ゴルフは新型コロナ感染リスクが低い? 欧州11カ国23大会に参加のプロ195人を調査した結果
他者と接触する機会が少なく、社会的距離を保ちやすいアウトドアスポーツであるゴルフは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染リスクが低いと考えられる。しかし、それを実証したデータはなかった。そんななか、欧州で行われた23大会のプロゴルファーのCOVID-19罹患状況が報告された。著者らは、選手間での伝播は確認されず、堅牢なリスク評価と管理下であれば安全にイベントを実施できると述べている。
トーナメント参加ゴルファーの感染防止対策
この研究は、2020年シーズンに欧州ツアーとして11カ国、23トーナメントに参加したプレーヤーを対象とする前向き観察コホート研究として行われた。研究期間は、2020年7月6日~2020年12月13日だった。
トーナメントに参加するゴルファーやその他のサポートスタッフは、指定された施設内にとどまる「ツアーバブル」内での行動に制限された。また、ゴルファーは、1名のキャディーとの間でのみ、社会的距離の維持を解除することを許された。
ゴルファーは、以下の感染防止策(非医薬品介入)の遵守を求められた。
居住地を出発前に、後述の「チェック項目」を確認し、該当するものがあれば自主隔離に移り、該当するものがなければトーナメント開催地に移動。トーナメント開催地に移動後も同様に「チェック項目」を確認し、該当するものがあれば自主隔離に移る。
トーナメント期間中は毎日、参加前「チェック項目」を確認し、該当するものがあれば医療チームによるPCR検査を含む検査を受ける。続いてCOVID-19陽性者との接触の有無、および体温を計測し、陽性者との接触がある、または体温が37.8℃以上の場合は医療チームによる検査を受ける。陽性者と接触がなく体温が平熱の場合のみ、プレーに参加可能。
「チェック項目」の内容は以下のとおり。「咳はないか?」「息切れはないか?」「熱はないか?」「味や匂いを感じるか?」「過去14日以内にCOVID-19陽性とされたか?」「過去14以内にCOVID-19陽性者と接触していないか?」
このほか、社会的距離の維持と、屋内では常時マスクを着用することも求められた。
さらに、症状や陽性者との接触の有無にかかわらず、週に1回、PCR検査が義務付けられ、また、各トーナメントに移動する前には少なくとも1回のPCR検査が義務付けられた。
「ツアーバブル」を離れた4名がSARS-CoV-2陽性に
32カ国から195名のプロゴルファーが欧州ツアーの「ツアーバブル」に参加した。プレーヤーは、平均15大会に参加し、1大会あたりのプレーヤー数は中央値132(範囲65~156)名だった。プレーヤーに対して行われたPCR検査は総計2,900回に及んだ。
ツアーを通じて12人のプレイヤーが、毎日のチェックの結果、COVID-19陽性者との接触があったことを告知した。これらのうち5名は、トーナメント開催国の公衆衛生ガイドラインの基準を満たしていたため、隔離に移りツアー参加から除外された。
この5名のうち3名は、COVID-19陽性者との屋内での接触が持続していた。具体的にはホテルの部屋を共有し、屋内で食事をともにしていた。その後、この3名のうち2名が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性と判定された。
これらを含め、ツアーを通じて4名のプレーヤーがSARS-CoV-2陽性となり、3人が症状を発症した。ただし全員、治療に入院を必要としなかった。
それ以外に5名のプレーヤーが、「チェック項目」に基づき評価が必要な症状を告知した。ただしPCR検査の結果は陰性であり、COVID-19以外が疾患と診断された。
まとめると、23のトーナメント中に4人のプレーヤーがSARS-CoV-2陽性となった。これは全検査数の0.14%に相当する。なお、この4名は陽性と判定される前の週に、イベントツアーの「バブル」から離れていた。
選手間での伝播はなく、会場到着前の行動が感染リスク
著者らは本研究を、「ゴルフ選手でSARS-CoV-2の感染率を報告した初の研究」と述べている。そして、「欧州ツアーに参加しているプロゴルファーの間で、PCR検査の陽性者率は非常に低いことが明らかになった。プレーヤー間で伝播したケースはみとめられず、感染の発生ケースは通常、現場に到着する前に屋内で近接した距離で持続的に接触したことに関連していた。各イベントでのSARS-CoV-2保有率の中央値は、イベント開催国の陽性者率よりも低かった」とまとめている。
なお、本研究ではトーナメント開催地のCOVID-19罹患状況との関連を検討している。開催地の感染率が最低だったのはオーストリアンオープンとユーラムバンクオープン(いずれもオーストリア)で、いずれも人口10万人あたりの感染者数は1であり、最高はスコットランドチャンピオンシップの同51だった(その他にアイリッシュオープン〈北アイルランド〉は感染者率不明)。
ガイダンスを遵守する限り、ゴルフは安全
これらの検討のうえで、「プレーヤーのSARS-CoV-2陽性率は、ホスト国のCOVID-19感染状況とは関連していないようだ。各イベントへの国際的なプレーヤーの出場にもかかわらず、SARS-CoV-2陽性率は、各トーナメント開催地の陽性者率より全般的に低かった。これは、『ツアーバブル』の仕組みが有効に機能したこと、および、社会的距離の確保、マスク着用などの非医薬品介入の有効性の裏付けでもある」としている。
結論として、「社会的距離の確保が可能なアウトドアスポーツであるゴルフは感染リスクが低い。専門家によって作成されたCOVID-19ガイダンスに参加者が従う限り、政策立案者や公衆衛生の専門家は、安全な競技としてゴルフを奨励でき、プレーヤーは安心して参加できる」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Assessing the risk of SARS-CoV-2 transmission in international professional golf」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2021 Jun 17;7(2):e001109〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)