でスポーツパフォーマンスを変えられる?
同研究グループではこれまでに、認知機能低下の原因の一つが‘呼吸’であることを見いだしていた。今回はさらに、「息を吸う瞬間に、脳の中ではどのようなことが起こっているのか」を調べた。ヒトの脳活動を経時的に3D撮像することのできるfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた結果、息を吸う瞬間に、脳内では記憶力そのものよりも、集中力が散漫になっていることがわかった。
これにより、ヒトは息を吸う瞬間に集中力・注意力が途切れてしまい、その結果、記憶力の低下、さらには判断力低下など、さまざまな認知機能の低下を引き起こすことが考えられる。今後、記憶力や認知力を向上させる取り組みとして、呼吸をうまく主導することで、集中力や注意力を改善し、最終的に、日常生活や仕事、勉強だけでなく、スポーツや車の運転など、あらゆる分野でのパフォーマンスの向上に役立つことが期待される。
研究背景
呼吸は人々が生活する上で最も基本的な活動の一つ。呼吸のリズムやその位相の違いは、身体や脳にさまざまな影響を及ぼすことが知られている。とくに、外部からの感覚情報を獲得したり、自発的な運動を行った場合、呼吸位相は「大脳皮質活動に伴って、ある特定のタイミングで調節されること」が知られている。
研究グループでは既に、記憶想起を吸息開始(息を吸う瞬間。EI転移期)にかけて行うと、パフォーマンスの低下が引き起こされることを明らかにしている。そして今回、「記憶想起におけるEI転移期と脳活動の関係性」を明らかにするために、ヒト脳活動を経時的に3D撮像できるfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて実験に取り組んだ。
研究手法と成果
この研究の対象は、25名の健常な男女。fMRI計測の際に呼吸圧センサーカニューレを鼻に装着し、気流量の変化を同時計測した。
被験者は、連続的に提示される形状、色、数、位置の情報を併せ持った4つの図形画像を記憶した後、10回提示されるテスト用の図形画像について、「記憶したものと同じ画像が提示されたかどうか」をボタンを押して回答するという、「見本合わせ再認記憶課題」を実施(図A)。その間のfMRI画像データは、大脳皮質CO2変動や呼吸パターンの影響を受けるため、プログラム処理によりそれらのノイズを除去した。
その結果、記憶想起の際にEI転移期が入り込むと、右側頭頭頂接合部(TPJa)、右中前頭回(MFG)、背内側前頭前皮質(dmPFC)で活動が低下したが(図B、C)、記憶獲得や記憶固定のときよりも有意に高い値を示した。
これらの脳領域に関わる機能から、EI転移期は「記憶そのものというよりもAlertness(覚醒)やAttention(注意力)などの情報処理に作用すること」が考えられる。これらの結果が示しているのは、呼吸のタイミングとこれらの脳ネットワークの協調がカギとなり、それが脳機能を制御し、結果としてパフォーマンスに影響を及ぼすことが示唆された。
今後の展望
今回の研究では、息を吸う瞬間に、脳の中では、記憶力そのものよりも集中力が散漫になっていることが明らかになった。研究グループでは、「今後、記憶力や認知力を向上させる取り組みとして、集中力を高めるためのより効果的な呼吸法について明らかにしていきたい」と述べている。
関連情報
集中力低下は「息を吸う瞬間」と関係していることが明らかに(兵庫医科大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Respiration-timing-dependent changes in activation of neural substrates during cognitive processes」。〔Cereb Cortex Commun. 2022 Sep 13;3(4):tgac038〕
原文はこちら(Oxford University Press)