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新型コロナによる東京オリパラ延期に伴うアスリートの心理的苦痛、その考察と介入の提案

2021年02月04日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)の開催を1年延期することが決定されたのは、昨年3月だった。その後、パンデミックは若干の収束フェーズも存在したものの、結果的には患者数が急増しており、東京2020開催の不確実性が増している。

新型コロナによる東京オリパラ延期に伴うアスリートの心理的苦痛、その考察と介入の提案

オリンピック・パラリンピックがアスリートにとって最大の檜舞台であることは言うまでもない。世界中のトップアスリートが、調整期間を4年から5年に延ばし、入念な準備を続けている。しかし現在は、さらなる延期の可能性があり、あるいは開催そのものが不確実になりつつある。このような非常に特殊な状況におけるアスリートへの影響を考察したスウェーデンの研究者らの論文が報告された。以下に要約する。

アスリートへのCOVID-19の心理的影響

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の蔓延と、COVID-19の罹患率とそれによる死亡者数の増加は、世界の公衆衛生、金融システムおよび職業環境などに、前例のない脅威を与えている。競技スポーツもパンデミックの影響を明らかに受けている領域の一つであり、アスリートに不安を引き起こしている。

パンデミックによるアスリートへの影響に関する科学的研究は、これまでのところ、スポーツ活動を行えないことによる心理的影響に焦点があてられている。スウェーデンで昨年5~6月に実施されたトップアスリート対象のオンライン調査では、現在の状況によってアスリートの自己認識における否定的な心理的影響が報告された。パンデミック中にアルコール摂取量とギャンブルが増加したとの報告もある。ただしそれは比較できるデータがない。重要な点は、アスリートのうつレベルが、自分自身の将来についての不安と関連がみられることだ。

オリンピアンとパラリンピアンの長期にわたる苦痛

ここで一般の人々に目を向けると、オリンピックやパラリンピックのような大規模スポーツイベントの開催は、身体活動やスポーツへの参加への刺激となることが示唆されている。2012年のロンドンオリンピックの際にも、そのような現象がみられたことが報告されている。ただしこの領域の研究はまだ不十分であり、結論は決定的でない。さらに、現在そのオリンピックやパラリンピックの開催が不確実なものになっている。

東京2020の延期という決定は、世界中で人々の移動とイベントが制限・禁止されている状況を考えると、当然のことと言える。しかし、オリンピアンとパラリンピアンというアスリートの潜在的なメンタルヘルスへの影響は、まだほとんど研究されていない。

パンデミック発生以前には長年、オリンピアンとパラリンピアンは4年間というスパンを時間軸に行動してきた。COVID-19により、そのような時間軸が崩壊してしまった。東京2020開催延期決定以降、COVID-19罹患者数は急増し、アスリートは現在、今夏に予定されているオリンピック・パラリンピックでの試合に向けて、どのようにトレーニング計画を立てるべきか確信が持てないでいる。さらに、可能性としては、2022年の冬季オリンピック・パラリンピックの準備にも影響を与えることが考えられる。アスリートの日常生活への影響と将来への不安は増大し、長期にわたって不確実な状況に曝されることもあり得る。

このような不確実性が、アスリートの心理的負荷を高めていると想像される信頼性のある根拠が存在する。不安を適切に対処することはほとんどの人にとって困難であり、さらに、スポーツの世界への財政的支援の継続性が保証されないことも、アスリートの心理的健康に影響を与える可能性がある。

COVID-19のパンデミックによって多くの専門領域が財政的な影響を受けており、スポーツイベントも例外でない。多くのアスリートはスポーツイベントの消滅に敏感にならざるを得ない。エリートアスリートでは、イベントの延期がキャリアから引退し、次の人生に歩みを進める決意につながることもあるだろう。オリンピック・パラリンピックのような大規模なイベントの開催が不確実な場合、このシナリオはより現実的なものになる。

スポーツキャリアの後に、または同時期に、アカデミックまたはプロの世界でキャリアを重ねるという「デュアルキャリアプランニング」は、既に多くのアスリートに無視できない課題であり、COVID-19パンデミックによりその機会を見つけることが困難になっている。この点の困難は、男性よりも女性アスリートで影響が大きい可能性がある。

また、低所得国におけるメンタルヘルス支援を強調している研究もある。低所得国のアスリートは高所得国のアスリートに比較して、スポーツイベントの延期や中止などの環境変化により脆弱である可能性が考えられる。また、例えばワクチンの配布が高所得国の後回しになる可能性があり、予定されているスポーツイベントまでに時間が限られている場合、不公平な状況を作り出してしまう大きな懸念がある。

女性アスリートが男性アスリートよりも強い影響を受けるという懸念は、やはり収入との関連が提起されるためだ。パンデミック以前から女性スポーツに流れるスポンサー収入は男性スポーツに比較して少なく、財政的に大きなギャップがあった。女性のスポーツに関する世界的なメディアの関心の低さも関係している。パンデミックにより、その格差がより拡大することもあり得る。

介入の方向性

2020年の晩秋から冬にかけてパンデミックが世界的に拡大しているなか、政策立案者はプロおよびセミプロのアスリートの精神的および身体的健康を積極的に評価する必要がある。とくにメンタルヘルスの懸念は、COVID-19パンデミックの初期段階でとられた自宅待機等の一時的な影響をはるかに超えることを想定しなければならないことが明らかになってきている。

また重要なこととして、アスリートのCOVID-19による心理的苦痛は、キャリアとの関連を考慮しなければならない。予測不可能な状況で非自発的にキャリアを終了しなければならない場合、スポーツから別のキャリアへの移行が困難になる。オリンピックが4年周期でなくなったことが、その混乱をより深刻なものにする可能性もある。したがって、デュアルキャリアの機会提供に積極的なフォローが求められる。

オリンピック・パラリンピックがさらに延期されたり中止されたりした場合のアスリートへの長期的な影響も、考慮すべき必要があるかもしれない。どのような結論がいつ下されるのか、決定を待つ間の不確実性の影響への対応に加えて、オリンピックとパラリンピックが最終的にキャンセルされるとなると、それはこれまで世界大戦による中止を除いて見られなかったシナリオとなる。オリンピック・パラリンピックに向けて準備をしている多くのアスリート、コーチ、および他の関係者に、強い感情的な反応と変化を引き起こすかもしれない。デュアルキャリア計画のサポート、収入不足の場合の財政支援、およびメンタルヘルスに対するアスリートの潜在的なニーズを考慮すべきたろう。とくに女性アスリート、低所得国のアスリートへの支援強化が必要だろう。

文献情報

原題のタイトルは、「Potentially Prolonged Psychological Distress from Postponed Olympic and Paralympic Games during COVID-19--Career Uncertainty in Elite Athletes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Dec 22;18(1):2〕
原文はこちら(MDPI)

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