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朝、タンパク質を摂取すると筋量増加に効果的 ポイントは「BCAA」と「体内時計」 早大・柴田重信教授らの研究

タンパク質摂取による筋量増加効果は摂取量だけでなく摂取タイミングも影響し、朝食時のタンパク質摂取は分岐鎖アミノ酸(BCAA)が関与して、効果的に筋量を増加させる可能性が報告された。時間栄養学の第一人者として著名な早稲田大学理工学術院・柴田重信教授らの研究グループによる成果で、「Cell Reports」に論文が掲載されるとともに、早大のサイトにニュースリリースが掲載された。筋量増加は、体内時計を介して引き起こされ、それが正常に機能していることが重要だという。

朝、タンパク質を摂取すると筋量増加に効果的 ポイントは「BCAA」と「体内時計」

研究の概要:タンパク質は総摂取量だけでなく、摂取タイミングも重要

食事から摂取するタンパク質は、骨格筋の合成や筋量の維持・増加に重要。ただし、朝食、昼食、夕食という3食での摂取量の偏りがある場合に、それが筋量増加に及ぼす影響についてはよくわかっていなかった。今回発表された研究から、筋量増加効果を得るためには、筋肉の体内時計(1周期約24時間の概日時計※1)が関与していて、タンパク質の総摂取量だけでなく、摂取するタイミングも重要であることがわかった(図1)。

筋量増加には、体内時計にあわせたタンパク質の摂取が効果的であることから、この摂取タイミングをうまく活用することで、筋力や筋量が低下しやすい高齢者の健康を効率よく維持・増進できる可能性がある。

※1 概日時計:睡眠・覚醒や体温など、生体のさまざまな機能の日内変動を制御するシステム。ClockやBmal1などの時計遺伝子が働くことで、約24時間のリズムを刻むことができる。概日時計は、栄養素の消化吸収、代謝などの日内変動にもかかわる。

図1 研究成果の概要

図1 研究成果の概要

(出典:早稲田大学)

これまでの研究でわかっていたこと

食事から摂取するタンパク質は、骨格筋の合成や筋量の維持・増加に重要であり、また、各国の食事調査から、多くの国ではタンパク質の摂取量は朝食で少なく、3食で摂取量に偏りがあることが知られている。1日の中での摂取量の偏りが、骨格筋の機能と関係するという疫学研究などのデータが報告されていたが、朝の摂取量不足だけでなく、反対に夜の不足はどうなのかといった、詳細な点は不明だった。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、マウスを用いた動物実験を行い、1日の中でタンパク質を摂取する時間帯が異なることが過負荷※2による筋肉量の増加に影響することを明らかにした。

また、タンパク質の摂取時間による効果の差を生み出す因子として、体内時計を司る時計遺伝子に着目し、摂取タイミングによる筋量増加効果に対する体内時計の関与を分析した。

加えて、ヒトを対象とした研究も実施し、3食におけるタンパク質摂取量と筋力や筋量との関係性を調査した。

※2 過負荷:協働筋(ヒラメ筋と腓腹筋)の部分切除により足底筋に過負荷をかけて筋肥大を誘導するモデル。

タンパク質の摂取タイミングは筋量増加に影響する

マウスを1日2食の条件下(起床後の餌を朝食、就寝前の餌を夕食と定義)で飼育し(図2)、1日の総タンパク質摂取量をそろえたうえで、各食餌のタンパク質含量を変化させた。すると、朝食に多くのタンパク質を摂取したマウスでは、夕食に多く摂取したマウスや、朝・夕食均等に摂取したマウスに比べて、筋量の増加が促進した(図2右)。

1日のタンパク質摂取量が同じ場合、朝(活動期のはじめ)に重点的に摂取したほうが、筋量の増加には効果的であることを示している。

図2 朝食と夕食のタンパク質の配分と筋量増加の関係

図2 朝食と夕食のタンパク質の配分と筋量増加の関係

(出典:早稲田大学)

BCAAが朝食のタンパク質摂取による筋量増加に関係

分岐鎖アミノ酸(BCAA)※3は、筋肉の合成を高める作用が強いアミノ酸であることが知られている。そこで、朝食でのタンパク質摂取による筋量増加効果は、タンパク質中に含まれるBCAAが関与しているのかを明らかにするため、前記と同様にマウスを1日2食の条件下で飼育し、朝食または夕食にBCAA添加食を摂取させた際の筋量を測定した。

その結果、朝食のBCAA添加食の摂取は夕食での摂取に比べて筋量が増加することがわかった。このような朝食での摂取効果は、他のアミノ酸(餌のタンパク質源であるカゼイン※4中に含まれるBCAA以外のアミノ酸)を添加した餌ではみられなかった。

