メントールの冷感が運動持続時間を延長 運動に伴う息苦しさを和らげ有酸素運動を心地よく継続
高強度ランニング中のL-メントール溶液の摂取が、運動中の息苦しさを緩和させ、ランニング時間を伸ばすことが、実験的に証明された。東北大学の研究チームの研究によるもので、「European Journal of Sport Science」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究チームでは、L-メントールの冷感による運動時間の延長効果は、すでに運動に取り組んでいる人の運動能力向上だけでなく、運動習慣のない人の運動取り組みへの第一歩や運動継続に役立つと期待されるとしている。
研究概要:暑熱対策以外でのメントールの可能性を探る
L-メントール※1には冷感作用があり、暑熱対策に使用されている。また、喉の痛みや鼻詰まりの緩和などにも使われているが、持久運動中の息苦しさと持久運動能力に及ぼす影響についての研究はこれまでなかった。
東北大学大学院医工学研究科の研究チームは、高強度ランニング運動におけるL-メントールの飲用が運動中の息苦しさを緩和し、持久運動能力を伸ばすことを初めて実験的に明らかにした。
研究内容:非暑熱環境下でエリートランナー対象に研究
暑熱環境下の持久運動中にL-メントール溶液を摂取すると、暑さによる不快感が軽減して運動能力が伸びることが報告されている。また、L-メントールの香りを鼻で嗅ぐと、軽い運動にともなう息苦しさが緩和することも報告されている。L-メントール溶液を飲んだり塗ったりすると冷たさを感じるが、これは実際に温度が下がったのではなく、L-メントールが冷たさを感じる神経を刺激することにより、冷感が生じているもの。
今回、東北大学大学院医工学研究科の研究チームは、暑くない環境下で、かつ競技レベルのランナー(エリートランナー)に対して、L-メントールの刺激が運動能力の改善に役立つかを実験的に検討した。エリートランナーを対象に高強度ランニング(最大心拍数の90%前後の速度一定のトレッドミルランニング)テストを行い、ランニング中の息苦しさと疲労困憊に至るまでの時間(持久運動能力)を、L-メントール溶液摂取の有無の違いで比較した。ランニングテスト前後には長い筒状のパイプ(吸気抵抗)を介して呼吸したときの吸気抵抗閾値※2を測定するとともに、呼吸困難感のテストも行った。
その結果、高強度ランニング中のL-メントール溶液の摂取は水の飲用に比べて運動中の息苦しさを緩和し(図1)、持久運動能力を伸ばした(図2)。また疲労困憊後は、水の飲用のみでは筒状の吸気抵抗を介して呼吸すると苦しさ(呼吸困難感)を示したのに対して、L-メントールを摂取しておくと苦しさを感じなくなることが示された。運動中の心拍数はL-メントールの有無で違いはなく、呼吸困難感の緩和が持久運動能力を延長させたと考えられた。
図1 ランニング運動最終段階、疲労困憊直前の飲料摂取による呼吸の感じ方の結果
図2 トレッドミルランニング走行時間の結果
結論:常用量でパフォーマンス向上の期待
L-メントール溶液が高強度持久運動中の息苦しさを緩和し、持久運動能力を伸ばしたことにより、L-メントールの冷感作用が暑熱対策だけでなく、運動能力の発揮に有用であることが示された。
この研究でのL-メントールは通常の食品に含まれる量や濃度の範囲であること、また呼吸循環器系に特別なアドバンテージを与えているものではないため、ドーピングには相当しない。また、ランニングなどの持久運動習慣のない人や疾病を持っている人でも、運動による息苦しさの緩和を通じて運動に対する心理的な抵抗感の緩和により、リハビリテーションや運動療法に対する受容性を高めることが期待される。
プレスリリース
メントールの冷感が運動持続時間を延長! 運動に伴う息苦しさを和らげ有酸素運動を心地よく継続(東北大学)
文献情報
原題のタイトルは、「L-menthol administration facilitates breathing comfort during exhaustive endurance running and improves running capacity in well-trained runners: A randomized crossover study」。〔Eur J Sport Sci. 2022 Aug 31;1-9〕
原文はこちら(Informa UK)
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