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コロナ禍では、”意外にも”メンタルヘルスが悪化しているアスリートのほうが食事の質が高い?

米国の大学生アスリートを対象に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で実施された調査から、メンタルヘルス状態が悪化しているアスリートのほうが食事の質が高いという、意外な結果が報告された。著者らはこの研究開始に際して、既報文献を基に「質の高い食事を摂取することによって、COVID-19パンデミックによるメンタルヘルスの悪化が抑制される」との仮説を立てており、結果はその仮説と正反対のものだった。

コロナ禍では、”意外にも”メンタルヘルスが悪化しているアスリートのほうが食事の質が高い?

これまでの研究は、食事の質の高さとメンタル良好の関連性を示している

これまでの研究のすべてではないが、その多くは、質の高い食事にメンタルヘルスの保護効果があることを示している。ただし、それらの研究のエビデンスレベルは必ずしも高いとは言えない。

本研究の著者らは、全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)のディビジョンIに所属している学生アスリートを対象として、食事の質とメンタルヘルス状態の関連を横断的に検討した。研究時期が2020年8月~2021年1月であったため、COVID-19パンデミックにより学生アスリートのメンタルヘルスは、日常よりも強い影響を受けていると考えられ、食事の質によるメンタルヘルス保護効果が、より大きく認められる可能性があった。

NCAAディビジョンIの女性アスリートを対象に研究

研究対象は18~25歳で、NCAAディビジョンI所属の女子大学生アスリートに限定した。女性のみとした理由は、女性は男性よりも、不安、ストレス、うつの頻度が高い傾向があり、それらの問題をよりオープンに表現すると考えられるため。

チームのヘッドコーチを通じて研究参加者を募集。149名が応募し、研究内容の説明後84名が登録された。そのうち、以下に記す調査票への回答が不十分だった5名と、摂取エネルギー量が極端(500kcal/日未満または4,500kcal/日以上)な2名を除外し、77名の結果が解析された。研究参加者が行っている競技は、バスケットボール、サッカー、クロスカントリー、ソフトボール、テニス、陸上などだった。

4種類の指標でメンタル状態と食事の質を評価

メンタルヘルス状態と食事の質の評価には、以下の4つの指標を用いた。

うつ病不安ストレス尺度-21(DASS-21)

うつ、不安、ストレスのレベルを評価するために一般的に使用されている「うつ病不安ストレス尺度-21(Depression Anxiety Stress Scale;DASS-21)」を用いた。DASS-21は21の質問で構成され、7つのサブスケールをもつ。DASS-21のスコアが高いことは、うつ、不安、ストレスの程度が高いことを示す。

アスリートの心理的苦痛尺度(APSQ)

評価対象をアスリートに特化したメンタルヘルススクリーニングツールとして、「アスリートの心理的苦痛尺度(Athlete Psychological Strain Questionnaire;APSQ)」を用いた。競技関連のプレッシャーや怪我の頻度などの10の質問で構成され、APSQのスコアが高いことは、アスリートの心理的緊張のレベルが高いことを示す。

COVIDストレス尺度(CSS)

COVID-19関連の苦痛の評価に特化した指標として、「COVIDストレス尺度(COVID Stress Scale;CSS)」を用いた。36項目の質問から成り、スコアが高いことはCOVID-19関連のストレスが高いことを示す。

食事歴法質問票(DHQ-III)

食事の質の評価には、米国国立癌研究所が食事関連の研究に使用するために作成した、食品および飲料に関する135の質問と、サプリメントに関する26の質問で構成されている「食事歴法質問票(Diet History Questionnaire;DHQ-III)」を用い、健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)として評価した。

メンタル関連指標が悪い群のほうが食事の質が高い

3人に1人がパンデミックにより食生活の変更を強いられていた

解析対象者77名は、年齢19.3±1.46歳、既婚者2.53%。居住環境は、パンデミック以前は大学寮が35.44%、学外が63.29%、家族と同居が1.27%であり、ロックダウン等の措置がとられていた2020年3~7月は、大学寮が5.06%、学外が20.25%、家族と同居が67.09%、その他7.59%。

摂食障害の有無については2.53%が「あり」と回答したが、医師により診断されたものではなかった。COVID-19関連の質問については、20.25%が「パンデミックにより経済的困難を経験した」と回答。また、34.18%は「ふだんの食生活を維持できなかった」と回答した。

メンタルヘルス状態の評価結果と食事の質(HEI)の関連

うつ病不安ストレス尺度-21(DASS-21)

DASS-21からは、アスリートの約半数がうつ、ストレス、および不安のレベルが高いと判定された。より具体的には、うつは53.2%がカットオフ値である8点以上、不安は51.9%が同3点以上、ストレスは55.8%が同8点以上だった。ストレス状態が高い群と低い群の食事の質(HEIスコア)を比較すると、前者のほうが有意に高かった(62.6±9.5 vs 56.1±12.4,p=0.015)。

また、パフォーマンスに対する懸念は、55.8%が「低」、44.2%が「高」と判定された。パフォーマンスに対する懸念が高い群と低い群のHEIスコアを比較から、前者のほうが有意に食事の質が高いと判定とされた(62.5±9.6 vs 57.5±12.1,p=0.048)。

アスリートの心理的苦痛尺度(APSQ)

APSQによりアスリート特有の心理的苦痛が高いと判定された女子学生も、過半数を占めた。具体的には、50.6%がカットオフ値である9点以上であり、9点未満は49.4%だった。心理的苦痛が高い群のほうがHEIスコアが高いものの、群間差は有意でなかった(61.9±9.7 vs 57.5±12.4,p=0.082)。

COVIDストレス尺度(CSS)

CSSによりCOVID-19関連のストレスが強いと判定されたアスリートも、過半数を占めた。具体的には、55.8%がカットオフ値である4点以上であり、4点未満は44.2%だった。また、COVID-19関連ストレスが強い群のほうが低い群よりもHEIスコアが高く、群間差が有意だった(62.8±10.6 vs 55.9±11.1,p=0.151)。

メンタルと食事の関連の新たな研究課題が示される

以上の結果は、研究者らが事前に既報研究を基に設定していた、「質の高い食事は、女子学生アスリートの不安、ストレス、うつ、心理的緊張、およびCOVID-19関連の苦痛の発生率の低下に関連する」との仮説を支持するものではなく、反対に、高い食事の質が女性の大学アスリートのより高いレベルのストレスと関連していることを示唆している。また、食事の質が高い女性アスリートは、APSQやCSSで把握されるメンタルヘルス上の問題を、より多く抱えていた。著者らは、「これらの調査結果は、女子大学生アスリート集団のメンタルヘルスと食事との関連について、新たな研究による説明が必要であることを示している」と述べている。

今後に向けての新たな研究テーマとして、具体的に、COVID-19パンデミックの影響は、それにより生じたストレスやうつが質の高い食事のメリットを打ち消すほど強力なものであるか?、食事の質のスコアが高いことは、メンタルヘルスの苦痛を制御するためにとられた行動の結果なのか?――などの検討が必要だとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Diet Quality and Mental Health Status among Division 1 Female Collegiate Athletes during the COVID-19 Pandemic」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Dec 19;18(24):13377〕
原文はこちら(MDPI)

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