健康的な食習慣と運動習慣で幸せになれる! 健診受診者の2年追跡を含む横断調査
就寝前に食事をとらない、間食をしない、早食いをしない、よく歩いている――このような健康的な生活習慣を実践している人は、そうでない人よりも幸福感が高いことが明らかになった。川崎医科大学健康管理学教室の高尾俊弘氏らが、健診受診者を対象に行った研究の結果であり、「Bio Psycho Social Medicine」に論文が掲載された。
特定健診で把握した生活習慣と、WHO-5で評価した幸福感との関連を検討
健康的な食習慣や身体活動が身体的健康にメリットをもたらすことについては、確固たるエビデンスがある。また、幸福感が高いほど死亡率が低いという関連のあることも、健康な集団と疾患のある集団の双方で確認されている。しかし、健康的な食習慣や身体活動が幸福感を高めるかどうかという点については、よくわかっていない。高尾氏らの研究は、この関連を明らかにする目的で実施された。
研究対象は、2017年に同大学病院で定期健康診断を受けた4,324人から、幸福感に影響を与える可能性のある因子(脳心血管疾患、慢性腎臓病の既往や、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物治療)がある人を除外した2,295人。これらの人の2017年の健診時に把握した生活習慣と、世界保健機関(WHO)による幸福感の指標「WHO-5」との関連を横断的に解析するとともに、2016年にも同院で健診を受けていた人に関しては、縦断的解析も行った。
なお、WHO-5は主観的な幸福感を25点満点でスコア化する評価スケール。本研究では、全体の第3四分位数である16点以上の人(上位25%に該当する人)を「幸福感が高い」と判定した。また、食習慣や運動習慣については、特定健診の問診項目および独自の問診データを解析に用いた。
解析対象者2,295人は、年齢が49.3±8.4歳、女性が54.3%、BMI22.67±3.72であり、WHO-5スコアは12.71±4.97だった。WHO-5スコアは年齢と有意な弱い相関関係が認められた(r=0.1013,p<0.05)。
生活習慣や睡眠の質がWHO-5スコアと有意に関連
結果について、まず、質問の回答内容やBMIカテゴリーとWHO-5スコアとの関係をみてみよう。
「ストレスを感じるか」との質問に、‘感じない’と回答した群はWHO-5スコアが16.95±4.23点で、‘時々’と回答した群の12.94±4.23や、‘常に’と回答した群の7.98±4.02点より有意に高かった。次に、睡眠の質については、‘良い’と回答した群は15.16±4.46点で、‘良くない’と回答した群の10.43±4.29点より有意に高かった。
食習慣関連では、昼食に20分以上かけること、塩辛い食べ物を好まないこと、毎食野菜を食べていること、就寝前2時間以内に夕食を食べないこと、夕食後に週に3回以上間食しないこと、週に3回以上朝食を欠かさないことが、それぞれWHO-5スコアの高さと有意に関連していた。なお、主観的な摂食速度はWHO-5スコアとの有意な関連がなかった。
運動習慣関連では、30分以上の集中的な運動を週に2回以上行うこと、毎日1時間以上歩いていることは、WHO-5スコアの高さと有意に関連していた。
また、現在喫煙していない人は現喫煙者よりWHO-5スコアが有意に高かった。一方、飲酒量はWHO-5スコアとの関連がみられなかった。
多変量で調整後も、食習慣や運動習慣が幸福感と有意に関連
続いて、ロジスティック回帰分析により、年齢、性別、BMIで調整した「モデル1」で、「幸福感が高い」(WHO-5が16点以上)に関連する因子を検討。
前記の検討で有意だった生活習慣関連因子のうち、昼食に20分以上かけること、塩辛い食べ物を好まないこと、毎食野菜を食べていること、就寝前2時間以内に夕食を食べないこと、夕食後に週に3回以上間食しないこと、週に3回以上朝食を欠かさないこと、30分以上の集中的な運動を週に2回以上行うこと、毎日1時間以上歩いていることは、「幸福感が高い」のオッズ比が有意に高かった。喫煙習慣については有意でなくなった。
前記の検討で睡眠の質もWHO-5スコアに関連していたことから、睡眠の質を調整因子に追加した「モデル2」では、毎食野菜を食べていることと、週に3回以上朝食を欠かさないことの有意性が消失したが、その他の因子は引き続き有意なままだった。
モデル2で「幸福感が高い」ことと有意な関連が認められた各因子のオッズ比は以下のとおり。
昼食に20分以上かける人は10分未満の人に対してOR1.47(95%CI;1.03~2.11)、塩辛い食べ物を好まない人は好む人に対してOR2.10(1.35~3.25)、就寝前2時間以内に夕食を食べない人は食べる人に対してOR1.32(1.04~1.67)、夕食後に週に3回以上間食しない人はする人に対してOR1.27(1.01~1.60)、30分以上の集中的な運動を週に2回以上する人はしない人に対してOR1.58(1.24~2.01)、毎日1時間以上歩いている人は歩いていない人に対してOR1.29(1.06~1.58)。
良くない習慣を改善することも、幸福感の高さと有意に関連
前述のように、2016年にも同院で健診を受けていた人については、生活習慣の維持または変化とWHO-5との関連も解析された。
その結果、モデル1の食習慣関連では、就寝前2時間以内に夕食を「食べない」ことを維持した人だけでなく、「食べる」から「食べない」に改善した人も、「幸福感が高い」のオッズ比が有意に高かった。ただし、調整因子に睡眠の質を加えたモデル2では、有意性が失われた。
一方、モデル1の運動習慣関連では、毎日1時間以上歩く習慣を維持した人だけでなく、「歩かない」から「歩く」に改善した人も、「幸福感が高い」のオッズ比が有意に高かった。さらにモデル2でも、「歩く」を維持していた人は「幸福感が高い」のオッズ比が有意に高かった。
著者らは本研究の限界点として、単施設での検討であること、幸福感に影響を及ぼし得る収入や教育歴などの交絡因子を調整できていないことなどを挙げている。そのうえで、「良好な食事および身体活動行動を実践しているだけでなく、そのような行動を長期にわたって維持することも、幸福感の高さに関連していることが示された。とくに活発な身体活動を維持することは、人々の幸福感を向上させる可能性がある」と結論を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Associations between lifestyle behaviour changes and the optimal well-being of middle-aged Japanese individuals」。〔Biopsychosoc Med. 2021 Apr 1;15(1):8〕
原文はこちら(Springer Nature)