月経に関連する困難症状の重症度に影響する要因は運動習慣によって異なる
月経に関連する困難症状(月経随伴症状)について、運動習慣のない若年女性と運動習慣のある若年女性とで比較検討した結果、症状関連要因が両群間で異なる可能性のあることが明らかになった。筑波大学体育系の中田由夫氏、順天堂大学スポーツ健康科学部の町田修一氏、日本女子体育大学体育学部健康スポーツ学科の夏井裕明氏らの研究によるもので、「BMC Women's Health」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、「個人の生活習慣などに応じた対策の必要性が示唆される」としている。
研究の概要:月経随伴症状の重症度と関連のある因子をWebアンケート調査
月経困難症や月経前症候群などの月経随伴症状は、若年女性の約90%が経験し、日常生活にも影響を及ぼすことが知られている。これらの症状への対策が求められているが、これまで有効な対策の構築には至っていない。
この研究では、日常的に運動を行っていない若年女性(運動習慣のない若年女性)99人と、定期的に運動を行っている女子サッカー選手(運動習慣のある若年女性)125人を対象に、症状の重症度と個人特性、生活習慣等に関するWebアンケート調査を実施し、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因を運動習慣の有無によって比較した。
その結果、運動習慣のない若年女性では月経日数やストレスが影響していたのに対し、運動習慣のある若年女性では、ボディーマス指数(BMI)、就寝時間、カフェインの摂取、朝食の摂取状況が影響していることがわかった。以上のことから、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因は運動習慣の有無によって異なる可能性があり、個人の生活習慣などに応じた適切な対策の必要性が示唆された。
本研究の知見は、症状の軽減、さらには女性の健康支援や生活の質の向上に貢献することが期待される。
研究の背景:アスリートと非アスリートで、月経随伴症状関連因子は異なるか?
月経困難症や月経前症候群などを含む月経随伴症状※1は、月経を有する女性の約90%が経験する症状。重度の症状を有する場合は、学校や仕事を欠席せざるを得ないなど、日常生活にも影響を与え、若年女性の生活の質を揺るがしかねない。また、経済産業省(働く女性の健康推進に関する実態調査 2018)によると、月経随伴症状による年間の社会的負担は6,828億円と推定されており、重大な社会的課題であることから、対策の必要性が示されている。
※1 月経随伴症状:月経に伴い発現する身体的・精神的な症状の総称。
これまで、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因についての検討は多く行われているが、その多くが運動習慣のない女性を対象とした研究であり、運動習慣を有する女性アスリートを対象とした研究はほとんどなかった。女性アスリートにおいても、運動習慣のない女性と同様に月経随伴症状の発現が認められており、競技パフォーマンスへの影響も懸念されている。一方で、月経随伴症状の重症度には身体活動が関連するといった報告もあることから、運動習慣のない女性の研究結果を女性アスリートに適応できるのか否かは明らかではない。
そこで、本研究では、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因を運動習慣の有無によって比較検討した。
研究内容と成果:共通の因子が認められず、両者で大きく異なるという結果
2022年6月から8月にかけ、日常的に運動を行っていない若年女性(運動習慣のない若年女性)と、大学の部活動などに所属し定期的に運動を行う女子サッカー選手(運動習慣のある若年女性)を対象として、月経随伴症状の重症度と個人特性、生活習慣についてのWebアンケート調査を実施した。この調査において、月経随伴症状の重症度は、先行研究(Mitsuhashi et al, 2023)において報告されている16の症状それぞれの月経前と月経中の重症度を0〜3で評価した。また、個人特性としては、身長や体重、初経年齢や月経の日数などを調査し、生活習慣としては、食習慣、睡眠状況、身体活動量、ストレス状況を調査した。
回答者428人(運動習慣のない女性192人、運動習慣のある女性236人)のうち、データ欠損等があった198人を除外した224人(運動習慣のない女性99人、運動習慣のある女性125人)のデータを使用し、ロジスティック回帰分析※2を用いて月経随伴症状の重症度に影響を与える要因を検討した(表1)。
※2 ロジスティック回帰分析:複数の要因(説明変数)に基づいて、特定の事象が発生する確率(目的変数)を予測する統計手法。
表1 ロジスティック回帰分析の結果

BMI:Body Mass Index、METs:Metabolic equivalents、*:p<0.05(統計的に有意)。
その結果、運動習慣のない若年女性では、重度の症状を有することと月経日数が長いこと、ストレスレベルが高いことに関連が認められた。一方、運動習慣のある若年女性では、重度の症状を有することとBMIが高いこと、就寝時間が遅いこと、月経随伴症状を有している、または有する家族がいること、カフェインの摂取があること、週あたりの朝食摂取頻度が少ないことが関連していることが明らかになった。
以上のことから、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因は、運動習慣の有無によって異なる可能性が示唆された。
今後の展開:症状軽減関連因子の探索
本研究により、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因は運動習慣の有無によって異なる可能性があり、さらに生活習慣などの個人の特徴に応じた対策の必要性が示唆された。著者らは、「今後さらに、本研究で月経随伴症状との関連が認められた項目を改善することで症状が軽減されるか、また、症状が軽減されることで生活の質は向上するのかについて検証を行っていく」としている。
出典
文献情報
原題のタイトルは、「Comparison of factors associated with the occurrence of menstruation-related symptoms in Japanese women without exercise habits and female soccer players: A cross-sectional study」。〔BMC Womens Health. 2025 Mar 24;25(1):139〕
原文はこちら(Springer Nature)