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好きな音楽を聞きながらトレーニングしよう! 精神疲労のパフォーマンス低下に効果あり

精神的な倦怠感を感じている状態でも、好きな音楽を聞きながらランニングすると、パフォーマンスの低下が抑制されることを示したデータが報告された。Yo-Yoテストやタイムトライアルで、倦怠感のない状態と同レベルまでパフォーマンスが改善したという。英エディンバラ大学の研究者らの報告。

精神疲労でパフォーマンスが低下したら、好きな音楽を聞きながらトレーニングしよう!

集中力が必要な課題で疲労を生じさせてから、パフォーマンスへの影響を検討

精神的倦怠感がスポーツパフォーマンスを低下させることはよく知られている。一方、音楽を聞きながらランニングを行うと、パフォーマンスが向上する可能性を示唆する研究結果が複数報告されている。

参考:音楽を聴きながらトレーニングすると「やる気」が出てパフォーマンスが向上する!

しかし、精神的倦怠感が生じている状態、つまり、おそらく通常のパフォーマンスを発揮し得ない状態で、音楽を聞くことによりいつものパフォーマンスレベルを維持できるか否かについては、まだ研究されていない。今回発表された研究は、この点を明らかにしようとするもの。

パフォーマンスへの影響は2種類のテストで検討された。やや複雑な研究デザインについて、先にまとめる。

違う色名で表示されている色を正しく答える30分の課題で精神的な負荷をかける

まず、精神的な倦怠感は、違う色名で表示されている色を正しく答える課題を30分続けて生じさせた。ディスプレイ上に、例えば緑色で「赤」と表示された場合は緑が正解。回答に時間制限はないが、できるだけ短時間で回答するように求められ、1つの回答が終了すると同時に次の文字が表示されるというもの。回答中はこの課題に集中させるため、耳栓を着用させ、連続30分これを行った。

30分後にこの課題を終了し、1分間後に7分間のウォームアップを実施。ウォームアップ終了から3分後に、後述の2種類のパフォーマンステストを3つの条件で行った。なお、3つの条件の施行順序は無作為化されていた。また2種類のパフォーマンステストの施行には、48時間以上の間隔をあけた。

音楽を聞く/聞かない、および精神的負荷なしの3条件でテスト

参加者は、上記の方法で精神的倦怠感(Mental fatigue;MF)を生じさせた後に音楽(Music)を聞きながらパフォーマンステストを受ける「MF+M条件」、MF状態で音楽を聞かずにテストを受ける「MF only条件」、および、ベースライン(Base line)条件として、MFをかけない(上記の色名を答える課題を行わずに)テストを受ける「BL条件」という3つの条件で、後述のパフォーマンステストを受けた。

MF+M条件で聞く音楽は、研究者が用意したものの中から参加者が好みの曲を複数選択した。それらの音楽はウォームアップがスタートして3分後からランダム再生され、テスト終了まで続けられた。なお、ウォームアップ開始3分後から再生とした理由は、音楽を聞き始めて120秒後から自覚的運動強度(Rate of Perceived Exertion;RPE)が有意に低下するという報告や、運動開始2.5分前に演奏された音楽が高強度運動へのモチベーションを高めるという報告があるため。

Yo-Yoテストとタイムトライアルでパフォーマンスへの影響を検討

パフォーマンスへの影響は、研究1のYo-Yoテストと、研究2のタイムトライアルという、2つのテストで評価された。研究参加条件は、年齢が18~30歳であり、ふだんレクリエーションレベルのスポーツを行っており、過去3カ月間に怪我等をしていないこと。

研究1 Yo-Yoテスト

研究1のYo-Yoテストの参加者は、9名の男性。年齢22±2.6歳、身長1.73±0.02m、体重70.0±7.5kg。実験室内(20~22℃、相対湿度60~65%)で、初期速度10km/時の20mシャトルランを反復し、2回連続で指定速度を達成できなくなるまで続けられた。

研究2 タイムトライアル

研究2のタイムトライアルの参加者は、男性7名、女性2名のレクリエーションランナー。年齢21.1±1.2歳、身長1.79±0.04m、体重74.0±8.5kg。上記と同様の条件の実験室内で勾配1%に設定したトレッドミルを用い、9km/時でスタート。5km走行するまで500mごとに参加者へ走行距離のみを伝え、経過時間と走行スピードは伝えなかった。

