スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

新型コロナ関連の味覚異常や下痢への亜鉛による介入 根拠とメカニズムと留意事項

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、味覚異常や下痢が現れやすいことが知られている。一方、COVID-19によるものでない成人の味覚異常や小児の下痢に対しては、亜鉛が用いられている。では、成人のCOVID-19に伴う味覚異常や下痢に対して亜鉛を用いるという介入は、推奨されるのだろうか。この点に関するブラジルのウベルランディア国立大学の研究者によるレビュー論文が、「Nutrition reviews」に掲載された。大意を紹介する。

新型コロナ関連の味覚異常や下痢への亜鉛による介入 根拠とメカニズムと留意事項

COVID-19患者の亜鉛欠乏症

亜鉛は、免疫応答、タンパク質合成、細胞の成長と分化など、多くの細胞プロセスにかかわる必須微量栄養素の一つで、in vitroではコロナウイルスRNAポリメラーゼ活性を阻害し抗ウイルス作用を表すことが報告されている。また、腸上皮結合バリアの維持にも働き、電解質の腸内輸送の調節にも関与する。

COVID-19患者の15%で消化器症状が報告されており、具体的には下痢や食欲不振が含まれる。観察研究からは、亜鉛欠乏症とCOVID-19重症化との関連が示されている。

例えばICU患者を対象とする研究で、亜鉛欠乏症の患者は亜鉛濃度が正常な患者と比較して、重症COVID-19の典型的な状態である急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)の発症率が14倍と報告されている。ほかにも、COVID-19患者は健康な対照群に比較し亜鉛レベルが有意に低いこと、亜鉛欠乏症を伴うCOVID-19患者は、正常な亜鉛レベルのCOVID-19患者に比較して、合併症を発症する頻度が6倍であり、入院期間が長くステロイド療法を要する確率が高いといった報告がある。

COVID-19関連の下痢

下痢はCOVID-19患者によくみられる症状であり、発生率は2~50%とされる。COVID-19の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が侵入門戸とするアンジオテンシン変換酵素-2(ACE2)は、上部食道、肝臓、結腸などの消化管にも多く発現しており、SARS-CoV-2によって直接的に消化管上皮が傷害される可能性があり、かつ二次細菌感染に対する抗生物質の使用によって、下痢が引き起こされる可能性がある。

参考:SARS-CoV-2とCOVID-19の違い

一方、発展途上国からの報告に重点を置いたシステマティックレビューからは、亜鉛投与によって小児の下痢の病悩期間が約20%短縮されたという。現在、急性小児下痢症に対する亜鉛投与は病悩期間短縮のための費用対効果の高いアプローチとしてみなされている。COVID-19パンデミックの多大な影響が生じている現在、COVID-19関連の下痢にもこの戦略を適用すべきかを検討すべき時期かもしれない。

COVID-19関連の味覚・嗅覚障害

COVID-19患者のほぼ半数(49.8%)が味覚・嗅覚障害を呈するとの報告がある。COVID-19に関連する味覚・嗅覚障害は、COVID-19自体によって引き起こされているか、あるいは亜鉛欠乏が嗅覚受容体レベルを低下させていることが関連して発生する可能性が考えられる。口腔はSARS-CoV-2感染の入り口であり、この位置的関係も味覚障害の発生に関与している可能性もある。

特発性味覚障害の患者では、グルコン酸亜鉛を140mg/日(亜鉛元素として20mg/日)を3カ月摂取すると、対プラセボで味覚障害の重症度が有意に低下することが報告されている。このほかにも亜鉛摂取の有用性には多くのエビデンスがある。

SARS-CoV-2感染の結果として口腔味覚細胞の亜鉛恒常性の局所的変化が生じることが報告されており、これがCOVID-19関連味覚・嗅覚障害の原因の一つである可能性がある。これらより、COVID-19関連味覚・嗅覚障害に対する亜鉛投与を検討する必要性があると考えられる。なお、亜鉛欠乏症には栄養不良を伴うことがあり、その場合は野菜や果物の摂取量が少ないことによる亜鉛以外のミネラルやビタミンのレベルにも問題があると考えられ、そのことがCOVID-19の予後悪化や回復遅延の原因となり得る。

経口亜鉛の個別投与計画

これまでのところ、治療用亜鉛投与は肺炎や下痢の小児を中心に推奨されてきており、その用量を成人COVID-19患者の下痢等の治療にそのまま適用できるわけではない。成人の欠乏症への亜鉛投与量は50~150mg/日であることから、これが一つの目安となる。ただしこの提案は、ランダム化臨床試験によって検討される必要がある。

なお、亜鉛レベルの多寡にかかわらず、ワクチン接種、マスク着用、身体的距離の維持など一般的な感染予防対策は不可欠だ。

亜鉛の毒性・副作用としては、亜鉛は銅と吸収が競合するため、亜鉛投与に伴う懸念として銅欠乏が挙げられる。銅欠乏により貧血や腎機能低下を来し得るが、銅投与で対応可能。そのほかに、亜鉛に限らずミネラルが極めて過剰に摂取された場合、精神障害や突然死のリスクが上昇する。

文献情報

原題のタイトルは、「Therapeutic supplementation with zinc in the management of COVID-19–related diarrhea and ageusia/dysgeusia: mechanisms and clues for a personalized dosage regimen」。〔Nutr Rev. 2021 Aug 2;nuab054〕
原文はこちら(Oxford University Press)

この記事のURLとタイトルをコピーする

新型コロナウイルスに関する記事

栄養・食生活

アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者

運動・エクササイズ

もっと見る

志保子塾2024後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