カカオの成分が寿命を延長することを確認 長寿遺伝子「サーチュイン」活性化を介する機序
カカオの種子に含まれる成分が、生命維持に重要な酵素であるサーチュインを特異的に活性化することが報告された。この酵素は、老化抑制や肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの予防にも関与するとされていて、特定成分によるこのような効果の確認は世界初という。山梨学院短期大学、東京工科大学、株式会社明治の研究グループの研究によるもので、研究の成果が「Scientific Reports」に論文掲載されるとともに、各サイトにプレスリリースが掲載された。
研究背景
わが国の平均寿命は年々伸びて超高齢社会が進む一方、寝たきりや認知症の増加などにみられるように、必ずしも健康寿命が延伸していない。健康寿命の延伸は喫緊の課題となっており、高齢者の健康維持・疾病予防等を実現する技術の開発が期待されている。こうした背景から研究グループでは、老化を抑制し、肥満を代表とするメタボリックシンドロームに有効な機能性食品の開発に取り組んできた。
研究成果
老化や肥満抑制に関与する分子としてサーチュインという酵素が知られている。この酵素は、細胞の維持や増殖に関与するアセチル化タンパク質のアセチル基を取り除く働きをしており、この酵素を活性化することで、寿命の延長や肥満抑制につながるとされている。研究グループではこれまでに、穀物外皮に存在する成分※1が、この酵素を活性化するという知見を得ていたことから、伝統的に長寿食とされているカカオ(Theobroma cacao)に着目し研究を開始した。
その結果、カカオ種子に多く含まれるサーチュインを活性化する長寿成分が「脂肪酸トリプタミド」であることが確認された。
この成分をショウジョウバエに食べさせたところ、通常食に比べ平均寿命が4日(14%)程度増加することが確認された(図1)。これをヒトに当てはめると、現在の日本人男性の平均寿命である81.6歳※2が93.0歳に延長することに相当する。同研究グループでは、ぶどう種子に含まれる成分「レスベラトロール」でもショウジョウバエの寿命の延長効果を確認しているが、脂肪酸トリプタミドの方がより強い効果を示した。
図1 ショウジョウバエの寿命延長効果
さらに、ショウジョウバエに壁上り運動をさせると、通常の餌を食べた場合に比べて加齢に伴う運動能(筋力)の低下を防ぐ効果も確認された(図2)。これにより、カカオの継続的摂取が単に寿命を延長するのみならず、健康寿命延伸に繋がる効果がある可能性を明らかにした。
図2 ショウジョウバエの壁のぼり実験
社会的・学術的なポイント
カカオにはさまざまな有効成分が含まれており、代謝性疾患の予防食として期待されているほか、定期的なカカオ摂取は健康寿命を延ばすと長らく考えられてきた。一方でその直接的な成分などについての知見は得られていなかった。また、チョコレートやココアに含まれるカカオポリフェノールは、活性酸素を抑制し、生活習慣病に有効であるとの報告が多くあるほか、コレステロール値の改善や血圧低下および血管内皮機能の改善、心疾患リスクの低減、インスリン抵抗性の改善といった多岐にわたる臨床試験結果が得られている。
研究グループでは、「今回の発見は、カカオの継続的摂取が寿命の延長と同時にこれら生活習慣病を予防し、健康寿命の延伸に繋がる可能性を示したものと言える。特定成分である脂肪酸トリプタミドがサーチュインを活性化し、ハエの寿命延長を確認した世界で初めての研究であり、学術的にも意義深いと考えられる」と述べている。
プレスリリース
文献情報
原題のタイトルは、「Fatty acid tryptamide from cacao elongates Drosophila melanogaster lifespan with sirtuin-dependent heat shock protein expression」。〔Sci Rep. 2022 Jul 15;12(1):12080〕
原文はこちら(Springer Nature)