アスリートの摂取エネルギー不足を評価する質問票13件の批判的検討
アスリートの利用可能エネルギー不足(LEA)や相対的エネルギー不足(RED-S)を評価するためのツールがこれまでに複数提案されている。文献的考察によって、それらを体系的に整理し特徴を批判的に検討したレビュー論文が発表された。13件の質問票について、詳細な検討が加えられている。
LEA、RED-S、トライアド評価ツールの文献的考察
利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability;LEA)や、スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S)、あるいは女性アスリートの三主徴(female Athlete Triad.トライアド)は、パフォーマンスの低下や健康障害につながる可能性がある。LEAやRED-S、トライアドのリスク評価のために、これまでに複数のスクリーニングツール(質問票)が提案されてきているが、それらのツールの使い分けや信頼性は必ずしも十分に検証されているわけではない。本論文の著者らは、過去10年の間に提唱された、アスリートのLEA、RED-S、トライアドリスク評価のための質問票を対象として、文献的考察によりそれらの適合性を調査し、批判的検討を行った。
文献検索にはPubMedを用い、検索キーワードは「女性アスリートトライアド」「トライアド」「アスリート」「男性アスリート」「女性アスリート」などを使用した。2010年1月~2020年7月の間に発行された英語論文であり、全文を入手できるものを選択した。
適格基準は以下の三つ。
1)LEA、RED-S、トライアドのリスクを評価するために質問票が使用されている研究、
または、2)LEA、RED-S、トライアドのリスクを評価するための質問票を作成した研究であり、
3)研究対象者は、アスリート集団(アスリート、レクリエーションアスリート、ダンサーなど)であること。
適格性は2人の著者の評価と合意によって判定された。
抽出された33報が取り上げている13件の質問票を論評
ヒットした271件の報告から重複の削除、抄録または全文のレビューによる適格性の判定により、33件の報告が抽出された。それらには、計13件の質問票が取り上げられていた。そのうち6件の質問票は女性用、1件は男性用、6件は男女双方で使用可能としていた。
論文では、各質問票の特徴を詳細に解説するとともに、評価対象や妥当性、信頼性などを一覧表として掲示している。本稿ではその一覧表から、要点のみを以下にまとめる。
アスリート摂食障害の簡易アンケート(Brief eating disorder in athletes questionnaire;BEDA-Q)
- 報告文献数:1
- 対象:青年期の女性エリートアスリート
- 質問項目数:9
- 使用目的:LEAの危険因子の評価。摂食障害のスクリーニング。摂食行動や体重・体型の懸念の評価
- カットオフ値:加重スコア0.27以上で摂食障害の可能性
- 妥当性・信頼性:感度82.1%(95%CI;76.6~87.6)、特異度84.6%(95%CI;79.4~89.8)、クロンバックのα0.81
摂食障害調査票 (Eating disorder examination questionnaire;EDE-Q)
- 報告文献数:5
- 対象:非活動的な男性および女性
- 質問項目数:28
- 使用目的:LEAの危険因子の評価。摂食障害のスクリーニング。体型、体重、摂食障害、および食事制限、乱れた食行動の評価。過食症、摂食行動コントロールの喪失、過食、嘔吐、下剤の使用、運動強迫の評価
- カットオフ値:食事制限スコアが3以上、病理学的行動が1以上の場合、LEAの可能性
- 妥当性・信頼性:感度83%、特異度96%、陽性的中率56%、クロンバックのα0.93、再テストの信頼性0.86超
摂食障害調査票-やせへの情動スコア(Eating disorder inventory - drive for thinness score;EDI-DTスコア)
- 報告文献数:4
- 対象:女性
- 質問項目数:7
- 使用目的:LEAの危険因子の評価。摂食障害のスクリーニング。食事への過度の懸念、体重へのこだわり、体重増加への恐れの評価
- カットオフ値:7以上を高いと判定
- 妥当性・信頼性:感度86%、特異度80%、クロンバックのα0.80超、再テストの信頼性0.75~0.94
プライマリケアのための摂食障害スクリーニング(Eating disorder screen for primary care;ESP)
- 報告文献数:2
- 対象:プライマリケアの患者と大学生
- 質問項目数:4
- 使用目的:LEAの危険因子の評価。摂食障害のスクリーニング。摂食行動、体重の懸念の評価、摂食障害の自己と家族からの報告の履歴の把握
- カットオフ値:3以上はLEAの可能性
- 妥当性・信頼性:感度100%、特異度71%
女性アスリートトライアドリスクスケール(Female athlete triad risk scale)
- 報告文献数:1
- 対象:女性アスリート
- 質問項目数:6
- 使用目的:LEAの危険因子と症状の評価。トライアドリスクスクリーニング。食事行動、月経機能、骨損傷歴の評価
- カットオフ値:3以上でトライアドのリスクあり
女性アスリートトライアドスクリーニングアンケート(Female athlete triad screening questionnaire)
- 報告文献数:1
- 対象:女性アスリート
- 質問項目数:12
