新型コロナパンデミック中のスポーツ復帰に関する推奨事項 リスクを6段階に層別化
「SARS-CoV-2パンデミック中のスポーツ復帰に関する推奨事項」というタイトルのレビュー論文が、英国スポーツ運動医学会発行の「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」誌に掲載された。著者陣には、欧州やオーストラリア、日本、ロシアから32名のエキスパートが名を連ねている。要旨を抜粋して紹介する。
SARS-CoV-2とCOVID-19の違い
簡単にいうと、「SARS-CoV-2」はウイルスの名前で、「COVID-19」は病気の名前です。「SARS-CoV-2」に感染していても、症状が全く現れていなければ、その段階では「COVID-19」に該当しません。そもそも「COVID-19」の「CO」は「コロナ(Corona)」、「VI」は「ウイルス(Virus)」、「D」は「病気(Disease)」を表し、「19」はそれが発見された年(2019年)を示しています。ウイルス「SARS-CoV-2」に感染して発症する病気が「COVID-19」であるので、症状が現れない場合は「COVID-19」とは呼べません。
なお、日本語の「新型コロナウイルス感染症」は「COVID-19」のことで、「新型コロナウイルス」は「SARS-CoV-2」のことです。これらを踏まえて、この記事をお読みください。
参考:新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)(厚生労働省)
背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと、その原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を封じ込めるため、世界中で実施された制限措置は、スポーツに混乱をもたらした。ロックダウン中、体育館やスポーツセンターなどのスポーツ施設へのアクセスが制限され、屋外での運動も部分的に禁止された。感染者数が減少するにつれて、厳格なロックダウンは段階的に解除され、スポーツも徐々に再開された。
ただし、起こり得る感染の再拡大を回避するために、感染リスクが高いと考えられるコンタクトスポーツなどでは、引き続き徹底した衛生管理が必要。
COVID-19罹患状態による6グループへの層別化と、それぞれの推奨事項
スポーツ再開にあたり、まず、アスリートや運動に取り組む人を、以下のグループに層別化する必要がある。これには、プロアスリート、レクリエーションアスリート、および、定期的な身体活動を始めて間もない人も含まれる。
- グループ1:SARS-CoV-2の検査で陽性とされたことのない人
- グループ2:SARS-CoV-2検査が陽性だがCOVID-19の症状はなく、自宅隔離下で電話や動画などにより医学的管理を受けた人
- グループ3:軽度の症状を伴うCOVID-19により外来治療を受け、14日間の隔離を求められた人
- グループ4:中等症のCOVID-19により、基礎疾患(喘息や糖尿病など)に起因するリスクが高いため、入院治療を受けた人
- グループ5:重症のCOVID-19により入院治療が必要だったものの、人工呼吸管理は要さなかった人
- グループ6:重症COVID-19により集中治療室での人工呼吸管理を要した人
個々のグループへの推奨事項
論文では、このような層別化のうえで、それぞれのカテゴリーへの推奨事項を示している。以下は内容の一部のみのため、詳細は論文を参照してほしい。
グループ1
COVID-19の症状や兆候がなく基礎疾患のない人は、疾患既往歴に関する質問票、SARS-CoV-2検査陽性者との濃厚接触の可能性、検査を受けていない感染ハイリスク者との接触歴、いわゆるホットスポットの滞在などをチェックすることにより、安全にスポーツを再開し得るかを確認する。
グループ2
14日間の隔離後、身体検査、12誘導心電図、呼吸機能評価、負荷心電図、臨床的に必要な場合は心エコー検査を行う。
グループ3
2週間の隔離後、さらに2週間は厳格に社会的距離を保つ。
身体検査、重要なマーカー(CRP、高感度トロポニンI、BNP)、心電図検査、心エコー検査、呼吸機能検査等が推奨される。COVID-19の症状が始まって3〜4週間後には、おそらく一般的なスポーツへの復帰が可能だが、スポーツ再開後6カ月は医学的管理下で実施する。
グループ4
グループ3と同様だが、それらに加え、血液ガス分析測定やより詳細な心肺機能検査を行う。また、胸部X線検査、および入院中に得られた所見に応じて、胸部高解像度CT検査、心臓MRI検査を実施する。スポーツへの復帰は、呼吸機能や心臓(心筋炎)の有無・重症度に応じて、2~6カ月の範囲で異なる。
グループ5、グループ6
退院後のリハビリが推奨される。安静時心電図、負荷心電図、肺機能、高感度トロポニンI、BNP、心エコー検査、血液ガス分検査を含む、肺および心臓の総合的な検査が必要。スポーツへの復帰は、回復の状況に応じて数カ月後になる。
文献情報
原題のタイトルは、「Recommendations for return to sport during the SARS-CoV-2 pandemic」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2020 Jul 13;6(1):e000858〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group)
新型コロナウイルスに関する記事
栄養・食生活
- コロナ禍では、”意外にも”メンタルヘルスが悪化しているアスリートのほうが食事の質が高い?
