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COVID-19緊急事態が東京2020候補アスリートの体組成に影響を及ぼしていた――HPSCなどの研究

東京2020出場候補者である女子フェンシング選手が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う初回の緊急事態宣言により、体組成に影響を受けていたというデータが報告された。ハイパフォーマンススポーツセンター・国立スポーツ科学センターの安田純氏らの研究によるもので、「Sports」誌に論文が掲載された。なお、男子選手では体組成に有意な変化は認められなかったという。

COVID-19緊急事態が東京2020候補アスリートの体組成に影響を及ぼしていた――HPSCなどの研究

COVID-19は世界中のアスリートに何らかの影響を及ぼしている可能性がある

COVID-19パンデミックに伴い世界各国でとられた外出自粛/禁止やスポーツ施設の閉鎖などが、アスリートにさまざまな影響を及ぼしていることが報告されている。例えばブラジルからはプロサッカー選手の体重と体脂肪量が増加し、スプリントやジャンプのパフォーマンスが低下したとの報告がある。フェンシングに関しては、COVID-19パンデミック以前に行われた研究で、体脂肪量がフェンシングのランジ(突き)の速さやシャトルテストのパフォーマンスと逆相関するとの研究がある。ただし、フェンシング選手へのCOVID-19の影響は明らかになっていない。

日本では、昨年の1月16日に1人目のCOVID-19患者が診断され、その後、政府は人流抑制のため4月7日に最初の緊急事態宣言を発出し、5月25日まで続いた。その約2カ月間にわたり、体育館、トレーニングジム、陸上競技場などは利用が制限された。安田氏らの研究は、この第1回緊急事態宣言が、日本のエリートフェンシングアスリートの体組成にどのような影響を与えたかを検討したものである。

2019年10月をベースライン値とし、2020年6月、10月時点の変化を検討

研究参加者は、東京2020の出場候補である43名のフェンシング選手。男子は22名で、女子が21名。ベースラインデータとして、COVID-19出現前の2019年10月のデータを用いた。

フェンシングには、エペ、サーブル、フルーレという3種目がある。今回の対象者では男女ともに、いずれの指標(年齢、身長、体重、BMI、体脂肪量、除脂肪体重、体脂肪率)においても種目間の有意差は確認されなかった。

この43名のうち、緊急事態宣言解除後の2020年6月、および解除から4カ月後の10月にも体組成を測定できた21名(男子12名、女子9名)を解析の対象とした。

なお、各選手はベースライン時から緊急事態が宣言されるまでの間に、4~5回の国際大会の試合に参加していた。緊急事態が宣言されて以降は国際大会への参加はなく、9月に開催された国内大会への参加が唯一の公式試合の機会だった。

男子は有意な変化がないものの、女子は宣言期間中に体脂肪量・率が上昇

それではまず、男子の体組成の変化からみてみよう。結論を先に言うと、男子に関しては、体組成に統計的有意となるほどの顕著な変化は生じていなかった。

具体的には、ベースライン、緊急事態宣言解除後、解除4カ月後の順に、BMIは22.8±1.4、22.9±1.9、23.0±1.7kg/m2(p=0.480)、除脂肪体重は64.2±4.9、63.8±5.6、64.9±6.3kg(p=0.134)、体脂肪量は8.7±1.3、9.4±2.7、9.0±2.3kg(p=0.461)、体脂肪率は11.9±1.4、12.7±2.9、12.1±2.7%(p=0.521)だった。

緊急事態宣言中に増加した女子の体脂肪は、4カ月後にはベースラインと同等に

一方、女子はBMIには有意な変化がないものの、緊急事態宣言後の体脂肪量や体脂肪率がベースライン値よりも有意に高く、外出自粛等の影響が生じていたと考えられた。ただし、宣言解除から4カ月後の値はベースライン値と有意差がないレベルに回復していた。具体的な変化は以下のとおりである。

ベースライン、緊急事態宣言解除後、解除4カ月後の順に、BMIは21.9±0.9、22.1±1.0、21.7±1.1kg/m2(p=0.216)、除脂肪体重は46.6±4.1、45.5±4.0、46.3±4.1kg(p=0.039)、体脂肪量は12.5±2.1、14.2±1.6、12.4±2.1kg(p=0.002)、体脂肪率は21.2±3.6、23.8±2.8、21.2±3.5%(p=0.001)。

宣言解除直後のスタッフの対応が奏功か

著者らは本研究を、「エリートフェンシングアスリートの体組成に対するCOVID-19の影響を調査した初の研究」と位置付けている。一方、研究の限界点として、本来であればフェンシングのパフォーマンスへの影響を評価すべきだが、研究期間がCOVID-19パンデミック中であるために詳細な検討を行えなかったこと、食事摂取状況や身体活動状況を評価していないことなどを挙げており、今後の研究課題としている。

結論として、「日本のエリートフェンシングアスリートでは、COVID-19による2カ月間の緊急事態宣言が、女子選手の体組成に悪影響を及ぼしていた。男子選手には有意な影響がみられなかった。ただし、女子も宣言解除後4カ月以内に体組成が回復していた。これは、宣言解除の直後に、アスリートがコーチやトレーナー、栄養士とともにトレーニングを再開できたことが寄与したと考えられる」と述べている。

また、この研究結果の実践的な解釈として、「アスリートを非活動的にするような困難な状況下では、アスリートのパフォーマンス維持のために、体組成の継続的なモニタリングが不可欠である。さらに、自宅内でのトレーニングやトレーニングの再開に向けた戦略を念入りに計画する必要がある」と記している。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effects of the COVID-19 Environments on Changes in Body Composition in Japanese Elite Fencing Athlete」。〔Sports (Basel). 2021 Jun 25;9(7):95〕
原文はこちら(MDPI)

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