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運動中は体温低下に気づきにくい、スポーツ中の低体温症の原因が明らかに 筑波大学・新潟医療福祉大学

運動中には筋肉で熱が産生される。それにもかかわらず、寒い環境や冷たい水の中で運動をしていると、低体温症に陥ることがある。その原因として、運動中には体温の低下を感じにくくなることが影響している可能性が報告された。筑波大学と新潟医療福祉大学の研究グループによる成果で、「Physiology & Behavior」に論文が掲載されるとともに、両大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

運動中は体温低下に気づきにくい スポーツ中の低体温症の原因が明らかに

研究の概要

ヒトは寒さを感じると、上着を着る、体を震わすなどして体温の低下を防ぐ。このような反応のためには、まず、身体各部からの温度情報を基に、寒さを感じることが重要。これまでの研究から、皮膚の温度感覚は運動によって鈍くなることが知られているが、運動中に体温が低下するような条件下で、皮膚や全身の温度感覚がどのように変化するかについては明らかになっていなかった。そこで本研究では、運動中でも低体温症が生じるメカニズムを明らかにするため、体温が低下した条件での温度感覚の特徴と運動との関係について検討した。

冷たい水の中に体を入れると、体の深部の温度が徐々に低下する。実験では、このような状況で安静を維持する場合と、低強度の運動をする場合の二つの条件で、皮膚と全身の温度感覚を測定した。その結果、とくに体の深部の温度が大きく低下した際の全身の温度感覚は、低強度の運動をしている場合の方が安静を維持している場合よりも鈍くなることがわかった。

つまり、運動をしていると、体温が低下しても「寒い」という感覚を感じにくくなるということが明らかになった。これにより、低水温の海や川での水泳や冬季のスポーツ、雪山でのハイキングなどでは、体温の低下に気づかず、低体温症に陥ってしまう可能性が考えられる。このような状況を防ぐためには、事前に体温を十分に高めておくことや、寒さを感じる前に上着を着用し体温の低下を防ぐことが重要であることが示唆される。

研究の背景

寒冷環境に曝されたとき、ヒトは行動性(暖房をつける、上着を着るなど)と、自律性(血管収縮や震えなど)の二つの体温調節反応によって、深部体温を約37°Cの一定に保つ。このうち行動性の体温調節反応を起こすには、皮膚表面や体の深部に存在する温度センサーからの温度情報が重要(図1)。

図1 行動性体温調節反応が生じるメカニズム

図1 行動性体温調節反応が生じるメカニズム

寒冷環境に暴露されることで皮膚や身体深部の温度が低下すると寒さを感じる。この寒いという感覚は、「上着を着る」や「暖房をつける」といった行動性体温調節反応を引き起こす
(出典:筑波大学、新潟医療福祉大学)

研究チームは、身体各部からの温度変化の情報を基に生じる温度感覚に着目した。これまで、皮膚の温度感覚は運動を行うことで鈍くなることが報告されていたが、運動が皮膚の温度感覚に及ぼす影響が深部体温の低下した低体温時にも同様に生じるかは明らかでなかった。また、皮膚の温度や深部体温の低下によって起こる全身の温度感覚の変化に、運動がどのような影響を及ぼすかについてもわかっていなかった。

研究内容と成果

11人の若年男性(24±2歳)を対象に、体温低下時の胸部皮膚および全身の温度感覚を測定した。実験は、下腹部までを18°Cの冷水に入れ座位安静を維持する条件と、半仰臥位の姿勢(仰向けの状態から上半身を立ち上げた状態)をとりながら低強度の自転車運動(30~60W)を行う条件に分けて行った。

全身の主観的温度感覚は、「我慢できないほど寒い」を0点、「我慢できないほど熱い」を8点とする、9段階(4点が中立)のスケールを用いて測定した。皮膚の温度感覚は、皮膚温冷覚閾値測定装置を用いて胸部で測定した。

皮膚温冷覚測定装置:温度制御装置、温度・熱流センサーおよび表面にペルチェ素子(25mm四方)がついたプローブで構成された測定装置。プローブ表面の温度を一定の割合で変化させることができる。

研究対象者の胸部皮膚温と同じ温度に設定した測定装置を胸部に押し当て、装置の温度を徐々に低下させていき、胸部に冷たさを感じた時点でボタンを押してもらう。ボタンが押された時点の装置の温度を測定。測定開始時の胸部皮膚温と、冷たさを感じた時の装置の温度との温度差を、皮膚温度感覚の指標として用いた。

いずれの温度感覚測定も、陸上安静時、冷水に浸水後の深部体温が低下し始める以前、深部体温が0.5°C低下、1.0°C低下した時点の4時点で測定。安静を維持する条件と低強度の運動を行う条件で比較することで、運動が温度感覚に及ぼす影響を検討した。

皮膚温度感覚は条件間で差がなく、全身の温度感覚は運動負荷の有無で有意差

その結果、胸部の皮膚温度感覚は、いずれの深部体温レベルにおいても安静時と運動時で違いがみられなかった。

しかしその一方で、全身の温度感覚は、深部体温が1.0°C低下した時点において二つの条件間の差がみられ、低強度の運動を行う条件の方が、深部体温の低下による寒さを感じにくくなっていた(図2)。

図2 各体温レベルにおける全身の温度感覚

図2 各体温レベルにおける全身の温度感覚

安静条件と運動条件のいずれにおいても、深部体温の低下に伴い全身の温度感覚のスコアは低下する(寒さを感じる)が、深部体温が1.0°C低下した時点では運動条件で、安静条件よりも寒さを感じにくくなっている。
Tes:深部体温、*:p<0.05 vs 安静条件、†:p<0.05 vs 安静条件のTes-0.0、‡:p<0.05 vs 運動条件のTes-0.0
(出典:筑波大学、新潟医療福祉大学)

測定中の深部体温および皮膚温は二つの条件間で差がなかったことから、運動自体、もしくは運動によって生じる生理学的変化(例えば脳から出る運動指令や運動に伴う呼吸・循環応答など)が、温度感覚の鈍化に関連している可能性が示唆される。

今後の展開

本研究の結果は、低強度の運動時には体の深部の温度が低下したことによる寒さを感じにくくなることを示している。この深部体温低下による温度感覚の鈍化は、行動性の体温調節反応の減弱につながる。低水温の海や川でのレクリエーション活動、または雪山での登山などの比較的低強度の活動中に生じる低体温症の発症を助長しているメカニズムの一つの可能性がある。

研究グループは、「今後は運動によって生じるどのような生理学的変化が温度感覚の鈍化に影響を及ぼしているのか、さらに運動が温度感覚に及ぼす影響に関して、運動強度や運動様式、性差について検討することで、低温環境下での運動時の安全性向上や低体温症発症予防につながると考えられる」と述べている。

プレスリリース

運動中は体温の低下を感じにくくなる~スポーツ中の低体温症の発生要因を解明~(筑波大学)
【健康スポーツ学科】藤本知臣講師と国立大学法人筑波大学体育系 西保岳教授らの研究グループがスポーツ中の低体温症の発生要因解明に取り組みました(新潟医療福祉大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of low-intensity exercise on local skin and whole-body thermal sensation in hypothermic young males」。〔Physiol Behav. 2021 Jul 17;240:113531〕
原文はこちら(PubMed)

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