- COVID-19の影響を前向きな変化として活用 米国食事ガイドラインの実行性を高めるための推奨事項
- 発表! 2021年、スポーツ栄養Webで最も読まれた記事ランキング【新型コロナウイルス編】
- 新型コロナの影響で子どもの神経性やせ症が1.6倍に 国立成育医療研究センターが全国26医療機関で調査
- 質の高い食生活が、新型コロナウイルスの罹患リスクや重症化リスクを抑制する可能性
- 人の声を聞きながら食べると、一人でもおいしく感じる 独居者高齢者やコロナ禍の孤食対策に
- 新型コロナ関連の味覚異常や下痢への亜鉛による介入 根拠とメカニズムと留意事項
- コロナ禍の今、栄養士・管理栄養士がすべきこと・できることとは? Webセミナーリポートを「あじこらぼ」で公開
- 新型コロナの死亡リスクに予後栄養指数(PNI)の低さが関連 中国・武漢発の研究
- 感染経路不明のコロナ感染者の9割に飲食が関連 国立国際医療研究センターの報告
- コロナパンデミックで食生活が健康になった人と不健康になった人の違いは何? 国内6千人の調査
- COVID-19パンデミック中、栄養不良の二重負荷を予防するための取り組み
- 植物性食品中心の食習慣がCOVID-19重症化リスクを抑制する可能性が示される
- ビタミン、オメガ3脂肪酸等のサプリで女性のCOVID-19リスク低下の可能性 3カ国45万人の調査
アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者
- 新型コロナの影響か? 東京2020オリンピック・水泳選手のパフォーマンス低下を確認
- 新型コロナ発生以降、経済的理由で生理用品を購入できない女性は8%、20代以下は13% 厚生労働省が初の調査
- 新型コロナ禍、大学生アスリートの64%が睡眠の質が低下 仏国のアンケート調査より
- 新型コロナは東京2020オリンピックの記録に影響を与えたか? 競泳決勝タイムの数学的解析の結果
- ジョコビッチの強制送還問題と世界トップアスリートのCOVID-19ワクチン接種状況
- 新型コロナ禍のトレーニングで、アスリートの負傷を予防するために気をつけること
- アスリートの睡眠に関する推奨事項 COVID-19ロックダウン中の49カ国、4千人の睡眠を調査
- パラアスリートがCOVID-19パンデミックで受けたストレスの影響 健常アスリートとの比較
- 新型コロナウイルスがアスリートのトレーニングに与えた影響とは? 142カ国、1万2,526人の実態を調査
- 新型コロナ禍のサッカー無観客試合はアウェーチームに有利? 欧州トップリーグで調査
- ゴルフは新型コロナ感染リスクが低い? 欧州11カ国23大会に参加のプロ195人を調査した結果
- COVID-19緊急事態が東京2020候補アスリートの体組成に影響を及ぼしていた――HPSCなどの研究
- コロナ禍のストレスはアスリートをも押しつぶす メンタルサポートの重要性あらわに
- メンタル維持に睡眠の“質”改善が大切 新型コロナパンデミック下の7カ国の学生を調査
運動・エクササイズ
- 新型コロナの影響大! 全国の4歳〜21歳・5,400人対象とした「子ども・青少年のスポーツライフ」調査結果を公表 笹川スポーツ財団
- 新型コロナによる行動制限で子どもの転倒と肥満のリスクが増大 身体活動の質向上と良好な食生活が必要
- 香港での新型コロナ・パンデミックによる食生活と身体活動の変化 収入との関連などが明らかに
- 熱中症2021 オリパラ、早い梅雨入り、新型コロナ…今年は早めの熱中症対策が必要か
- 新型コロナウイルスが国民のスポーツ参加と健康状態に及ぼした影響を調査 スポーツ庁
- コロナ禍では身体活動量が多い人ほど食生活の質が改善している ブラジルの研究
- 運動習慣が新型コロナワクチンの効果を高める 市中感染症リスクのメタ解析で明らかに
- 新型コロナの影響か?「令和2年度 体力・運動能力調査」は、わずかに低下傾向
- 新年度を迎える児童・生徒・先生へ、新型コロナ感染予防に配慮した体育・保健体育の授業例を動画で公開 スポーツ庁
- コロナ渦でも楽しく運動を! 各府省庁の運動・スポーツ啓発コンテンツをスポーツ庁が紹介
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 令和2年(2020年)夏の熱中症救急搬送は6.5万人 新型コロナで年齢構成や発生場所、重症度に影響?
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査
関連記事
- 新型コロナの影響大! 全国の4歳〜21歳・5,400人対象とした「子ども・青少年のスポーツライフ」調査結果を公表 笹川スポーツ財団
- 新型コロナによる行動制限で子どもの転倒と肥満のリスクが増大 身体活動の質向上と良好な食生活が必要
- 香港での新型コロナ・パンデミックによる食生活と身体活動の変化 収入との関連などが明らかに
- 熱中症2021 オリパラ、早い梅雨入り、新型コロナ…今年は早めの熱中症対策が必要か
- 新型コロナウイルスが国民のスポーツ参加と健康状態に及ぼした影響を調査 スポーツ庁
- コロナ禍では身体活動量が多い人ほど食生活の質が改善している ブラジルの研究
- 運動習慣が新型コロナワクチンの効果を高める 市中感染症リスクのメタ解析で明らかに
- 新型コロナの影響か?「令和2年度 体力・運動能力調査」は、わずかに低下傾向
- 新年度を迎える児童・生徒・先生へ、新型コロナ感染予防に配慮した体育・保健体育の授業例を動画で公開 スポーツ庁
- コロナ渦でも楽しく運動を! 各府省庁の運動・スポーツ啓発コンテンツをスポーツ庁が紹介
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 令和2年(2020年)夏の熱中症救急搬送は6.5万人 新型コロナで年齢構成や発生場所、重症度に影響?
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査