ジョコビッチの強制送還問題と世界トップアスリートのCOVID-19ワクチン接種状況
1月の全豪オープンテニスに出場するためオーストラリア入りしたノバク・ジョコビッチが、ワクチン未接種のために強制送還されたことはまだ記憶に新しい。医学のトップジャーナルである「ランセット」の呼吸器領域専門誌「The Lancet Respiratory Medicine」に、この騒動を巡る同誌の編集者の論説が「NEWS」として掲載された。要旨のみを紹介する。
アスリートとしてのジョコビッチについての解説は不要だろうが、彼は世界一のテニスプレーヤーであり、全豪オープンでは昨年の2021年大会を含めて過去9度にわたりチャンピオンを獲得している。そのジョコビッチは1月5日にメルボルンに到着。しかしその後、タイトル防衛を開始する予定の前日に強制送還されていた。これは、オーストラリアの移民大臣の要請により、「この決定が公益に資する」との判断に基づくもの。ジョコビッチは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種を受けていない。
この決定をした同国の移民大臣は、ジョコビッチが感染の脅威をもたらす可能性は低いことを認めながらも、「彼は反ワクチン感情のコミュニティの象徴として一部の人に認識されている。ジョコビッチの滞在を許可したとしたら、人々は現在の公衆衛生政策を無視することにつながる可能性がある」と述べている。
この決定は、オーストラリア人の83%に支持されているという。このような高い支持率の背景として、オーストラリア人の80%がワクチン接種を完了し、また同国の市民は世界で最も厳しいロックダウンに耐えてきたことが挙げられるとのことだ。また、ジョコビッチが昨年12月に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性判定を受けた後に、隔離状態を十分に守らなかったという報道も火に油を注いだ。
COVID-19ワクチンが開発されるより以前の2020年4月、ジョコビッチはFacebookのライブチャットで、「ワクチン接種には反対で、移動のために他者からワクチン接種を強要されたくない」と発言していた。ジョコビッチ自身がワクチン接種に関して公にしているコメントは、いまだにこれが唯一のものだという。ジョコビッチの故郷のセルビアでは、ワクチン接種政策に対する懐疑論と政府への不信感が根強くあり、それが彼の言動に影響を与えているとする推測もなされている。
この次に開催されるテニスのメジャートーナメントは全仏オープンで、昨年の優勝者はジョコビッチだ。フランスは、スポーツイベントに参加するすべての人にCOVID-19のワクチン接種を義務づける新しい法律を導入した。
現在、テニスのトップ100人のプレーヤーのうち、ワクチン接種を受けていないのは3人のみ。テニス以外のスポーツに目を向けると、米国のエリートアメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーチームでは、いずれも90%を超えており、英国イングランドのプレミアリーグでは、選手の84%が少なくとも1回のワクチン接種を受けたと報告されている。フランス、ドイツ、イタリアのトップリーグのサッカー選手も90%以上が完全にワクチン接種を完了しているとのことだ。
本記事の著者は、2023年の全豪オープンにおいて、ワクチン接種を受けていない選手を同国が歓迎する可能性は極めて低いだろうと述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Vaccination in the world's top athletes」。〔Lancet Respir Med. 2022 Jan 25;S2213-2600(22)00022-4〕
原文はこちら(Elsevier)