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アスリート、指導者らがCOVID-19の外出自粛期間にとるべき戦略とソリューション

現在、ほぼすべての国で、あらゆるスポーツ大会が中止され、かつ自宅外でのトレーニングの機会に強い制限がかけられた状態にある。この現状において、チームスポーツのアスリートやチーム・団体・組織がいかに対応すべきかを述べた、欧州の指導者や研究者らによる論文が「Sports」誌に掲載された。

アスリート、指導者らがCOVID-19の外出自粛期間にとるべき戦略とソリューション

欧州サッカー選手権や東京2020をはじめとする主要な国際大会は1年間延期された。この異常な世界的危機は、アスリート、コーチ、クラブ、スポーツ団体に混乱を引き起こした。多くのチームは所属アスリートの帰国を許可し、各国政府のガイドラインに従い、強制的な自宅隔離状態にある。当然ながら、アスリートが通常のトレーニングおよび競技スケジュールに従って行動することは容認されない。

VO2maxの低下はトレーニング中断後2~4週間で認められる

このような状態の長期化は、競技会への参加機会やチームでの組織的トレーニングの機会の喪失、選手とコーチの間の適切なコミュニケーションの欠如、不十分な日光曝露、不適切なトレーニング環境などの負荷を強いる。またアスリートの生活にも悪影響を与える可能性があり、例えば、不十分で不適切な栄養、睡眠の質の低下、体脂肪量の増加、筋肉量の減少、免疫力の低下、精神的な不安定、不眠症、うつ病などが起こり得る。これらはすべて、アスリートの体力と競争力に悪影響を与えると考えられる。

現時点でCOVID-19パンデミック終息の時期を予測することは困難だが、起こり得る身体の適応(アスリートにとってはパフォーマンスの低下)を、トレーニングや栄養面から抑制することは可能である。

運動パフォーマンスの低下は、トレーニングの中断から数週間以内に発生し、好気性パフォーマンスの低下はさらに心血管機能と筋肉の代謝能力を低下させる。より具体的には、トレーニングを中止後2〜4週間以内にVO2maxが大幅に低下することが報告されている。その退行的変化は以下の過程を経る。

退行的変化の初期段階:トレーニング中断期間2〜4週間以内
VO2maxの初期の急速な低下

血液量の減少

心臓肥大の変化

ヘモグロビン値の低下

骨格筋毛細血管の減少

体温調節機能の低下

トレーニング中断期間が2〜4週間を超えて続く場合、退行的変化はより深刻になり、次のような結果につながる。

さらに退行的変化が進むと...
VO2maxがさらに低下

動静脈酸素較差の低下

ヘモグロビン値および酸素運搬能の低下

骨格筋酸化酵素活性の低下

運動パフォーマンスの低下

外出自粛期間中のアスリートは、これら退行的変化を逆回転させるために、何らかの持久力運動を日常生活に組み込む必要がある。

チームスポーツに特有の障害

レクリエーションアスリートや一般の人々であれば、適度な運動を継続することで、体力の変化を許容可能な範囲内に維持することが可能だ。一方、ハイレベルのアスリートでは、正確な運動処方が必要であり、肉体的および精神的フィットネスの維持に、最大強度に近い負荷が求められる。

また、適切なスペース(例えば陸上競技場やサッカー場など)が閉鎖されている現状から、パンデミック終息後にアスリートが競技に戻る時、怪我の多発が予測される。したがって、チームスポーツの運営組織は、所属する個々の選手、およびチームに対し、ハイレベルな競技再開に備えて十分な時間を確保する必要がある。

パンデミック中に競技会が開催されていないことは、チームやアスリートにとってパフォーマンス低下以上の問題を引き起こす。なぜなら、アスリートが体力とフォームを最も良好に維持できる手段は、競技に参加することだからだ。

外出自粛はチャンスにもなる

しかし、外出自粛には、プラスの効果もある。

このような状況では、アスリートは、すべてのストレス、怪我、蓄積されている負荷(オーバーリーチやオーバートレーニング)から完全に回復できる。チームスポーツの場合、通常であれば1年を通して試合スケジュールが組まれており、このような特異な状況以外ではプレーヤーが完全に回復する期間を確保できることはめったにない。外出自粛と集中的なトレーニングおよび競技会の中断は、身体的かつ精神的ストレスの完全な回復を可能にする。また、チームスポーツのアスリートが、ふだんは十分な期間をとることができない、新たな技術を獲得するための機会にもなる。

アスリートが怪我を負った後も、今回の特異な状況と似た状態が発生する。怪我を負い、リハビリテーションに励むアスリートは、一般的に残りのシーズンに向けてより良いかたちで競技に復帰し、結果的に将来のキャリアにプラスの効果を獲得することがある。

言い換えれば、現在の外出自粛期間は、生理学的および精神的な完全リセット、ならびにパフォーマンス向上の機会でもあるということだ。

エビデンスに基づく推奨事項

チームスポーツの指導者には、現在の科学的エビデンスに基づき、以下の諸点を強く推奨する。

  • アスリートの精神面をリセットし、この"休憩"を個人的な成長の機会として使用するように奨励し、刺激し、動機づける
  • テクノロジー(テレビ通話、電子メール、電話、テキストメッセージ)を使用して、専門家(スポーツコーチ、トレーニングコーチ、コンディショニングコーチ、栄養士、医師、心理学者)によるアスリートへの適切な助言・支持体制を整える
  • 適切な感染予防と衛生対策をアスリートに伝え、免疫力を高め、自分の健康と身近な環境にいる人々の健康を守るように奨励する
  • 隔離された生活環境の質を確保する(スペース、設備、食品、通信など)。可能であればアスリートの居住空間には、有酸素運動機器(トレッドミル、自転車、ローイングエルゴメーターなど)、レジスタンストレーニング機器(ダンベル、ゴムバンド、腹部ホイール、メディシンボールなど)、および頻繁に使用するその他の機器(マット、フォームローラー、セルフマッサージャーなど)
  • アスリートのニーズに基づいて、代替トレーニング(限られたスペースで可能な運動感覚トレーニング、バーチャルリアリティー技術支援、ビデオ分析、理論トレーニング)を企画する
  • アスリートの個々の特性とニーズに合わせて調整された利用可能なスペースとリソースを使用して、自宅でパーソナライズされた筋力トレーニングとコンディショニングトレーニングを企画する
  • ウイルス感染を抑止するために、栄養素を摂取することが重要である。とくにビタミンD、亜鉛およびタンパク質、水分摂取、体重と体組成の管理戦略について、アスリートへの教育を行う。空腹時の対処法のアドバイスも、おそらく重要になるだろう
  • 精神的疲労のモニタリングとメンタルトレーニングを企画する(メンタルセルフヘルプテクニックや、テレコミュニケーションによる心理学者のサポート)
  • 適切な回復方法を提供する(睡眠、呼吸と瞑想のエクササイズ、自己マッサージ、筋膜リラクゼーション、ストレッチ、サプリメントなど)
  • アスリートが日常的に使用し、データ共有できる自己評価指標(心拍数のモニタリング、簡単な運動機能テスト、簡易的VO2maxテストなど)を使用する
  • テクノロジー(電話、アプリケーション、電子メール、テキストメッセージ)を使用して、アスリートの健康、ウェルネス、体力、ワークロードをモニタリングする

文献情報

原題のタイトルは、「Strategies and Solutions for Team Sports Athletes in Isolation due to COVID-19」。〔Sports (Basel). 2020 Apr 24;8(4)〕
原文はこちら(MDPI)

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