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暑熱環境下では視覚追従運動のコントロールが悪化することを初めて実証 暑さに慣れることの重要性も示唆される

暑熱環境下ではスポーツパフォーマンスなどが全体的に低下することは経験的にも実験的にもよく知られているが、技能トレーニングの効果にも影響が生じることを示唆する研究結果が報告された。ただし、暑熱環境にある程度なれることで、パフォーマンスへの影響を抑制できる可能性も示された。新潟大学教育学部運動と環境生理学研究室の大学院生 青木真生氏と天野達郎氏らおよび新潟医療福祉大学の佐藤大輔氏らの共同研究によるもので、「International journal of environmental research and public health」に論文が掲載された。

暑熱環境下では視覚追従運動のコントロールが悪化することを初めて実証 暑さに慣れることの重要性も示唆される

暑さはトレーニング効果にも影響を及ぼすのか?

暑熱環境での熱中症予防やパフォーマンス低下の抑制戦略については、これまで多くの研究がされてきており、屋外労働者の就労環境の改善やスポーツアスリートの成績向上に役立てられてきている。しかし、暑熱環境でのトレーニングも非暑熱環境下と同様にスキルを向上させるのか、または効果が減弱するのかといった研究はこれまで行われていない。そこで天野氏らは、視覚運動スキルのトレーニング効果を、暑熱環境と非暑熱環境で比較するという、以下の研究を行った。

25°Cと35°Cの2群で視覚運動の学習効果を確認

研究の対象は健康な若年成人29人(女性7人)。なお、後述の視覚運動スキルを評価するテストを、過去に受けたことがある被験者はいなかった。

無作為に2群に分け、1群は暑熱環境(35°C)、他の1群は非暑熱環境(25°C)でテストを行う群とした。相対湿度はともに45%とした。年齢や体重、身長に有意差はなく、全員が非喫煙者で処方薬を服用していなかった。また、テスト時の衣服は両群ともにスポーツウエアとした。

テスト開始の24時間前からカフェインやアルコールの摂取と激しい運動禁止。前夜に500mLの水、テストの2時間前までに500mLの水分と食事を摂取してもらい、研究室到着時点に採尿し、脱水状態でないことを確認し、人工気象室に入室から2時間経過後、視覚運動スキルテストを開始した。

視覚運動スキルの評価方法は、パソコンのディスプレーに表示される線を、コントローラーを使ってできるだけ正確になぞるというもの(visuomotor accuracy tracking;VAT)。1回あたり11秒で、これを連続5回で1ブロックとした。

まず最初に、このスキルを習熟するフェーズ(習熟フェーズ)として、1分間の休憩をはさみながら連続10ブロック試行。それから暑熱暴露を4時間継続し、それぞれ1時間後、2時間後、および4時間後に、習得したスキルが維持されているかを確認するフェーズ(維持フェーズ)として、各1ブロックずつ施行した。一連の試験中、被験者は自由に水を飲むことができ、読書も許可されたが、睡眠は不可とした。

評価項目は、VATテストのエラーの程度(ディスプレーに表示された線となぞった線の乖離の距離)、深部体温(直腸温)、皮膚温など。また、暑熱感覚と不快感、覚醒レベルを自己評価してもらった。

習熟フェーズでは暑熱環境でエラーが増大し、心血管反応にも有意差

暑熱環境ではVATテストのエラーが多いが、習熟後は有意差なし

結果について、まずVATテストのエラーに着目すると、習熟フェーズでは両群ともに試行ブロックを重ねるほどエラーが少なくなっていたが、暑熱環境群のほうがエラーが大きく、両群間に有意差が認められた。ただし、維持フェーズに入ると、暑熱環境群のほうがエラーは多いものの、非暑熱環境群との群間差は非有意となった。

皮膚温は常時有意差が維持され、深部体温の差は徐々に拡大

皮膚温は習熟フェーズ、維持フェーズを通して、暑熱環境群のほうが約3°C、有意に高値で推移していた。一方、深部体温に関しては、暑熱環境群のほうが高値ではあったが習熟フェーズでの群間差は有意でなかった。ただし維持フェーズに入ると群間差が拡大し、最大0.4°Cの有意差が生じた。

心血管反応は維持フェーズに入ると群間差が非有意に

心血管反応のうち平均動脈圧は、習熟フェーズにおいては暑熱環境群のほうが有意に低値で推移していた。ただし維持フェーズに入ると群間差は認められなくなった。

心拍数は習熟フェーズにおいて、暑熱環境群のほうが有意に低値で推移していた。維持フェーズに入ったあとも暑熱環境群のほうが低値だったが、群間差は非有意となった。

不快感も維持フェーズに入ると有意差が消失

自己評価に基づく暑熱感覚は、暑熱環境群のほうが習熟フェーズ、維持フェーズともに有意に高値だった。一方、不快感については、習熟フェーズでは暑熱環境群のほうが有意に高値だったが、維持フェーズでは有意差がなかった。

暑熱環境に対する不快感の減弱がパフォーマンス維持につながる?

まとめると、25°Cと35°Cという環境温度の10°Cの違いによって、皮膚温は約3°Cの差が生じ、深部体温は維持フェーズに入ったころから差が拡大し、最大0.4°Cの有意差となった。暑熱環境では習熟フェーズでのVATテストのエラーが有意に多かった。ただし維持フェーズに入るとその差は非有意となった。同様に、心拍数や平均動脈圧、不快感についても、習熟フェーズで認められた有意差が、維持フェーズでは消失した。

著者らは本研究を、「暑熱曝露によって、VATテストで評価される運動スキルの獲得が妨げられることを実証した初の研究」と位置づけたうえで、「いったん獲得したスキルは、その後の暑熱暴露の継続には影響されず、これには暑熱環境に対する不快感が減弱することが関係している可能性がある」と結論をまとめている。

また、この知見を活かし得る領域として、スポーツアスリートのトレーニング、消防士などの労働環境の調整などを挙げ、「暑さの中でのパフォーマンス低下を防ぐための最適な介入戦略の開発のため、さらなる研究が求められる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Influence of Heat Exposure on Motor Control Performance and Learning as Well as Physiological Responses to Visuomotor Accuracy Tracking Task」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Sep 28;19(19):12328〕
原文はこちら(MDPI)

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