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COVID-19に対する世界の行政府、保健機関の推奨事項をレビュー 食事やサプリメント、母乳育児、食品衛生など

2020年08月04日

これまでのところ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンやエビデンスに基づく治療法は確立されていない。そのため現実的な対策として、バランスの取れた食事による栄養摂取の最適化と、食品の選択、準備、保存における適切な衛生管理は、恐らく最も効果的な感染抑止のためのアプローチであろうと考えられる。実際、COVID-19のパンデミックに対しては、国際的な健康政策関連機関や、各国々の行政府がさまざまな感染防止策をアナウンスしているが、その内容の多くは栄養摂取に関する推奨事項である。

新型コロナウイルスに対する世界の保健・栄養機関の推奨事項の傾向と比較

こうした中、本論文の著者らは、これら各機関・各国の推奨を収集し、ナラティブレビューを試みた。その結果、ガイドラインの大半が、果物、野菜、および全粒穀物の摂取を奨励し、また、31%はミネラル・ビタミン類による免疫能維持の重要性を指摘していたという。

世界中の行政府、保健機関の推奨をレビュー

このナラティブレビューは、2019年12月から2020年4月というCOVID-19パンデミックの拡大局面で実施された。世界中の政府および非政府の保健機関からのガイドラインおよび公式文書をスクリーニング対象とした。2名の研究者が、「コロナウイルス」、「COVID-19」、「COVID」、および「栄養」または「ダイエット」というキーワードで、PubMed、SciELO、Cochrane、およびGoogleデータベースでガイドライン、ポジションペーパー、公式文書を検索。ヒットした48件のドキュメントのうち、13件を本ナラティブレビューの対象とした。

13件のうち8件は各国の栄養学会・団体が関与し、6件は各国政府の発行(オーストラリア、ブラジル、カナダ、イタリア、スペイン、米国)、5件は国際的な保健機関(国連食糧農業機関〈FAQ〉、世界保健機関〈WHO〉、国連児童基金〈UNICEF〉、欧州食品情報評議会〈EUFIC〉、および米国疾病対策予防センター〈CDC〉)のガイドラインだった。

食事に関する推奨

特定の食品、栄養素に関する推奨

抽出された13件のうち9件(約70%)は、果物、野菜、および全粒穀物の摂取を推奨していた。なかでもイタリア、スペインの栄養学会は、1日に5サービングという量を推奨していた。約3分の1のガイドラインは、ビタミンやミネラルにスポットを当て、免疫システムを最適化するためにこれらが重要であるとしていた。

控えるべき食品

約3分の1のガイドラインは、塩分、脂質、砂糖の摂取を避けることを推奨していた。具体的に、糖質飲料、その他の糖分の多い製品、肉類、およびその他の動物由来の食品、飽和脂肪の削減を奨励し、かわりに低脂肪乳製品、健康的な脂質(例えば、オリーブオイル、魚油)の摂取や、塩の代用としてのスパイス、ハーブの使用を勧めていた。

水分摂取

水分摂取は3件で奨励されていた。ただし、摂取すべき水分量を具体的に示したものはなかった。

著者らは、水分摂取量が少ないと、とくに高齢者は深刻な影響を受ける可能性があると述べている。体内への水の供給は、飲料が約75%、食物から約25%とされ、後者の食べ物ではとくに果物や野菜などの生鮮食品に含まれている水分からの摂取量が多い。よってCOVID-19のパンデミック時に、栄養士や医療者は、飲料水、お茶、牛乳、およびその他の水を含む食品を摂取することの重要性をアドバイスする必要があるという。

加工食品について

一部のガイドラインは、未加工食品を推奨しながらも、それらの入手が困難な場合の対策として、乾燥・冷凍食品、または缶詰食品(例えば、魚、果物、スープ)を代替案として提案している。なお、パンデミック中に加工食品を購入するという行動は、世界に共通してみられる傾向だという。