つまり、朝食でのタンパク質摂取による筋量増加には、BCAAが大きな役割を果たしていることが示唆された。

※3 分岐鎖アミノ酸(BCAA):側鎖に分岐した構造を持つアミノ酸の総称で、バリン、ロイシン、イソロイシンがある。Branched chain amino acidの略で「BCAA」と呼ばれる。
※4 カゼイン:牛乳のタンパク質の大半を占めるタンパク質。栄養学分野の研究用飼料でよく用いられるタンパク質源。

タンパク質摂取タイミングによる筋量増加は体内時計を介して引き起こされる

なぜ朝(活動期初期)における摂取が筋量を増加させるのか、そのメカニズムを解明するため、1周期約24時間の概日時計(体内時計)に着目した。

全身のさまざまな細胞に存在する体内時計は、数十種類の時計遺伝子と呼ばれる遺伝子群によって構成され、生理機能に昼夜のリズムを持たせている。この時計遺伝子が、栄養素の吸収や代謝などの生理機能の日内変動を引き起こし、タンパク質やアミノ酸の摂取タイミングによる筋量増加効果を生み出している可能性を、以下の手法で検討した。

時計遺伝子Clockに変異の入ったClock mutantマウスや、時計遺伝子Bmal1を筋肉で欠損させた筋特異的Bmal1欠損マウスを用いて、朝食と夕食のタンパク質の摂取パターンと筋量について計測。分析の結果、これらのマウスでは朝食のタンパク質摂取による筋量増加効果がみられなかった。これにより、摂取タイミングによる筋量の増加効果には、筋肉の体内時計がかかわっていることが明らかになった(図3)。

図3 時計遺伝子不全マウスにおけるタンパク質の摂取タイミングによる筋量増加効果

図3 時計遺伝子不全マウスにおけるタンパク質の摂取タイミングによる筋量増加効果

(出典:早稲田大学)

高齢女性において、朝食でのタンパク質摂取比率は筋機能と正の相関を示す

以上の動物実験に続き、ヒトを対象とする研究を行った。

高齢女性を対象に、3食のタンパク質の摂取量と骨格筋機能との関係性を調査。その結果、夕食で多くのタンパク質を摂取している人に比べて、朝食で多くのタンパク質を摂取している人では、骨格筋指数※5や握力が高く、1日のタンパク質摂取量に対する朝食でのタンパク質摂取量の比率と骨格筋指数は正相関していた(図4)。

観察研究であるため因果関係は不明だが、ヒトでも朝のタンパク質が筋肉量の維持・増加に有効である可能性が示された。

※5 骨格筋指数:四肢の筋肉量(kg)を身長(m)の2乗で除した値。骨格筋量の指標として用いられている。

図4 高齢女性での朝食または夕食におけるタンパク質摂取量と骨格筋機能との関連

図4 高齢女性での朝食または夕食におけるタンパク質摂取量と骨格筋機能との関連

(出典:早稲田大学)

朝食としてタンパク質を摂取しやすいメニューの開発を

朝(活動期のはじめ)のタンパク質摂取による筋量増加作用には体内時計が重要という本研究の結果から、体内時計にあわせたタンパク質の摂取が筋量増加には効果的である可能性がある。

このことは、反対に夜間勤務やシフトワーク、朝食欠食など体内時計を乱すような生活リズムの場合、朝食のタンパク質摂取による筋量増加の恩恵を受けにくくなる可能性があることも示唆している。追加検証は必要だが、タンパク質の量だけでなく、摂取タイミングも上手に活用することで、筋力や筋量が低下しやすい高齢者の健康を効率よく維持・増進できるかもしれない。

今後の研究課題として、実際に時計遺伝子がどのような分子メカニズムでタンパク質の摂取タイミングによる効果を生み出しているのかを明らかにするとともに、ヒトを対象とした介入研究によって、朝食のタンパク質摂取による有効性を評価する必要がある。

研究者らは、「本研究でタンパク質の摂取タイミングが筋量の増加に重要であり、とくに朝(活動期のはじめ)の摂取効果が高いことが示された。しかし多くの国の食事調査では朝食のタンパク質摂取量は少なく、不足しがちであることが報告されている。今後、朝食のタンパク質の摂取を勧めるうえで、朝食でも摂取しやすいタンパク質豊富なメニューなどの開発も望まれる」と述べている。

関連情報

タンパク質摂取時間と筋量増加の関係(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Distribution of dietary protein intake in daily meals influences skeletal muscle hypertrophy via the muscle clock」。〔Cell Rep. 2021 Jul 6;36(1):109336〕
原文はこちら(Elsevier)

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