厚労省「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」報告書
厚生労働省は6月23日、「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」(座長:武見ゆかり氏〈女子栄養大学大学院研究科長〉)の報告書を取りまとめ、30日に公表した。「優先して取り組むべき課題」として、「経済格差に伴う栄養格差」や「若年女性のやせ」の問題などを取り上げているほか、環境面では関係省庁の協力を得て、事業者が行う情報開示等の環境面の取り組みにも焦点を当てるなどとしている。
人生100年時代の実現のキーワードは、健康増進とSDGs
報告書は「第1 はじめに」「第2 本報告書における主な用語の定義」「第3 自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に係る課題と動向」「第4 自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進の方向性」「第5 主な取組内容」「第6 おわりに」という6項目から成る。
「第1 はじめに」は、本報告書の背景の解説。
「人生100年時代」の実現に向けて、健康寿命の延伸を図るうえで、栄養・食生活は最も重要な要素の一つ。それを実現するための食環境づくりは、健康の保持増進に関する視点を軸としつつ、事業者等が行う地球環境、自然環境等に配慮した取組にも焦点を当てながら、持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)の達成にも資するものとしていくことが重要。このような認識のもと、産学官等連携により、優先的に取り組むべき栄養課題等の目標の設定および評価のあり方等について、2021年2月から議論が重ねられていた。
以下、主な内容をピックアップして紹介する。
自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に係る課題と動向
食塩(ナトリウム)の過剰摂取
非感染性疾患(Non-Communicable Diseases;NCDs)による死亡や障害調整生命年(Disability-adjusted life year;DALYs)に最も影響を与える食事因子は、世界的には全粒穀類の摂取不足だが、我が国を含む東アジアでは、食塩の多量摂取。日本人の食塩摂取量は長期的には減少傾向にあるが、諸外国よりも依然多く、世界保健機関(World Health Organization;WHO)の推奨の約2倍摂取している。欧米では加工食品由来の食塩摂取割合が高いのに対し、我が国は家庭内調理からの食塩摂取割合が多い(約6割は調味料)。食塩摂取量が多くても食習慣の改善の意思がない者が半数以上という問題もある。
若年女性のやせ
20~30代の日本人女性のやせの割合は増加傾向にあり、主要先進国の中で成人女性のやせが最も多い。
経済格差に伴う栄養格差
世帯年収の違いは、食品選択、栄養素等摂取量に影響している。ただし、「食塩の過剰摂取」は世帯年収にかかわらず、共通した栄養課題。
SDGsと栄養改善
国連が2030年までに達成すべきと掲げている「SDGs」関連の17目標のうち、栄養は「目標2 飢餓をゼロに」、「目標3 すべての人に健康と福祉を」をはじめ、全項目に関与している。SDGsの達成には、栄養改善の取り組みが不可欠。本年9月の「国連食料システムサミット」、12月の「東京栄養サミット2021」においても、SDGs達成にも資する栄養改善の推進の在り方について幅広く議論される予定。
産業界等の取り組み
海外の食品関連企業では、社会と環境の課題解決に向けて具体的な行動目標を示したうえで進捗を明示し、ビジネスを成長させている例もある。
主な取り組みの内容
関係者に期待されること
取り組みの実効性の確保、および成果の適正な評価に関する方策
厚生労働省は、この取り組みに賛同する事業者等(メディアを含む)の参画を得たうえで、2021年夏頃を目途に、産学官等の関係者で構成される組織体を立ち上げる。また、この取り組みの参画事業者へのインセンティブとして、その取り組みを事業者が任意に表示・標榜できるようにすることも今後検討する。
「自助」を中心として健康寿命を延伸し、SDGs達成にも資する取組み
報告書の「第6 まとめ」では、「栄養面と環境面に配慮した食環境づくりの重要性が国際的に提起されるなか、本検討会での整理を踏まえ今後進めていく食環境づくりは、『自助』を中心とした健康の保持増進を通じ、健康寿命の延伸に資するほか、SDGsの達成にも資する具体的かつ画期的な取り組みである」と述べている。
また、「本年12月の『東京栄養サミット2021』の場で、日本政府コミットメントとして表明することも含め、今後得られる知見や成果を、アジア諸国を始め、世界に広く発信・共有していくことを強く期待する」とも記されている。
関連情報
自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会 報告書(厚生労働省)