リコピンだけ摂取 vs トマト全体を摂取、運動時の抗酸化力が優れているのはどっち?
トマトの赤い色素「リコピン」には強い抗酸化作用があることから、サプリメントとしても利用されている。このリコピンのみをサプリメントとして摂取する場合と、トマト全体をパウダーにしたものを摂取した場合とで、運動に伴う酸化ストレスや脂質酸化のレベルを比較した研究結果が、国際スポーツ栄養学会(ISSN)の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に掲載された。
トマト全体か、それともトマトから抽出されたリコピンサプリか?
運動に伴う活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)の発生は、生理学的適応に必要と考えられる一方で、ROSの過剰産生は酸化ストレスとなりマイナスの影響を及ぼし得る。これに対して抗酸化物質が豊富な食品やサプリメントを摂取することが、酸化ストレスを軽減することが知られている。抗酸化サプリを利用しているアスリートも少なくない。
トマトは、ポリフェノール、カロテノイド、アスコルビン酸、α-トコフェロール、葉酸などの抗酸化作用をもつさまざまな生物活性成分を含んでいる。トマトのもつ健康上のメリットの多くは、赤い色のもとであるカロテノイド「リコピン」によるもの。トマトから得られたリコピン20~40mgの習慣的な摂取により、酸化LDLが大きく低下することが示されている。ただし、in vitroの研究では、トマトに含まれているリコピン以外の微量栄養素も酸化LDLを抑制し、その作用はリコピンを上回ることも示されている。そのため、トマトから抽出されたリコピンよりも、トマトとそのものを食べたほうが、大きな健康上のメリットを得られる可能性がある。
そこでこの研究では、アスリートのトレーニングで生じるROS産生の抑制効果を、トマトパウダーとリコピンサプリとで比較検討した。
プラセボを含めた3条件のクロスオーバー法で検討
研究参加者は、習慣的にトレーニングを継続している11人の男性アスリート。主な背景は以下のとおり。
年齢21.5±1.6歳、BMI21.0±0.9、体脂肪率12.1±2.6%、骨格筋量31.6±4.1kg、VO2peak60.9±6.9mL/kg/分で、週に4回以上、8.7±2.0時間/週のトレーニングを7.3±1.6年継続していた。摂取エネルギー量は2,532±181kcal/日であり、主要栄養素の摂取エネルギー比率は炭水化物54.4±2.6%、脂質27.0±2.1%、タンパク質18.4±3.1%。
研究デザインは、無作為化二重盲検クロスオーバー法、参加者全員に、トマトパウダー、リコピン、プラセボをそれぞれ1週間摂取してもらい、トレッドミル走行後の酸化ストレスや抗酸化能を比較した。なお、介入期間を1週間に設定した理由は、リコピンサプリを摂取した場合、1週間の連続摂取で生物学的利用可能状態になることが既報研究で示されているため。
トマトパウダーは全体が60gで、210kcal、炭水化物40.5g、脂質1.96g、タンパク質9.66g、食物繊維5.26gであり、リコピンは30mg、ベータカロテン5.38mg、ビタミンC76.44mg、ビタミンE3.62mg。リコピンサプリはリコピン30mg。プラセボを含めて、それらはメインディッシュとともに、オリーブオイルなどの脂質と同時に摂取することとし、リコピンの吸収を高めた。これらの摂取状況は研究者によってモニタリングされ、遵守率が100%であることが確認された。
運動テストは、3条件すべて午前9時から11時までの同一時間帯に、周辺気温24±2℃の条件で実施した。3km/時で3分間のウォームアップから始まり、3分間後に6km/時に増速。その後は疲労困憊に至るまで、毎分1km/時ずつ増速した。各条件の試行には、2週間のウォッシュアウト期間を設定した。
酸化ストレスと抗酸化能の評価には、酸化ストレスのマーカーである8-イソプロスタン、脂質過酸化のマーカーであるマロンジアルデヒド(malondialdehyde;MDA)、および総抗酸化能(total anti-oxidant capacity;TAC)を評価した。
なお、参加者にはリコピンが豊富な食品(トマト、トマト製品、スイカ、パパイヤ、グレープフルーツなど)のリストを手渡し、研究期間中は摂取を控えてもらった。また、各運動試験の24時間前からはカフェインの摂取と激しい運動を控えてもらった。
トマトパウダー条件でのみ酸化ストレスが抑制
疲労困憊に至るまでの時間は、トマトパウダー条件21.12±1.68分、リコピンサプリ条件20.93±1.54分、プラセボ条件21.19±1.57分で、有意差がなかった。
酸化ストレスと抗酸化能は、各条件の摂取後および運動後の値を、研究開始に先立ち行ったベースライン検査での値との変化を検討した。
酸化ストレスと抗酸化能の変化
まず、酸化ストレスマーカーである8-イソプロスタンは、3条件ともに、運動後には有意に上昇していた。トマト摂取条件では、ベースライン値との間にも有意差が認められた。条件間での比較では、トマト摂取条件の運動後の8-イソプロスタンはプラセボ条件より有意に低値であり(295.9±54.1 vs 340.3±54.8ng/L,p<0.05)、上昇率での比較でも有意差が認められた(9 vs 24%,p=0.01)。
脂質過酸化マーカーのマロンジアルデヒド(MDA)も同様に、3条件ともに運動後には有意に上昇していた。トマト摂取条件では、ベースライン値との間にも有意差が認められた。条件間での比較では、トマト摂取条件の運動後のMDAはプラセボ条件より有意に低値であり(0.62± 0.06 vs 0.47±0.11μM,p<0.05)、上昇率での比較でも有意差が認められた(20 vs 51%,p=0.009)。
これに対して、リコピンサプリ条件はプラセボ条件と有意差がみられなかった。
総抗酸化能(TAC)も、トマトパウダー条件でのみ、ベースライン値から12%有意に上昇し(0.25±0.03 vs 0.28±0.02mM,p=0.04)、かつ、介入後の値は対プラセボで有意に高値だった。
トマト全体に含まれている微量栄養素の相乗効果が重要なのではないか?
以上一連の結果を基に著者らは以下のように述べている。
「トマトパウダーの摂取により抗酸化能力が向上し、十分に訓練されたアスリートの徹底的な運動に伴う脂質過酸化のバイオマーカー上昇が抑制された。一方で、同用量のリコピンサプリメントは同様の結果をもたらさなかった。したがって、トマトの有益なメリットは、リコピンと他の生物活性成分との相乗的相互作用によってもたらされる可能性があると結論づけられる」。
文献情報
原題のタイトルは、「Tomato powder is more effective than lycopene to alleviate exercise-induced lipid peroxidation in well-trained male athletes: randomized, double-blinded cross-over study」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2021 Feb 27;18(1):17〕
原文はこちら(Springer Nature)