ビタミンDサプリは、アスリートのCOVID-19リスク低減とパフォーマンス向上に効果があるのか?
ビタミンDサプリメントがアスリートにどのようなメリットをもたらすのか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク低減とパフォーマンス向上という二つの視点で掘り下げたナラティブレビュー論文が「Nutrients」に掲載された。筆頭著者は、ビタミンD摂取を推奨する多くの著作を発表してきている米国の日光・栄養・健康リサーチセンター(Sunlight, Nutrition, and Health Research Center)の研究者。
論文の前半は主としてビタミンDによるCOVID-19罹患リスク抑制の可能性について、後半はスポーツパフォーマンスとの関連についてまとめられている。以下に要旨を紹介する。
25(OH)DとCOVID-19の関連についての観察研究
血清25-水酸化ビタミンD[25(OH)D]レベルとCOVID-19の罹患率、重症度、死亡に関して15以上の観察研究が、査読付きジャーナルに発表されている。それらのうち3件は25(OH)Dのメリットを報告していないが、他の研究は25(OH)DレベルとCOVID-19の重症度の逆相関を報告している。要約すると、25(OH)Dレベルが15ng/mL未満ではCOVID-19の重症度と死亡リスクは高くなり、それ以上でも恐らく30ng/mLまでの低値はCOVID-19感染のリスクの増加と関連している。
COVID-19のビタミンDによる治療
COVID-19治療におけるビタミンDの効果に関するランダム化比較試験(RCT)の結果は、2020年8月下旬に最初に報告された。集中治療室(ICU)入室のオッズ比は、ビタミンD投与群で0.02(95%CI:0.002~0.17)だった。2番目のRCTはインドから報告された。COVID-19の重症化や死亡との関連が示唆されているフィブリノーゲン値が、ビタミンDでは低下したのに対し、対照群では変化がなかった。このほか、11月9日時点で30件の観察研究がCOVID-19または新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と血清25(OH)Dレベルの低下との関連を報告しており、少なくとも33件の臨床試験が進行中である。
COVID-19とアスリート
アスリートにとってCOVID-19関連の懸念は、罹患することに加えCOVID-19が多くの臓器に短期的または長期的なダメージを引き起こす可能性があることだ。主に呼吸器と心血管系への影響が報告されている。それら臓器のダメージは運動パフォーマンスを低下させる。
最近のレビューでは、SARS-CoV-2感染後に身体機能とフィットネスが損なわれ、その障害は1年以上続く可能性があると結論付けられている。よってアスリートはCOVID-19のリスクを減らすように努めることが不可欠と言える。
もう一つの懸念は、COVID-19パンデミックにより身体活動が制限されるため、それぞれの競技固有のスキルや意思決定能力などの維持が困難となり、トレーニング再開時に負傷リスクが高まることだ。現在、各種の団体・組織から競技再開に向けたガイドラインが発行されており、それらがリスク軽減に役立つだろう。
アスリートパフォーマンスとビタミンD
近年、競技スポーツのチーム運営組織は、所属選手のパフォーマンス改善のためのビタミンD摂取に注目するようになってきた。ビタミンD欠乏症と判定されたアスリートに対し、紫外線照射によって運動能力が改善したとの報告や、ビタミンD 5,000IU/日を摂取させる戦略をとったアイスホッケーチームが実際に成績を向上させた事例など、多数報告されている。
基礎的研究領域でも、ビタミンDが速筋細胞の数を増加させることなどが報告されている。
ビタミンD摂取のデメリット
卵や魚、肉などのビタミンDの食事源は、スポーツパフォーマンスの向上やCOVID-19のリスク抑制に十分なビタミンDを供給しない。一方、ビタミンDの摂取量が多くて25(OH)Dレベルが高い場合は、悪影響はほとんどない。高カルシウム血症が生じ得る悪影響であり、その症状には、集中力の低下、錯乱、無関心、抑うつ、極端な場合には昏睡に至ることがある。ただし軽度の高カルシウム血症は、これらの症状のごく一部のみが該当する。
また、解析対象者数の合計が1万9,833人に達するビタミンDのRCT48件のメタ解析では、腎結石が9件の試験で報告され、プラセボ群よりもビタミンD群で結石の報告が少ない傾向があった(リスク比〈RR〉0.66,95%CI:0.41~1.09,p=0.10)。37の研究で高カルシウム血症が検討され、ビタミンD群でリスクが増大していた(RR1.54,95%CI:1.09~2.18,p=0.01)。また、高カルシウム尿症のリスクも14件の研究で検討され、有意なリスク上昇が認められた(RR1.64,95%CI:1.06~2.53,p=0.03)。
ただし、1件の研究はビタミンDを100,000IU/日という極めて高用量使用し、11件の研究はカルシウムも併用していた。これらの研究を除外した解析では、ビタミンD摂取による高カルシウム血症のリスクは重要なものではない可能性が高い。
ビタミンDのその他の健康上のメリット
10代~30代半ばまでの現役アスリートである可能性が高い年齢の人にとって、ビタミンDレベルによって影響を受ける可能性のある健康上のメリットは他にも挙げられる。例えば、気道感染症や2型糖尿病の発症抑制、妊娠中の女性が摂取した場合の母体、胎児/新生児への多面的効果などだ。
結 論
アスリートは、血清25(OH)Dレベルを40ng/mL以上に維持することによって、スポーツパフォーマンスの向上、健康状態の改善、およびCOVID-19リスクの低減などのメリットを期待できる。ビタミンDレベルを適正にするには、身長、皮膚の色素沈着、およびその他の個人的な要因により異なるものの、多くの場合、4,000~10,000IU/日を数カ月続けることで到達するだろう。スポーツパフォーマンスの向上のため、またはCOVID-19のリスクを回避するために、より早く高レベルにする必要がある場合は、高用量での開始を検討する必要がある。
なお、ビタミンDの摂取は、COVID-19の罹患リスクと罹患時の重症度を軽減するのに役立つと考えられるが、当然ながら唯一の手段ではない。アスリートは、マスクの着用、社会的距離の確保など、各組織から公表されているガイドラインにも従うべきである。
文献情報
原題のタイトルは、「The Benefits of Vitamin D Supplementation for Athletes: Better Performance and Reduced Risk of COVID-19」。〔Nutrients. 2020 Dec 4;12(12):E3741〕
原文はこちら(MDPI)