感染経路不明のコロナ感染者の9割に飲食が関連 国立国際医療研究センターの報告
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが止まらない。感染経路を特定できない新規感染者も増加しており、予防対策がより困難になっている。こうしたなか、感染経路不明とされた感染者の9割は、飲食が関係して感染している可能性を示すデータが報告された。国立国際医療研究センターの研究グループによる成果で、「Global Health & Medicine」に論文が掲載されるとともに、同センターのサイトにニュースリリースが掲載された。
研究成果のポイント
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性者に対し、感染源の探索や濃厚接触者の特定などのために行われている「積極的疫学調査」では、「感染経路不明」と判定される事例が多い。効果的な感染対策を行うには、「不明」のままとせずに、感染経路をできる限り明らかにする必要がある。
そこで本研究では、入院時点では感染経路が不明であった事例を対象として、詳細な調査を実施した。その結果、対象患者の64%において、既知の感染リスクの高い行動歴が認められた。
行動歴からは感染リスクが高い場面が延べ24場面同定され、それらの場面の88%が飲食に関連していた。また、92%はマスクが着用されていなかった。特段の新規感染経路は見いだせなかった。
背景:未知の感染経路がパンデミックの繰り返しにつながっている可能性
従来の知見からは、COVID-19の感染には未知の感染経路があり、パンデミックの合間の新規患者数が減少している局面では、これら未知の感染経路を通じて感染が水面下で持続し、その後の感染者数急増を招いている可能性が指摘されていた。そこで、国内のパンデミック第4波後に新規陽性者数が減少傾向となった時期(職場、学校、施設、家庭内での感染が少ない時期)に、新規感染者の感染経路を探索的に調査した。
方法:感染経路不明の入院患者に対して詳細な聞き取りを実施
パンデミック第4波と第5波の合間にあたる2021年5月22日~6月29日に、国立国際医療研究センター病院に入院した20歳以上のCOVID-19患者43名のうち、入院時に感染経路が明確であった患者、意思疎通が困難であった患者を除いた患者22名を対象として、インタビュー調査を行った。
調査内容は、年齢、性別、国籍、発症14日前から発症1日前までの詳細な行動歴/接触歴とその場所や日時、マスク着用の有無、感染に関与し得ると考えられた患者の考えや信念。
結果:感染経路の可能性がある場面の88%が飲食、92%がマスク非着用
有効回答の得られた22名の患者は、男性が17名(77%)、女性が5名(23%)、年齢の中央値は52.5歳(四分位範囲44~66歳)で、日本人が19名(86%)だった。
この22名のうち14名(64%)において、既知の感染リスクの高い行動歴(船、長距離バス、スポーツジム、屋内音楽ライブ、クラブ、立食パーティー、カラオケボックス、屋内展示会等の換気が悪く密閉された環境の集会への参加、国内外の流行地での滞在歴など)があった。
行動歴/接触歴を解析すると、既知の感染リスクが高い場面が延べ24場面存在した。そのうちの21場面(88%)は飲食関連であり、また22場面(92%)はマスクが着用されていなかった。
また、感染に関与しうると考えられた患者の考えや信念に関して、「仕事の後であれば職員同士でマスクなしで話しても大丈夫だろう」、「外食が感染のリスクだとは知らなかった」などが挙げられた。
未知の感染経路はなく、やはり既知の感染経路が重要
この調査によって、これまでに見つかっていなかった新たな感染経路が明らかになったわけではなく、むしろ感染には飲食がやはり多くの事例で関係していることが明らかになった。感染防止に対する意識付けや知識が不足している実態も明るみになった。それらがパンデミックを助長している可能性があり、今後解決すべき課題として挙げられた。
関連情報
新型コロナウイルス感染症新規患者数増加の裏にある、追えていない感染経路を見いだす質的研究の結果速報について(国立国際医療研究センター)
文献情報
原題のタイトルは、「A single-center descriptive study of untraced sources of infection among new cases of coronavirus disease in Tokyo, Japan」。〔Glob Health Med. 2021 Aug 10, 2021.01092〕
原文はこちら(J-STAGE)