日本人エリート陸上アスリートの63.9%がサプリメントを利用 女性、長距離でより高率
国内のエリート陸上競技選手のサプリメントの利用状況が明らかになった。アスリートの約3分の2が利用しており、男性より女性、ジュニアよりシニアのほうが利用率が高く、種目別では長距離ランナーで高いという。慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターの田畑尚吾氏らによる論文が「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に掲載された。
うっかりドーピングのリスク回避のためにも、サプリメントの利用状況の把握が必要
スポーツアスリートのサプリメントの利用率は一般集団に比較し高く、約60%とするメタ解析の報告などがみられる。ビタミンやミネラルなど多くのサプリメントが存在するが、明確なエビデンスのあるものは限られている。その一方で、禁止されている成分を含む製品も流通しており、不用意な使用は意図しないドーピング"うっかりドーピング"のリスクを伴う。日本人アスリートのドーピングは、その報告件数自体は少ないもののサプリメント等による"うっかりドーピング"の割合が高いことが報告されており、アスリートやコーチは常にそのリスクを認識しておくことが求められる。
一方、世界アンチドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)の2016年のデータによると、競技カテゴリー別では陸上競技アスリートのドーピング件数が最多と報告されている。このことから、陸上競技アスリートのサプリメント利用状況を把握する必要性が高いと言えるが、日本人エリート陸上アスリートの利用状況は明らかになっていない。
日本代表選手約600名に、陸連医事委員会が調査
本研究の調査対象は、2013年7月から2018年10月に開催された38の陸上競技国際大会のいずれかに、日本代表として参加したアスリート。大会参加前に、日本陸上競技連盟(陸連)の医事委員会から各アスリートにサプリメントの利用状況に関する調査票が送られ、それを回収し解析した。
解析対象となったのは、20歳未満のジュニアアスリートが275人(17.7±1.1歳)、シニアアスリートが299人(25.2±3.9歳)で、性別は男性314人、女性260人。競技種目は、短距離(400m以下)、中距離(800~1,500m)、長距離(3,000m以上、3,000m障害、マラソン、競歩)、ハードル、跳躍(走り幅跳び、三段跳び、走り高跳び、棒高跳び)、投てき(砲丸投げ、円盤投げ、ハンマー投げ、槍投げ)、および混成競技(七種と十種)で、選手数は長距離が最も多く319人、短距離97人、跳躍86人、投てき65人と続いた。
サプリメントの成分は、国立スポーツ科学センターのサプリメントの分類に基づき、以下の11のカテゴリーに分類し検討した。蛋白質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、クレアチン、カフェイン、フィッシュオイル、ユビキノン(コエンザイムQ10)、ハーブサプリメント、 その他。
利用率63.9%。ジュニアよりシニア、男性より女性で高く、種目では長距離がトップ
それでは、結果をみてみよう。
まず、サプリメントを利用しているアスリートの割合は、回答者の約3分の2に相当する63.9%だった。性別に分けると、男性59.6%、女性69.2%で、女性のほうが有意に利用率が高かった(p=0.018)。また、ジュニアアスリートは58.9%、シニアアスリートは68.9%で、後者が有意に高かった(p=0.012)。
種目別では、長距離アスリートの利用率が最も高く75.8%、次に中距離の71.7%であり、以下、短距離(57.7%)、ハードル(57.4%)と続き、跳躍(52.3%)や、投てき(49.2%)、混成(44.4%)は利用率が比較的低かった。
1人平均1.4種類を利用しており、最大は12種類
利用されていたサプリメントは合計817種類で、アスリート1人あたり平均1.4種類だった。1人で最も多く使用していたのは女性のシニアマラソン選手で、12種類利用していた。
性別にみると、男性1.3±1.4種、女性1.6±1.7種で、女性のほうが有意に多かった(p=0.008)。年齢層別では、ジュニアが1.0±1.2、シニアが1.8±1.8で、後者のほうが有意に多かった(p<0.001)。種目別では、長距離が最も多く1.9±1.8種で、以下、中距離、ハードル、混成競技と続き、その他の競技(短距離、投てき、跳躍)は長距離に比し利用サプリメントの種類が有意に少なかった(p<0.05)。
成分ではアミノ酸が最多。性別や競技種目などで傾向が異なる
利用されているサプリメントの成分は、アミノ酸が最多で49.8%を占めた。その他、ビタミン(48.3%)、ミネラル(22.8%)、蛋白質(17.8%)と続いた。
男性は女性よりも、蛋白質(20.7 vs 14.2%)、クレアチン(12.1 vs 5.5%)の利用率が有意に高かった。反対に、ビタミン(43.3 vs 55.4%)、アミノ酸(43.3 vs 56.5%)の利用率は女性のほうが有意に高かった。ジュニアとシニアの比較では、シニアアスリートのほうが、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、クレアチン、魚油などの利用率が有意に高かった。
種目別にみると、長距離ランナーはビタミンやミネラルなどの利用が多い一方で、クレアチンの利用は少なかった。一方、短距離はクレアチンの利用が多く、ビタミンやミネラルなどは少なかった。その他、投てきでは蛋白質やクレアチンが多いなど、競技種目により利用されるサプリメントに異なる傾向が認められた。
これらの結果をもとに著者らは、「日本のエリート陸上アスリートの約3分の2がサプリメントを使用している。性別、年齢層、競技種目別による分析では、女性、シニアアスリート、長距離ランナーの利用率が有意に高いことが示された。利用頻度の高い成分はアミノ酸とビタミンだが、種目によって傾向が異なる」と結論づけるとともに、サプリメントの有効性に関するエビデンスレベルと、各成分の利用率には解離を認めたことから、「サプリメントの利用に際しては製品の有効性と安全性を調べ、必要性を慎重に考慮すべき」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Use of nutritional supplements by elite Japanese track and field athletes」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2020 Jul 22;17(1):38〕
原文はこちら(Springer Nature)