- 使用目的:LEAの要因と症状のリスク。トライアドリスクのスクリーニング。乱れた食行動/摂食障害、体型のイメージ、月経歴、骨の健康の評価
- カットオフ値:さらなる評価の必要がある対象を特定するための質問に対する肯定的回答
女性のLEAF質問票(Low energy availability in female questionnaire;LEAF-Q)
- 報告文献数:1
- 対象:女性持久力アスリート
- 質問項目数:25
- 使用目的:LEAの症状の評価。LEAリスクスクリーニング。月経機能、怪我、病気の頻度、胃腸機能の評価
- カットオフ値:8以上はLEAの可能性
- 妥当性・信頼性:感度78%、特異度90%、クロンバックのα0.71以上、再テストの信頼性0.79
食事の態度と体重に関する質問(Meal attitudes and body weight questions)
- 報告文献数:1
- 質問項目数:2
- 使用目的:LEAの危険因子の評価。トライアドリスクのスクリーニング。1日あたりの食事の頻度、体重の把握
- カットオフ値:頻繁に意図的に体重を減らす、または、1日の摂食回数が2食未満の場合にLEAの可能性
RED-S特有スクリーニングツール(RED-S specific screening tool;RST)
- 報告文献数:1
- 対象:女性版は中高生女子サッカー選手、男性版は特定なし
- 質問項目数:25〜31
- 使用目的:LEAの危険因子と症状の評価。RED-Sリスクのスクリーニング。月経機能、活動レベル、栄養と食事、怪我、生理学的影響、心理的影響、骨塩密度に影響を与える因子の評価
- カットオフ値:RED-Sリスクについて、16歳未満の女性(月経なし)と男性(全年齢)は、100未満が低、101~400が中、400超が高。16歳以上の女性は、150未満が低、150~500が中、500超が高
- 妥当性・信頼性:女性版については婦人科健診にて検証済み(r=0.697、p<0.001)
若い男性サイクリストのRED-Sリスク測定(RED-S risk measurement for young male cyclists)
- 報告文献数:1
- 対象:17~23歳の男性サイクリスト
- 質問項目数:3
- 使用目的:LEA症状の把握。RED-Sリスクのスクリーニング。体重減少、怪我と病歴の把握
- カットオフ値:以下のうち1つ以上が該当する場合にLEAの可能性。最近1カ月での5%超の体重減少、疾患のための14日間超のトレーニングまたは競技からの離脱、怪我のための20日間超のトレーニングまたは競技からの離脱
スポーツ特有の質問票と臨床面接(Sport-specific questionnaire and clinical interview;SEAQ-I)
- 報告文献数:1
- 対象:男性ロードサイクリスト
- 質問項目数:6
- 使用目的:LEAの危険因子と症状の評価。LEAリスクのスクリーニング。体重、栄養状態の変化、トレーニング前後のエネルギー補給状況、骨損傷の履歴、疾患既往歴、投薬履歴の評価。
- 妥当性・信頼性:臨床スポーツ内分泌専門家、スポーツ科学者、スポーツ栄養士、競争力のある男性サイクリストおよびコーチによって妥当性に関する評価の報告
摂食関連3因子アンケート(Three-factor eating questionnaire;TFEQ)
- 報告文献数:2
- 対象:非肥満および肥満の男性と女性
- 質問項目数:51
- 使用目的:LEAの危険因子の評価。食事制限の把握
- カットオフ値:14以上は高値と判定
- 妥当性・信頼性:感度72%、特異度70.1%、クロンバックのα0.71、内的整合性0.93
女性アスリートトライアドのコンセンサスパネルスクリーニング質問票(Triad consensus panel screening questions by the female athlete coalition)
- 報告文献数:1
- 対象:女性アスリート
- 質問項目数:11
- 使用目的:LEAの危険因子と症状の評価。トライアドリスクのスクリーニング。月経機能、体重の懸念、摂食行動、摂食障害の既往、骨機能の評価。
考察と結論
本研究の限界点として著者らは、2010~2020年の10年間に英語で発表された論文を、1件の文献データベースのみで検索していることから、収集した報告が十分でない可能性があるとしている。一方、本研究から明らかになったこととして、提案された13件の質問票のうちアスリートを対象に信頼性が評価されているものは8件にとどまることや、質問票開発時の意図とは異なる対象で使用されているケースが少なくないことが挙げられるとしている。
結論としては、「これらの質問票は、摂食行動の乱れや過度のトレーニングを行っているアスリートを早期に見い出すのに役立つ。ただし、意図的なエネルギー制限を行っているアスリートを特定することはできるが、トレーニング需要の増加に伴うエネルギー摂取量を増やすことができていないアスリートを特定するには限界がある」と述べている。また、重要なこととして、「これらの質問票は、LEA、RED-S、トライアドの診断ツールではなく、スクリーニング手段としてのみ使用されるべき」と注意を喚起している。
文献情報
原題のタイトルは、「Review: questionnaires as measures for low energy availability (LEA) and relative energy deficiency in sport (RED-S) in athletes」。〔Review J Eat Disord. 2021 Mar 31;9(1):41〕
原文はこちら(Springer Nature)