アスリートの睡眠に関する推奨事項 COVID-19ロックダウン中の49カ国、4千人の睡眠を調査
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによるアスリートの睡眠への影響の実態が明らかになった。アマチュアよりもエリートアスリート、チームスポーツよりも個人競技アスリート、若年者よりもシニアアスリートに、影響がより強く現れているという。49カ国、約4千人を対象とする調査の結果であり、研究者らはアスリートの睡眠に関する推奨事項も提示している。
2022年も続く可能性が大きいCOVID-19との戦い
COVID-19の新たな変異株であるオミクロン株が拡大し、国内でも第6波の兆しが見られ始めている。まだしばらくは、スポーツ活動にも万全の感染対策が求められるだろう。
睡眠が生きていくために必須であり、睡眠の質が低いことが健康に悪影響を及ぼすことを示した研究結果は枚挙にいとまがない。さらにアスリートの場合、睡眠はトレーニングなどのストレスの回復戦略からも重視される。
COVID-19パンデミックに世界中でアスリートへの影響を調査した研究が行われ、睡眠への影響を検討した研究も少なくない。それらの研究から、ロックダウン中のアスリートの睡眠時間は全体的には延長したことが示されている。睡眠習慣の変化はそれ単独で健康に影響を及ぼすばかりでなく、食事摂取量や食習慣の変化に影響を及ぼし、相乗的に代謝や免疫能へ影響することも示唆されている。本研究は、ロックダウンに伴う睡眠の質や睡眠習慣、および食行動の変化を国際的な規模で検討したもの。
10カ国語の調査票でオンライン調査
この研究には、日本を含む39カ国の研究機関の研究者が参加し、Webベースの調査として実施された。概日リズム、睡眠習慣、食行動などに関する調査票が英語で作成され、9カ国語(日本語、フランス語、イタリア語、スペイン語、マレー語、ポルトガル語、ペルシア語、トルコ語、アラビア語)に翻訳。ソーシャルメディア(Facebook、Twitter、WhatsApp、電子メールなど)を通じて、2020年7月8日~9月30日に回答を受け付けた。
適格基準は、18歳以上で2週間以上の外出禁止措置等を経験したアスリート。4,218件の回答が寄せられ、重複や不完全な回答などを除外し3,911件を有効回答として解析した。
解析対象アスリートの特徴と調査項目
解析対象者は、年齢が25.06±8.9歳で、24歳以下が67%、25歳以上が33%。性別は男性54%、女性45%。居住地はアジア57%、南北アメリカ18%、欧州14%、アフリカ11%、オーストラリア0.1%。アスリートの参加スポーツは計56競技であり、チーム競技が63%、個人競技が37%。競技レベルは、エリートレベル37%、非エリート63%。
人口統計学的変数やロックダウン状況に関する質問に加え、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)、および不眠重症度指数(Insomnia Severity Index;ISI)により、睡眠の質を評価した。なお、PSQIは0~21点で評価され、5点以上の場合、睡眠の質が悪いと定義し、8点以上では極めて悪いと定義した。ISIは0~4点のリッカートスコアで回答する7項目の質問からなり、0~28点で評価。15~21点は中等度、22点以上は重度の不眠症状と定義した。
睡眠関連では、昼寝の習慣についても質問した。
栄養関連では、体重、食事回数、深夜の摂食、および、アルコールやカフェイン飲料り摂取量、喫煙本数などの変化を質問した。
睡眠の質がより低下したアスリートの特徴が明らかに
ロックダウンにより、PSQIとISIのいずれも有意に上昇
まず、PSQIスコアとISIスコアの全体的な変化をみると、ロックダウン前(PSQI4.32±2.48,ISI4.85±4.72)よりロックダウン中(PSQI5.84±3.16,ISI7.19±6.41)は両者ともに有意に上昇していた(いずれもp<0.001)。ロックダウン前に睡眠不足と判断されたアスリートは39%であるのに対して、ロックダウン中は49%に増加、また、ロックダウン前に睡眠が非常に乱れていたアスリートは10%であるのに対して、ロックダウン中は22%に増加していた(いずれもp<0.001)。
ロックダウン前、アスリートの5%が中等度または重度(1%未満)の臨床的不眠症を示していたものが、ロックタウン中は中等度が12%、重度が3%の臨床的不眠症を示した。
PSQIスコアまたはISIスコアを従属変数、睡眠習慣、トレーニング、栄養関連因子等を独立変数とする重回帰分析の結果、PSQIスコアは、主に入眠潜時(p<0.001,+29.8%)、睡眠効率(p<0.001,-21.1%)、および総睡眠時間(p<0.001,-20.1%)の影響を受け、ISIスコアは、入眠潜時(p<0.001,+21.4%)、就寝時間(p<0.001,+9.4%)、および深夜以降の食事(p<0.001,+9.1%)の影響を受けていた。
個人競技、エリートレベル、シニアアスリートへの影響がより大きい
ロックダウン中は、1週間あたりのトレーニング時間が減少していた(-29.1%,効果量d=0.99)。また就床時刻が遅くなり(+75分,d=1.14)、起床時刻はより遅く変化していて(+150分,d=1.71)、結果として総睡眠時間が長くなっていた(+48分,d=0.83)。
解析対象者の特徴で層別化した検討から、このような概日リズムの乱れは、チーム競技アスリートよりも個人競技アスリートの睡眠の質に悪影響を及ぼしていた(p<0.001,d=0.41)。同様に、非エリートアスリートよりもエリートアスリート(p=0.028,d=0.44)、若年アスリートよりもシニアアスリート(p=0.008,d=0.46)のほうが、強い影響を受けていた。
なお、性別の比較では女性アスリートはロックダウン前か中かにかかわりなく、男性アスリートよりも睡眠の質が低く、不眠症に該当する割合が高かった。
ロックダウンのような事態が再発した場合の対策の推奨
著者らは、これらの結果と既報研究を基に、ロックダウン中のアスリートの睡眠の質を確保するための戦略の考察を加えている。それらの検討の上で、将来にまたロックダウンのような事態が発生した場合に、アスリートが睡眠の質を確保するための推奨として、以下の諸事項を掲げている。
- 睡眠衛生の遵守によって、アスリートで観察された睡眠の質の低下と不眠症の増加を少なくとも部分的に防ぐことが可能。アスリートの心身の健康を維持し、ロックダウンが緩和されたときにトレーニング再開と競技参加を容易にする。
- 遅い時間帯の長時間の昼寝を避け、昼食後30分の昼寝と、その前の適量のカフェイン摂取が推奨される。
- アルコールとタバコの摂取、および午後に入ってからのカフェイン摂取を避ける(これらを控えることが賢明であると考えられる)。
- 規則正しいタイミングでの食事(適切な栄養バランスであることも含む)、および、就寝時刻と起床時刻を維持する。
- 就寝前の重い食事を避け、就寝1時間前にトリプトファンが豊富な軽食を口にする。
- ロックダウン中は、日々、早い時間帯に屋外トレーニングを行うことを強く推奨する。
文献情報
原題のタイトルは、「COVID-19 Lockdowns: A Worldwide Survey of Circadian Rhythms and Sleep Quality in 3911 Athletes from 49 Countries, with Data-Driven Recommendations」。〔Sports Med. 2021 Dec 8;1-16〕
原文はこちら(Springer Nature)