五輪出場トライアスリートの栄養戦略を分析 大会前のテーパリングと炭水化物摂取戦略
オリンピックに出場経験のあるトライアスロン選手が採用していたテーパリングやグリコーゲン超回復、競技中の炭水化物摂取の戦略を調査した、ブラジルの研究者による研究結果が報告された。競技中の炭水化物の摂取量は、大半の選手が推奨値未満であったことなどが示されている。
テーパリングとは
レースにベストの状態へと導くには?(大塚製薬)オリンピックレベルのトライアスリートの大会前の準備や競技中の炭水化物摂取は?
この研究のための調査は、オリンピックのトライアスロンに出場経験のあるアスリートを対象として、オンラインアンケートとして実施された。適格基準は、上記に該当する18歳以上の選手で、ポルトガル語の質問項目を理解できること。
89人が回答し、このうち競技歴がトライアスロンでない(デュアスロンやアイアンマンなど)選手などを除外し、72人(男性84.7%)を解析対象とした。アンケートでの質問項目は、競技歴に関するものと、大会参加前に行うテーパリング、グリコーゲンローディング(超回復)、および競技中の炭水化物やサプリメントの摂取状況、消化器症状についてであり、すべて自己申告の回答を解析に用いた。
大会週間前はトレーニング時間を6割強程度にテーパリング
解析対象者の主な特徴は、男性、女性の順に、年齢38.9±9.4、30.2±7.7歳、トライアスロン歴4.12±4.70、3.44±3.20年であり、これらは性別間に有意差がなかった。日常のトレーニング時間は、14.14±4.06、17.79±2.52時/週で女性選手のほうが有意に長く、また大会参加前1週間のトレーニング時間も9.03±2.64、11.29±2.85時/週で女性選手のほうが有意に長かった。
女性選手の大半(90.9%)は、スポーツ栄養に関する専門家のアドバイスを受けていた。その一方、男性選手でのその割合は57.8%だった(スポーツ栄養士が55.7%、医師が1.6%)。
日常のトレーニング時間に対する大会参加前1週間のトレーニング時間の比は、63.7±17.6、64.1±15.8%であり、男性、女性ともにトレーニング時間を6割強程度に減らしていた。この比率に関しては性別間の有意差はなかった。
グリコーゲン超回復は半数弱が実行し、その大半は変法によるもの
大会前のグリコーゲン超回復戦略は、48.6%の選手が行ったと報告し、残りの51.4%は大会日まで日常の食事を続けたと回答した。
グリコーゲン超回復戦略は、以下の3パターンに分類される。
「古典的(classical)モデル」は、大会の6~4日前までの炭水化物を通常より抑え(筋グリコーゲン枯渇誘発)、大会の3日前からは炭水化物摂取量を通常よりも増やす方法。「更新(updated)モデル」は、古典的モデルのデメリットである、筋グリコーゲン枯渇誘発中に疲労が蓄積しやすいという負の影響を避けるためにそれを行わず、大会の3日前から炭水化物摂取量を増やすという方法。「改変(modified)モデル」は、やはり筋グリコーゲン枯渇誘発を行わずに、競技の24時間前以降のみ炭水化物摂取量を増やすという方法。
本研究の解析対象者では、更新(updated)モデルを行っていた選手が27.8%、改変(modified)モデルが18.0%であり、古典的(classical)モデルは2.8%にすぎなかった。
なお、栄養士に指導を受けていたアスリート(45人)のうち、グリコーゲン超回復戦略を実行していたのは57.7%だった。
競技中に60g/時以上の炭水化物サプリを摂取していたのはわずか2人
86.1%の選手は、競技中に炭水化物サプリメントを摂取していた。摂取量の平均は58.3±37.6gであり、競技時間は161±25分であったため、1時間あたりの炭水化物摂取量は22.1±14.9g/時と計算された。2時間以上の持久系競技で推奨される、60g/時以上の炭水化物サプリを摂取した選手は2人だけだった。
なお、栄養士に指導を受けていたアスリート(45人)の86.66%が、競技中に炭水化物サプリを摂取していた。
炭水化物サプリ以外のサプリの摂取状況
競技前に摂取したサプリは、カフェイン36.1%、β-アラニン33.3%、タウリン25.0%が多く、重炭酸ナトリウムが1.3%だった。一方、競技中に摂取したサプリは、カフェイン27.8%、タウリン9.7%が多く、β-アラニン、クレアチン、重炭酸ナトリウムなどがそれぞれ1.3%だった。
大半の選手が競技前・競技中に、複数のサプリを摂取していた。
五輪出場レベルのトライアスロン選手は推奨を認識していない、または採用していない
本研究の主な結果は、以下の4点にまとめられる。
1)トライアスリートの半数弱(48.6%)が競技前にグリコーゲン超回復戦略を採用しており、更新(updated)モデルまたは改変(modified)モデルを採り入れていた。2)大半のトライアスリートは、競技中に約20g/時程度の炭水化物補給戦略を採用していた。3)グリコーゲン超回復または競技中の補給戦略を採用したほとんどのトライアスリートが栄養士のアドバイスを受けていたが、1人は医師のアドバイスを受けていた。4)栄養士の指導を受けているトライアスリートは男性より女性に多かった。
この結果を基に論文は、「古典的(classical)モデルのグリコーゲン超回復を行ったトライアスリートはほとんどおらず、さらに、競技中に補給していた炭水化物の量も不十分だった。トライアスリートは栄養に関する推奨事項を十分に認識していなかったか、認識したうえでそれを採用していなかったと結論づけられる」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Self-reported carbohydrate supercompensation and supplementation strategies adopted by Olympic triathlon athletes」。〔Braz J Med Biol Res. 2025 Feb 3:58:e14189〕
原文はこちら(SciELO)