サッカー選手間のウイルス拡散リスクの検討 1試合中にハイリスクな時間は1分半
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが起きて2年半が経過するが、一向に収束する気配がみられない。一方で、ワクチンの普及と治療法が確立されつつあることから当初の混乱は収まり、厳格な感染抑止のために社会性の高い活動を中止するのではなく、現実的な対策を施したうえで活動が行われるようになっている。こうしたなか、サッカーの試合中に、選手間でウイルス感染症が伝播する可能性を検討するうえで、基礎的なデータとなり得る研究結果が発表された。1試合あたり平均約1分半程度、感染リスクのある時間が生じているという。
サッカー1試合で、ウイルスに感染したプレーヤーが1人いた場合のリスクは?
COVID-19を引き起こすウイルス、SARS-CoV-2は、他のウイルスと同様に空気中に拡散したウイルスを他者が吸入したりすることで伝播すると考えられている。感染している人が、発声、くしゃみ、激しい呼吸をした際にウイルスが空気中に排出され、それは一定時間空気中を漂い、他の人が吸い込んだ場合に伝播する可能性がある。また、ウイルスが付着した手で目や鼻などの粘膜を触ることでも伝播すると考えられている。SARS-CoV-2が空気中を漂う時間は明確ではないが、一般的なガイドラインでは、感染リスク抑制のため1~2mの距離を保つことが推奨されている。
コンタクトスポーツでは選手同士が近接し、互いの距離が1~2m以内になることが多い。また、競技中は呼吸が荒くなるため、仮に選手が感染していた場合は、伝播リスクが通常の環境よりも高くなる可能性がある。ただし、スポーツ中の感染リスクがどの程度高いのかを検討する基礎的なデータはごく少ない。
このような背景から、今回紹介する論文の著者らは、サッカーの試合中に、ウイルス感染者が1人存在していた場合、他のプレーヤーがその選手に近づく時間を、試合中の位置情報を解析することで算出。感染リスクの基礎データとして示した。
感染者から1.5m以内に他のプレーヤーがいる時間を算出
データの解析には、デンマークのサッカーリーグ(デンマーク・スーペルリーガ)2018/19シーズンの各スタジアムの試合から、無作為に1試合ずつを抽出し、計14試合の映像が用いられた。すべてのプレーヤーの試合中の動きをマルチカメラ追跡システムで解析し、2次元化した。試合中の位置情報を用いることに関しては、全選手から了解を得た。
試合に出場している選手の中の1人を感染者と仮定して、試合中にそのプレーヤーから1.5m以内にいる時間を算出。また、その選手が動いた後に漂っていると考えられるウイルスに関しては、半減期2秒の速度で減少していくと仮定した。
感染者から1.5m以内に1秒いた場合のスコアを1として、曝露スコアを算出。各ポジションの選手が1人ずつ感染しているという仮定のもと、すべての試合をシミュレーションした結果、14試合で1万750の曝露スコアが算出された。
1試合の曝露スコアは88で、相手チームの選手が感染している場合に高値
その結果、曝露スコアの平均は87.8秒(95%CI;87.0~89.6)となった。最高スコアは656.9秒であり、最低スコアは0秒(接触なし)だった。プレー時間は曝露スコアと有意に相関していた(r=0.22,p<0.001)。
自分のチームに感染したプレーヤーがいる場合の暴露スコアは61.8秒(95%CI;60.4~63.2)であり、それに対して相手チームに感染したプレーヤーがいる場合は、ほぼ倍の111.4秒(95%CI;108.2~114.6)となった。
また、解析対象としたゲームでは、平均2.6ゴールが記録されていた。ゴール後にプレーヤーが集合せずに、身体的距離を確保して祝福していた場合、曝露スコアが小さくなる傾向があった。
著者らは、本研究の限界点として、1試合のピッチ上に感染している選手が1人のみのケースしかシミュレーションしていないこと、解析に用いた試合の選手が全員エリートレベルであり、アマチュアレベルでは選手の動きが異なるため、同じ結果になるとは限らないこと、そして、この結果が実際の感染リスクにどのように影響するのかは不明であることを挙げている。
そのうえで、「サッカーの試合中にウイルスが拡散する可能性をモデル化した結果、1人のプレーヤーがウイルスに感染しているとした場合、他のプレーヤーは1試合あたり平均約1.5分、潜在的な曝露時間が存在することが明らかになった」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Modelling the potential spread of virus during soccer matches」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2022 May 12;8(2):e001268〕
原文はこちら(BMJ Publishing)