肥満との関係

肥満がCOVID-19による重度の肺炎のリスクであることはエビデンスが蓄積されつつある。肥満は呼吸を抑制し、免疫能力を弱め、炎症反応を亢進させる。また、糖尿病や心血管疾患、および腎臓病のリスクの増加とも肥満は関連しており、これらのすべてがCOVID-19重症化のリスク因子と考えられてる。

COVID-19対策としてこの局面で減量すべきとしているガイドラインはないが、3件は体重増加を回避することの重要性を強調している。

栄養補助食品(サプリメント)に関する推奨

抽出されたすべての文書が、COVID-19を防止する既知のサプリメントは現在存在しないと述べていた。栄養所要量の推奨値を満たすためにサプリメントを使用することが検討可能とする文書は2件だった。

ある種のビタミンやミネラルは免疫力を向上させる。しかし、より多く摂れば良いという考えは誤解であり、ビタミンやミネラルの大量摂取は、ときに有害事象を引き起こすことがある。

特定のビタミン、ミネラル

ブラジル臨床栄養学会は、ビタミンCの摂取が呼吸器ウイルス感染症のリスク低下に役立つ可能性があると述べている。ビタミンCは、激しい身体活動を行う人の風邪の発症を短期的に防ぐのに役立つかもしれない。

ビタミンDも、感染症予防の効果が検討されているビタミンの一種だが、今回のレビューの対象となった文書はいずれも、COVID-19に対する予防療法としてのビタミンD摂取に言及してない。ただし最近、ビタミンDレベルとCOVID-19の転帰の関連を指摘したデータが報告されており、ビタミンDレベルの低い対象ではその補給によりCOVID-19に関連する健康リスクを軽減できる可能性はある。少なくとも、ロックダウン中の運動不足や日光曝露減少の影響を抑え、骨量を維持するというメリットは期待できるかもしれない。

ミネラルでは亜鉛とセレンが免疫能向上や炎症抑制の観点から研究が進められている。

まとめると、サプリメントより食品からこれらの栄養素を摂取することが望ましいが、食事要件を満たすことができない状況においては、サプリメントが推奨される。栄養補助食品に関する重要なメッセージは、COVID-19を防ぐために栄養補助食品に依存すべきではないということだ。

母乳育児

母乳育児は、母と児の双方に多くのメリットをもたらす。母乳には児の免疫システムに役立つ重要な抗体が含まれており、ウイルスや細菌の感染から保護する。

今回のレビューで抽出された13のドキュメントのうち6件がこのトピックに言及している。そしてCOVID-19と診断された女性であっても、母乳育児の継続を推奨していた。ただし、マスクの着用、乳児に触れる前後の手洗いなど、適切な衛生管理は必要。

:日本小児科学会は、5月31日時点で「母親が感染している場合は接触や咳を介して子どもに感染させるリスクがあるため直接の授乳は避ける。母乳自体の安全性については現時点では明らかではないが、中国からの報告では、感染した女性26名の母乳にウイルスは検出されなかったとされている。従って、母親が解熱し状態が安定していれば、手洗い等を行った上で'搾乳'により母乳を与えることは可能と思われる」とアナウンスしている。
新型コロナウイルス感染症に関するQ&Aについて(日本小児科学会)

食品衛生

本レビューで抽出された文書の約54%に、食品衛生に関するガイダンスが含まれていた。食品や食品の包装がCOVID-19の伝播に関連しているという説得力のあるエビデンスは現在存在しない。

一方、糞口感染のリスクは低いながらも存在し、気道からのウイルス排出がなくなった後も持続する可能性がある。そのため、すべての文書が、食品を取り扱う際の適切な衛生管理の重要性を強調し、石鹸と水またはアルコールベースの手指消毒剤による頻繁な手洗いの必要としている。

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary recommendations during the COVID-19 pandemic」。〔Nutr Rev. 2020 Jul 12;nuaa067〕
原文はこちら(Oxford University Press)

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