精神的倦怠感のマイナスの影響が、音楽を聞くことで打ち消される

それでは結果をみていこう。まずは色名を答える課題による、精神的倦怠感(MF)の変化をみてみる。なお、精神的倦怠感(MF)は、100mmのビジュアルアナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)と、ブルネル気分尺度(Brunel Mood Scale)で評価された。

色名を答える課題で有意な精神的倦怠感(MF)が発生

研究1では、色名を答える課題を課す前において、MF only条件(MFを生じさせる課題のみを行い音楽を聞かない条件)と、MF+M条件(MFを生じさせたうえで音楽を聞く条件)で、VASスコアに有意差はなかった(平均差0.3,95%CI;-13.2~13.9)。MFの課題終了後、VASスコアは両方の条件で有意に上昇しており、条件間の比較では有意差がなかった(平均差1.4,95%CI;-8.2~11.1)。

同様に研究2でも、MF課題施行前は両条件間の差は有意でなく(平均差1.8,95%CI;-8.9~5.2)、MFの課題終了後にVASスコアは両条件で有意に上昇しており、条件間に有意差がなかった(平均差1.0,95%CI;-6.6~8.6)。

また、ブルネル気分尺度による評価では、両条件ともにMFにより活力が有意に低下し、倦怠感が有意に上昇しており、条件間の有意差はないことが確認された。

MF+M条件はBL条件とパフォーマンスに有意差なし

次に、パフォーマンスへの影響をみてみよう。

研究1 Yo-Yoテスト

研究1のYo-Yoテストでは、MF課題を課さずに精神的倦怠感のない状態でのBL条件と、精神的倦怠感があり音楽を聞かないMF only条件とで比較すると、前者のほうが55.6±37.1m、有意に走行距離が長かった。つまり、精神的倦怠感があることで、実際にパフォーマンス低下が生じていた。

一方、MF only条件と、精神的倦怠感があり音楽を聞くMF+M条件との比較では、後者のほうが68.9±47.0m、有意に走行距離が長かった。さらに、MF only条件では、BL条件と比較しても走行距離に有意差がなかった。

つまり、精神的倦怠感があっても好きな音楽を聞きながらであればパフォーマンスの低下が抑制され、精神的倦怠感がない場合と同程度のパフォーマンスを発揮できることがわかった。

研究2 タイムトライアル

続いて研究2のタイムトライアルの結果をみてみよう。

まず、BL条件とMF only条件との比較では、前者のほうが0.70±0.52分、有意にフィニッシュタイムが短かった。さらに、MF only条件とMF+M条件との比較では、後者のほうが0.99±1.03分、有意にタイムが短かく、そしてMF only条件では、BL条件と比較してタイムに有意差がなかった。

つまり、結果は研究1と同様であり、精神的倦怠感によるパフォーマンス低下が音楽を聞くことで抑制され、精神的倦怠感がない場合と同程度のパフォーマンスを発揮できることがわかった。

日常生活のさまざまな場面で音楽が役立つ可能性

研究者らは、「我々はしばしば精神的倦怠感を感じており、それがスポーツを含む日常の活動の多くに悪影響を与える可能性がある。よってこの悪影響を抑制するための安全で効果的な方法を見つけることは有用。本研究の結果は、自己選択した音楽を聞くことが、日常的にアクティブな人々が精神的に疲れた状態での、長距離走パフォーマンスを改善するのに役立つ戦略である可能性を示している」とまとめている。

なお、エディンバラ大学のサイト内のニュースリリースによると、研究グループでは、スポーツ中に音楽を聴くことが、さまざまな対象にさまざまな条件下で、種々の運動課題に対しどのように影響するか、より詳細な研究を進めているという。

文献情報

原題のタイトルは、「The effect of self-selected music on endurance running capacity and performance in a mentally fatigued state」。〔J Human Sport and Exercise. 2022, 17(4)〕
原文はこちら(Journal of Human Sport and Exercise)

関連情報

Running to music helps combat mental fatigue(英国エディンバラ大学)

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