新型コロナの死亡リスクに予後栄養指数(PNI)の低さが関連 中国・武漢発の研究
術後合併症リスクの判定や疾患の予後予測に用いられる「予後栄養指数(PNI)」が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者にも適用可能とする研究データが、中国・武漢から報告された。Cox回帰分析により、PNI33.405未満が院内死亡リスクの有意な上昇と関連していたという。また、死亡リスクと独立して関連するPNI以外の因子も明らかになった。
予後栄養指数(PNI)とは(計算式など)
PNI(栄養学的予後指数)(新横浜かとうクリニック)世界で最初のパンデミック、武漢の患者データを解析
血清アルブミン濃度とリンパ球数から計算される予後栄養指数(Prognostic Nutritional Index;PNI)は、消化器腫瘍手術の術後合併症リスクや心不全の予後予測などに用いられている。本論文の著者らは、PNIスコアをCOVID-19にも使用できるか否かの検討、および、その他の因子を用いた予測モデルの構築を目指して以下の研究を行った。
研究に用いたデータは、中国の武漢大学病院と武漢市内の1病院の入院患者から収集された。転帰が明らかで、解析に必要なデータがそろっている患者から、入院期間が24時間に満たない患者を除外した295名を解析対象とした。
この295名のうち、236名の患者データを予測モデルの構築のためのトレーニングコホートにあて、構築された予測モデルの検証コホートに59名の患者データをあてた。さらに、後述するように、100名の患者の外部データを用いて追加検証を行っている。
2つのコホートの患者背景の比較
トレーニングコホートは男性が116名(49.15%)、検証コホートは男性37名(62.71%)であり、年齢中央値はそれぞれ61歳、60歳だった。2つのコホート間で、基礎疾患や各種検査値などの臨床的特徴、および、APACHE II、SOFA、CURB65という疾患重症度スコアに有意差はなかった。
入院中にトレーニングコホートでは63名(26.69%)、検証コホートでは14名(23.73%)が死亡し、全体で218名(73.90%)は生存退院していた。なお、院内死亡率が他の報告よりも高い理由について著者は、世界で最初のパンデミックが起きた武漢での研究であるため、有効な治療手段が限られていたことによるとしている。
トレーニングコホートでの生存退院と死亡退院の患者背景の比較
トレーニングコホート内で生存退院患者と院内死亡患者を比較すると、以下について有意差が認められた。
まず年齢は前者が中央値55歳(四分位範囲44~66歳)に対し、後者は74歳(63~81歳)と高齢だった。性別に関しては多くの研究で男性の方が死亡リスクが高いと報告されているが、本コホートでは男性の割合が45.66 vs 58.73%で、統計的な有意差はなかった。
基礎疾患としての高血圧症は、36.84 vs 65.08%、呼吸困難は21.05 vs 49.21%で、いずれも院内死亡群の有病率が高かった。頭痛、咳嗽、下痢の有病率は有意差がなかった。
入院時点のPNIスコアも有意差
検査値関連では、白血球数、リンパ球数、単球数などに有意差があり、感染に伴う炎症マーカーとされる好中球/リンパ球比は、生存退院群3.41(1.89~7.16)より院内死亡群12.51(7.22~18.83)のほうが有意に高く、血小板数は後者で有意に低いなどの違いが認められた。
入院時点のPNIスコアは、生存退院群37.21(34.07~40.56)、院内死亡群33.41(31.46~36.63)であり、後者のほうが有意に低かった(p<0.001)。
独立した4つの予測因子からノモグラムを作成
多変量ロジスティック回帰分析により、COVID-19院内死亡の独立した予測因子として、以下の4項目が抽出された。
血小板数(OR0.984〈95%CI;0.974~0.993〉)、PNIスコア(OR0.853〈0.740~0.983〉)、LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ。OR1.005〈1.001~1.009〉)、PaO2(動脈血酸素分圧)とFIO2(吸入中酸素濃度)の比(P/F比。OR0.988〈0.981~0.995〉)。
これら4つの因子を用いて院内死亡リスクを予測するノモグラムを作成し、その精度を検証したところ、トレーニングコホートでAUC0.894(0.832~0.956)、検証コホートでAUC0.921(0.834~1.000)という良好な予測能を有することが明らかになった。さらに、外部データを用いた検証においても、AUCは0.795(0.681~0.908)と高値を示した。
PNIスコアのAUCは0.711で、カットオフ値は33.405
一方で、PNIスコアのみでのAUCは0.711(0.628~0.793)だった。また院内死亡を予測する最適なカットオフポイントは33.405であり、その値で二分し33.405未満の患者群では、生存率の有意な低下が示された。
PNIスコアと他の疾患重症度スコアや検査指標との関連を検討したところ、好中球/リンパ球比(r=-0.46)およびLDH(r=-0.41)と強い負の相関が認められた。この点について著者らは、PNIスコアはアルブミンとリンパ球レベルから計算される栄養指標であり、一方の好中球/リンパ球比は全身性炎症マーカーであって、両者が強く相関していることから、栄養状態と炎症がCOVID-19院内死亡リスクにかかわっていると述べている。
PNIスコア低値はCOVID-19の予後悪化に関連している
以上より結論として、「我々の研究は、PNIスコア低値が重症COVID-19患者の予後悪化に関連していることを、初めて明らかに示したエビデンスだ。また、血小板数、PNIスコア、P/F比が低く、LDHレベルが高いという4つの因子はそれぞれ独立してCOVID-19死亡率に関連しており、それら4つを組み合わせたノモグラムはCOVID-19院内死亡の高い予測能を有している」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Predictive Significance of the Prognostic Nutritional Index (PNI) in Patients with Severe COVID-19」。〔J Immunol Res. 2021 Jul 9;2021:9917302〕
原文はこちら(Hindawi)