香港での新型コロナ・パンデミックによる食生活と身体活動の変化 収入との関連などが明らかに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる食生活や身体活動量の変化を、性別や年齢、学歴、婚姻状況、就業状況、収入、子どもの有無など、さまざまな背景別に解析した結果が香港から報告された。収入の低い層で健康関連行動の悪化がより強く認められたという。
解析対象者700人強の属性や背景
この調査は電話による横断調査として、2020年5~6月に実施された。香港では都市封鎖(ロックダウン)は実施されていないが、外出自粛や社会的距離の確保が住民に要求されている。
調査対象は、登録されている自宅電話番号から無作為に抽出され、18歳以上の場合に解析対象に組み入れた。調査前の研究計画段階で、人々の約3分の1がパンデミックにより身体活動量に変化していると仮定すると、その変化を捉えるには700人以上の調査対象が必要と計算された。最終的に724人の回答が解析対象となった。
社会人口学的背景:就労者が少ない集団での調査
解析対象者の属性は、男性が30.7%、64歳以上が45.0%、BMIは平均22.2で37.2%が23以上、77.6%が婚姻しており、22.7%には2~18歳の子どもがいた。就労者は25.1%で、学生や退職後の人、失業者が74.9%を占めていた。就労者が少ないのは、電話調査を行った時間帯が日中だったことが関係していると思われる。
世帯収入は月3万香港ドル(約42万円)以下が78.5%で、残りの21.5%はそれ以上だった。57.0%は公共または賃貸住宅に居住し、43.0%は戸建てに居住、学歴は中学校以下が77.1%、22.9%は高等教育を受けていた。
健康関連指標
30.9%が高血圧、11.7%が糖尿病、2.8%が肥満、2.2%が脂質異常症であり、62.5%は慢性疾患がなかった。主観的健康感は、45.9%が不良~ふつう、54.1%が良好~極めて良好と回答した。
解析対象全体でみた食生活や身体活動の変化
パンデミックによる食生活や身体活動の変化を、まず解析対象全体でみると、次のような変化が明らかになった。
食生活の変化:外食は減り、野菜・果物の摂取頻度は増加
外食、テイクアウトの利用、家庭での食事、甘味飲料、ファストフード、果物、野菜の摂取頻度を、パンデミック前とパンデミック中で比較した。
外食は2.38回/週から1.12回となり、Δ=-1.26回/週と有意に頻度が低下していた(p<0.001)。反対に、テイクアウトはΔ=0.48回/週、家庭料理はΔ=1.06食/週であり有意に増加していた(いずれもp<0.001)。
非健康的とされる甘味飲料の摂取回数はΔ=0.03回/週とわずかだが有意に増加していた(p=0.037)。その一方で果物(Δ=0.14回/週,p<0.001)と野菜(Δ=0.07回/週,p=0.008)という健康的な食品の摂取頻度も増えていた。ファストフードの摂取頻度は有意な変化がなかった。
身体活動:運動量が大きく低下している実態が明らかに
身体活動に関しては、出勤回数がΔ=-0.2回/週、ウォーキングがΔ=-91.7分/週、中強度運動がΔ=-29.2分/週、高強度運動がΔ=-53.0分/週と、評価したすべての項目が減少していた(いずれもp<0.001)。
反対に座位行動は1,410.0分/週から1,897.8分/週となり、Δ487.9分/週と大幅に増加していた(p<0.001)。
属性や背景別にみた食生活や身体活動の変化
次に、解析対象者の属性や背景別に食生活や身体活動の変化を比較した結果をみてみる。
食生活の変化:低所得者は甘味飲料の摂取が増え、野菜・果物の摂取が減少
まず、外食の頻度に関しては、64歳以上の人は未満の人よりも有意に多く利用している実態がわかった(β=0.44回/週,p<0.01)。テイクアウトの利用は、高等教育を受けた群が受けていない群よりも多く利用していた(β=0.47回/週,p<0.001)。子どものいる人はいない人よりも家庭料理の回数が有意に多かった(β=0.55回/週,p<0.05)。
甘味飲料の摂取回数は女性より男性(β=0.07回/週,p<0.05)、就労者より学生や退職後・失業者(β=0.11回/週,p<0.01)で多かった。世帯収入が月3万香港ドル以下の人は、野菜(β=-0.23回/週)や果物(β=-0.36回/週)の摂取頻度が、高収入の人よりも有意に少なかった(p<0.001)。
BMIや婚姻状況、居住環境、慢性疾患の有無、主観的健康感は、パンデミックによる食生活への変化の程度に有意な関連がなかった。
身体活動:慢性疾患患者で中強度運動が減少
身体活動に関しては、まず、世帯収入が月3万香港ドル以下の人は高収入の人よりも出勤回数が少ない(β=-0.18回/週)一方、高等教育を受けた人も受けていない人より少ない(β=-0.17回/週)という結果だった(いずれもp<0.05)。ただし世帯収入が月3万香港ドル以下の人は、ウォーキングの時間が高収入の人よりも多かった(β=79.33分/週,p<0.01)。ウォーキングの時間に関しては、主観的健康感が高い人もそうでない人より多かった(β=48.84分/週,p<0.05)。
中強度運動の時間について、属性・背景による有意差がみられたのは、慢性疾患の有無であり、慢性疾患患者は非患者に比べて有意に大きく減少していた(β=-35.60分/週,p<0.05)。高強度運動については、公共または賃貸住宅に居住している人で、戸建て居住者に比し大きく減っていた(β=-55.8分/週,p<0.01)。
一方、座位時間に関しては、学生や退職後・失業者は就労者に比べて、大幅に増加していた(β=233.75分/週,p<0.001)。
性別や年齢、BMIは、パンデミックによる身体活動への変化の程度に有意な関連がなかった。
パンデミックの状況にあわせた公衆衛生戦略が必要
以上の結果から、「多くの研究と同様に、我々の研究からもパンデミック時に人々の身体活動量が減少していることが確認された。それに加え我々の研究では、低所得者層では、バランスのとれた食事と運動習慣レベルが低いことが観察された」と著者らはまとめている。結論として、「我々の研究は、社会的距離の確保が人々の在宅時間を延ばし、健康的な食事の機会を増やした一方で、身体活動量の低下を招いていることを示している。パンデミック下では、公衆衛生戦略の調整が政策立案者に求められる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Change in eating habits and physical activities before and during the COVID-19 pandemic in Hong Kong: a cross‐sectional study via random telephone survey」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2021 Apr 28;18(1):33〕
原文はこちら(Springer Nature)