運動習慣が新型コロナワクチンの効果を高める 市中感染症リスクのメタ解析で明らかに
一般集団では、身体活動により市中感染症の罹患リスクが31%、感染症に関連する死亡リスクが37%低下することが、これまでの研究のメタ解析の結果、明らかになった。また、身体活動がワクチンの効果を高める可能性も示された。著者らは、「現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を抑制するために、一般生活者の身体活動を奨励する必要がある」と述べている。
身体活動と感染症リスクの関連についての臨床的疑問を明らかにする試み
呼吸器感染症により世界で年間400万人以上が死亡している。呼吸器感染症は一般に感染力が強く急速に広がり、時にエピデミック、または現在のCOVID-19のようにパンデミックにつながることがある。
パンデミック抑制の基本戦略として、人々が自宅から外出しないことが推奨される。しかしその一方で、個人レベルでは屋外での身体活動が感染症リスクの低下に重要であることが示唆されている。ただし、身体活動の感染症抑止効果を定量的に検討した研究は限られている。
こうしたなかで行われた本研究は、以下の三つの臨床的疑問の答を見つけることが目的とされた。すなわち、(1)習慣的な身体活動によって市中感染症およびそれによる関連死のリスクが低下するか、(2)習慣的な身体活動は免疫能を向上させるか、(3)習慣的な身体活動はワクチン予防接種の効果を高めるか、という3点。
文献検索の手順
システマティックレビューとメタ解析は、ガイドライン(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses;PRISMA)に沿って実施された。
MEDLINE、Embase、Cochrane CENTRAL、Web of Science、CINAHL、PsycINFO、Sport Discusという7件のデータベースを用い、1980年1月~2020年4月14日に公開され、査読システムのある雑誌に掲載された英語論文を検索。適格基準は、18歳以上の成人を対象に行われた無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)または前向き観察研究とし、横断研究、症例対照研究、前後比較研究、定性的研究、レビュー論文、意見表明、および動物実験の報告は除外した。
また、アスリートまたは高度なトレーニングを行っている人を対象とした研究も除外した。これは、それらに該当する人は一般人口の平均的な身体活動量と乖離したトレーニングを行っているため。
検索により1万6,698件の論文がヒットし、ハンドサーチにより135件を追加。これらを2名の独立した研究者がスクリーニングし、666件が全文評価の対象とされ、最終的に7件の前向き観察研究と48件のRCTを含む55件が抽出された。
市中感染症のリスク低下と免疫能上昇が認められる
感染症罹患リスクと感染症関連死リスクを3~4割低下させ得る
6件の観察研究(合計対象者数55万7,487人)のメタ解析の結果、身体活動ガイドラインで推奨されている「中等強度以上の運動を週に150分以上」継続して行っている人は、市中感染症の罹患リスクが31%低いことがわかった(HR0.69〈95%CI;0.61~0.78〉,p<0.001)。また、4件の観察研究(合計対象者数42万2,813人)のメタ解析の結果、感染症関連死のリスクは37%低いことがわかった(HR0.64〈95%CI;0.59~0.70〉,p<0.001)。
免疫能の向上も確認
感染症リスク低下につながる免疫能の向上も認められ、習慣的な身体活動を行っている人はリンパ球数が有意に多い傾向がみられた。
例えばCD4は、24件の研究(合計対象者数1,112人)のメタ解析の結果、平均差32/μL(95%CI;7~56/μL)で身体活動を行っている群のほうが有意に多かった(p=0.011)。それらの研究における身体活動実施群では、1週間に3回(中央値)、1回あたり40分(同)、継続期間10週間(同。範囲は1~26週間)の身体活動が行われており、運動の種類は有酸素運動が10件、筋力トレーニングが9件含まれていた。
また、唾液中の免疫グロブリンA(IgA)レベルを評価した7件の研究(合計対象者数435人)では、標準化平均差 (Standardised mean difference;SMD)が0.756(95%CI;0.146~1.365)で身体活動を行っている群のほうが有意に高レベルだった(p=0.015)。それらの研究における身体活動実施群では、1週間に3回(中央値)、1回あたり30分(同)の中等度~高強度の運動を15週間(同)行っていた。
ワクチン接種の効果を高める可能性も明らかに
さらに身体活動には、ワクチン予防接種の効果を高める可能性を示す結果が得られた。具体的には、A型/B型インフルエンザウイルス、肺炎球菌、水痘帯状疱疹ウイルスに対するワクチンの効果を調べた計6件の研究(合計対象者数497人)では、抗体価のSMDが 0.142(95%CI;0.021~0.262)で身体活動を行っている群のほうが有意に高レベルだった(p=0.022)。それらの研究における身体活動実施群では、ワクチン接種の20週間前から週に3回、60分間の有酸素運動、または有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせて行っていた。
著者らは、「このシステマティックレビューとメタ解析の結果は、習慣的な身体活動が一般集団の感染症に対する抵抗力を高めることを示している。市中感染症への罹患や感染症による死亡のリスクを減らし、また予防接種政策の効力を強化するために、さらには現在のCOVID-19パンデミックの影響を軽減するために、一般の人々の習慣的な身体活動を奨励する必要がある」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Regular Physical Activity on the Immune System, Vaccination and Risk of Community-Acquired Infectious Disease in the General Population: Systematic Review and Meta-Analysis」。〔Sports Med. 2021 Apr 20;1-14〕
原文はこちら(Springer Nature)