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計量直前の急速な減量により男性格闘技選手の怪我リスクが増加 減量にはスポーツ栄養士ら専門家の指導が重要

計量前の急速な減量が、男性格闘技選手の怪我のリスクと関連があることが報告された。計量の24時間前からの減量幅が1パーセントポイント多いごとに、試合後7日以内に怪我を報告する確率が約1.2倍上昇するという。オーストラリアからの報告。

計量直前の急速な減量により男性格闘技選手の怪我リスクが増加 減量にはスポーツ栄養士ら専門家の指導が重要

急速な減量のパフォーマンスへのプラス作用は不確か。一方で怪我のリスクとなる可能性

格闘技アスリートの多くが、有利な条件で試合を行うために、計量前に急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行っている。ただ、RWLが試合の勝利に結びつくとするエビデンスは乏しく、一方で脱水のリスクを高めたり、ジュニア期では成長の遅延という影響が生じ得ることが報告されている。さらに、試合中のケガのリスクを押し上げる可能性も示唆されている。ただし、本論文の著者によると、RWLと怪我のリスクとの関連については柔道やレスリング、テコンドーでは報告があるが、総合格闘技では調査されていないという。

総合格闘技とムエタイ選手の試合後の怪我の有無と、RWLやRWGとの関連を検討

この研究は、西オーストラリア州で開催された格闘技大会(15件はムエタイ、9件は総合格闘技)の参加選手を対象とするオンラインアンケートとして実施された。各イベントの主催者、コーチ、ソーシャルメディアを通じて、メールや電話などで選手に回答協力を呼び掛けた。対象は、西オーストラリア州格闘技委員会(Western Australia Combat Sports Commission)の公式試合、24試合のいずれかに参加した選手として、18歳以上であることと、アンケートの回答に必要な英語の能力があることを条件とし、プロかアマチュアかは問わなかった。

各イベントの5~7日後にアンケートへの回答を依頼。質問内容は、試合前7日間での減量幅、試合前日の計量の24時間前からの減量幅、および試合後7日間の怪我の有無。これに、選手登録情報にある体重の情報や、試合前2度目の計量時の体重のデータを解析に用いた。

なお、試合前の計量は2度行われ、試合開始時刻の24時間前の計量で規定の体重をクリアしていることを確認し(この時点での計量は1回のみ)、2度目の計量は試合開始の2時間前に実施され、この時点では体重要件を満たす必要はなかった。

試合後の怪我の報告の有無で二分した比較では、RWLの幅に有意差なし

14カ月の調査期間中に開催された24件の大会の参加者155人、215件の回答を得られた。試合に複数回参加した選手は最初の試合のみのデータに該当する155件のうち、31人は試合後にトレーニングを行っておらず怪我の状態が不明と判断され、残った124件を試合後の怪我の報告の有無で二分して比較。

すると、試合前7日間での急速な減量(RWL)の幅、計量前24時間でのRWLの幅、および計量後から試合までの急速な増量(rapid weight gain;RWG)は、試合後の怪我の報告状況に有意差はなかった。この結果は、性別に解析しても同様だった。

なお、試合の結果については、男性選手では怪我なしの場合は勝率が50%、怪我ありの場合は35%、女性は同順に63%、73%だった。

また、急速な減量(RWL)と、計量後から試合までの急速な増量(RWG)の状況は、男性選手は7日間でのRWLは-6.1±3.2%、24時間では-3.0±1.9%、RWGは5.7±3.3%、試合時点で減量がどの程度回復していたかを表す「RWGのRWLに対する比(RWG/RWL比)」は91%だった。女性選手は7日間でのRWLは-4.9±3.4%、24時間では-2.6±2.1%、RWGは5.8±3.3%、RWG/RWL比は112%だった。

男性選手では計量前24時間での減量と計量後の増量が怪我のリスクに相関

次に、ロジスティック回帰モデルによる検討を実施。この解析の対象は、215件の回答から試合後にトレーニングを行っておらず怪我の状態が不明だった43件を除外した175件とした。解析の結果、年齢は試合後に怪我を報告する有意な関連因子であるほかに(1歳高齢であるごとにオッズ比1.07)、試合前の急速な減量(RWL)および急速な増量(RWG)と、以下のような関連が認められた。

急速な減量(RWL)との関連

試合前7日間でのRWLが1パーセントポイント多いごとに、試合後7日間に怪我を報告することのオッズ比が、女性選手は0.92(95%CI;0.80~1.06)、男性選手は1.07(0.94~1.18)で、性別にかかわらす有意な関連はなかった。一方、計量前24時間でのRWLが1パーセントポイント多いごとに、試合後7日間に怪我を報告することのオッズ比が、女性選手は0.86(0.68~1.10)でやはり有意な関連がなかったが、男性選手は1.19(1.00~1.42)であり、19%増えるという有意な関連が認められた。

急速な増量(RWG)との関連

計量から試合までの間のRWGが1パーセントポイント多いごとに、試合後7日間に怪我を報告することのオッズ比が、女性選手は0.98(0.86~1.11)で有意な関連がなかったが、男性選手は1.13(1.01~1.26)であり、13%増えるという有意な関連が認められた。

選手寿命を重視するならRWLに際してスポーツ栄養士の介入を

以上に基づき論文の結論は、「計量前24時間でより大きく減量した男性格闘技選手は、試合後7日間に怪我を報告する可能性が高い。アスリートとコーチは、選手の成功とキャリアのために、スポーツ栄養士などの栄養の専門家のアドバイスを求める必要がある」と述べられている。

また、本研究ではRWLとRWGは強く相関するものの、RWGの変動の43~55%はRWLでは説明できないことも明らかになった。RWGの変動の残りの半分は何が規定しているのかは現時点で不明であり、今後の研究が必要としている。

文献情報

原題のタイトルは、「Is there a relationship between rapid weight changes and self-reported injury in combat sports athletes? A 14-month study of 24 combat sports events」。〔J Sci Med Sport. 2025 Jan 22:S1440-2440(25)00007-6〕
原文はこちら(Elsevier)

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