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快適な気温であっても水分が不足するとパフォーマンスは低下する

暑熱環境下では水分摂取の不足によりパフォーマンスが低下することは広く知られているが、快適な環境においても同様の影響が生じることが、3km走行のタイムトライアルの結果として報告された。暑熱環境ではなく、アスリートが経験することの多い一般的な気温においても、水分を摂らずに体重が軽くなることによるメリットは期待できないことが示された。

快適な気温であっても水分が不足するとパフォーマンスは低下する

快適な環境で生じる脱水はパフォーマンスにどのような影響を与える?

高温(hot)または温かい(warm)気温でスポーツを行い、発汗により体重が2%以上減るような状態は脱水に相当し、パフォーマンスが低下する。そのため、そのような環境温度でのトレーニング中や競技中には、積極的な水分摂取による脱水の補正・予防が推奨されている。

ただし、気温がそれほど高くなく、快適(temperate)と感じられる環境で生じる軽度の脱水が、パフォーマンスにどのような影響を及ぼすのかは十分な検討がなされていない。持久系の競技では、体重が軽いことが記録に有利な影響を及ぼすことがあるため、快適な環境であれば、脱水による体重減少が脱水による生理学的な負の影響を相殺し、むしろ記録が向上することも、可能性としては考えられる。

この疑問に近い研究仮説を立てて行われた過去の研究として、温かい(warm)な環境下で利尿薬を用いて脱水を誘発した研究や、テスト開始の24時間前から水分摂取量を制限して脱水を誘発した研究が行われている。しかし、それらの研究はいずれもアスリートに脱水が生じる状況として自然な条件とは言えず、また快適(temperate)な環境での研究は行われていない。

これらを背景として、今回紹介する論文の著者らは、快適な環境下でより自然に運動誘発性に生じた脱水が、パフォーマンスへどのように影響を及ぼすかを検討した。

研究の目的と方法

この研究の当初の目的は、(1)快適(temperate)な環境下で運動誘発性に生じた脱水が、3kmランニングパフォーマンスに及ぼす影響の検討、および、(2)運動誘発性の脱水を繰り返すことによる馴化によってパフォーマンスに生じる変化の検討――という二つをもっていた。ただし、研究期間中に新型コロナウイルス感染症パンデミックが発生したため、後者の目的での研究は中止された。論文は前者の研究の結果についてのみ報告されている。

研究参加者

この研究は17人の男性アスリートを対象とするクロスオーバー試験として行われた。年齢は22±1歳、BMI24.7±2.9、VO2peak52.5±4.1mL/kg/分、トレーニング頻度6±2/週、トレーニング時間8±3時間/週で、全員が競技会に出場経験があり、Tier 2に該当するアスリート。

条件の標準化

研究は、参加者個人のVO2peakやテスト中に提供する水分量を決定するための予備テストと、実際の検討を行うテスト(実験的テスト)の2段階で行われた。

まず、予備テストの前日の食事摂取量と身体活動量を記録してもらい、実験的テストの前日に再現してもらうようにした。研究期間中は激しい運動と飲酒を禁止した。また、前日に40mL/kgの水を提供するとともに、それ以外に摂取した水分をすべて記録し、やはり実験的テストの前日にも再現してもらった。

テスト当日には、研究室到着の4時間前に炭水化物1.5g/kgと8mL/kgの水分、研究室到着の1時間半前に1g/kgの炭水化物と7mL/kgの水分を摂取してもらった。なお、脱水条件と脱水補正条件の試行には、5日以上のウォッシュアウト期間を設けた。

予備テスト

体重や体組成の測定に続き、トレッドミルを用いたランニングでVO2peakを計測。さらに、室温23.5℃未満、相対湿度40%未満の環境で3kmのタイムトライアルを行った。このテストで生じた体重の変化と水分摂取量を基に発汗量を計算し、実験的テストで提供する水分量を決定した。

実験的テスト

研究室に到着し15分間の座位安静後に採血と排尿、計量を済ませ、23.9±0.4℃、相対湿度44.4±4.6%に維持されたチャンバーに入室した。まず、脱水を誘発するために、65%VO2peakで6分間のランニングを12回(1分間の休息を挟む)実施。脱水補正条件では、予備テストで示されていた個々の発汗量の95%を補うために水が提供され、運動テストの直前にボーラス(15%)摂取、残りの水分(85%)は運動中の12ブロック間の小休憩に分けて摂取することとした。一方、脱水条件では、運動の直前と4ブロック目および8ブロック目後の小休憩時に各20mL、計60mLのみを摂取することとした。

6分間×12回の走行終了後は15分間の座位安静後に2回目の採血と排尿、およびタオルで汗を拭いた後に計量。続いて3kmのランニングタイムトライアルを行った。タイムトライアル中は2.6±0.3m/秒の向かい風を与えた。走行中にはトレッドミルの速度を自分自身で自由に調整できたが、与えられる情報は500m走行ごとの研究者からの通知のみだった。また、周囲からの激励は行わなかった。

脱水補正条件で有意に良好な記録

評価項目として、タイムトライアルの記録のほかに、心拍数、消化器症状、口渇感、熱感覚、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)、呼気ガス分析に基づく炭水化物および脂質の酸化速度などを測定した。なお、脱水補正条件と脱水条件で、チャンバー内の室温、相対湿度、風速に有意差はなく、またテスト前時点における研究参加者の体重、口渇感、尿浸透圧、血漿浸透圧も条件間の有意差はなかった。

実験的テスト開始後の循環血漿量、血清浸透圧、口渇感の推移は条件間で有意に異なり、脱水条件では経時的な血漿量減少、浸透圧上昇、口渇感の増大の変化が大きかった。また、心拍数については、6ブロックおよび10ブロック目において、脱水条件のほうが有意に高値となった。ただし、タイムトライアル中の心拍数は有意差がなかった。

脱水条件で-6.1%のパフォーマンス低下

では本研究の主題であるタイムトライアルの記録をみると、脱水条件では脱水補正条件に比べて-6.1±5.0%の有意なパフォーマンス低下が認められた。走行時間を四つに分割して比較すると、最初の25%と最後の25%の時間帯は条件間の有意差がなく、25~75%という中盤の走行速度に有意差が生じていたことがわかった。

このほか、自覚的運動強度(RPE)や熱感覚は、脱水誘発のための運動中のいくつかのタイミングで有意差が認められ、脱水条件のほうがスコアが高く、運動強度や暑さをより強いと感じていた。一方、腹部膨満感は、いくつかのタイミングで脱水補正条件のほうがスコアが高かった。

以上に基づき論文の結論は、「快適な温度ではマイナスの体液バランスによる体重減少にもかかわらず、体重の約2%の脱水によって3kmランニングタイムトライアルのパフォーマンスが低下した。パフォーマンスの低下は、心拍数の増加と血漿量の減少や熱感覚の増大によって媒介された可能性があり、それによってRPEの認識が変化したと考えられる。快適と思われる気温であっても、長時間のセッションに参加するアスリートは、脱水による体重減少を2%未満に抑制するための水分摂取戦略を採用する必要がある」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Exercise-induced hypohydration impairs 3 km treadmill-running performance in temperate conditions」。〔J Sports Sci. 2023 Jun;41(12):1171-1178〕
原文はこちら(Informa UK)

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