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脊髄損傷パラアスリートの運動中の体温調節と冷却戦略 システマティックレビュー

脊髄損傷患者は体温調節機能が障害されているため、運動負荷により高体温を来しやすい。高体温はパフォーマンス低下だけでなく、熱中症のリスクを高める。このようなリスクの実情とそれに対する対策の効果をシステマティックレビューにより検討した研究結果が報告された。

脊髄損傷パラアスリートの運動中の体温調節と冷却戦略 システマティックレビュー

文献検索により32件の論文を抽出

文献検索には、Web of ScienceとPubMedを用い、2020年9月30日までに公開された、脊髄損傷患者の運動中の体温調節反応を研究した英語で執筆されている原著論文を検索した。深部体温のデータがないもの、運動負荷を加えていないもの、および動物実験は除外した。検索キーワードとして、脊髄損傷、対麻痺、四肢麻痺、車椅子、体温調節、高体温、運動、スポーツ、身体活動などを用いた。

424件の論文がヒットし、重複を削除後、タイトルと抄録により適格基準への合致を判定。残った37件を全文スクリーニングし7件が除外され、ハンドサーチにより2件を追加し、最終的に32件を解析対象とした。研究の品質は、26件が高、3件が中等度、3件が低と判定された。

検討結果の要約

論文では、14件の報告に基づく温暖条件(気温18.4~25.0℃、相対湿度31~65%)での体温調節と熱応答、6件の報告に基づく高温条件(気温30~40℃、相対湿度33~70%)での体温調節と熱応答、冷却戦略(冷却ベスト、ヘッドクーリング、足の冷却、水スプレー、アイススラリー、およびそれらの組み合わせ)の有効性とパフォーマンスへの影響、および熱順応戦略について、詳細な検討が加えられている。本稿では要約部分のみをピックアップし紹介する。

温暖条件での研究

レビューされた文献によると、温暖条件での運動中、健常者と比較して対麻痺患者では蓄熱量が多く発汗反応が低いため、皮膚表面温度が上昇しやすい。深部体温は上昇後、プラトーに達する。

四肢麻痺患者は、温暖条件での運動中、プラトーに到達せず深部体温が継続的に上昇する傾向がある。対麻痺患者は健常者より低い発汗レベルを示すが、四肢麻痺の患者に比べると発汗率が高い。

高温条件での研究

高温条件での運動中、深部体温の上昇は運動強度に依存し、健常者と軽度対麻痺患者とでは有意差はない。ただし、おそらく重度の対麻痺患者や四肢麻痺患者では、健常者や軽度対麻痺患者に比較し、より速く、かつ、より高く深部体温が上昇する。

また、脊髄損傷のある場合、高温条件では深部体温のベースライン値への回復時間も延長する。四肢麻痺および高度の対麻痺ではより顕著。高い位置の脊髄損傷ほど発汗能は低下し、また四肢麻痺では発汗がほとんどみられないこともある。

冷却戦略と熱順応

体温上昇による影響を抑制するために、二つの戦略がとられる。一つは冷却であり、他は熱順応である。

後者の熱順応に関しては、脊髄損傷病変レベルより遠位の血管運動と発汗運動が損なわれているため、対麻痺や四肢麻痺患者が健常者と同様に、熱順応が達成されるか否かは明らかでない。この分野の研究はいまだ不足しており、脊髄損傷患者の熱順応の最適化に関する具体的な推奨は難しい。

前者の冷却戦略については、その実施によって深部体温が低下しなくても、疲労感の回復に有用である可能性が示された。ただしこれについても、最適な戦略を推奨することはエビデンスが十分でなく時期尚早。

結果の適用

以上の考察のうえ、論文では以下の内容が「実用的なアプリケーション」として掲げられている。

温暖条件(15~25°C)

  • 四肢麻痺のあるパラアスリートでは熱負荷をモニタリングする(例えば深部体温をモニタリングするための遠隔測定温度ピル、鼓膜温度計)
  • 運動前の冷却ベスト着用、および運動中に水スプレーを組み合わせて使用する

高温条件(25°C超)

  • 病変レベルが高い対麻痺および四肢麻痺のあるパラアスリートの熱負荷をモニタリングする(例えば遠隔測定温度ピルによる深部体温モニタリング)
  • 深部体温上昇抑制のための冷却戦略を使用
  • 運動前および運動中の冷却ベスト着用、運動中にアイススラリーを使用
  • ヘッドクーリングを試用し、快適性の向上をもたらすかを個別に検討する

今後の研究で考慮すべき推奨事項

  • 競技種目によって熱負荷がどのように異なるかの研究
  • 病変レベルが異なるパラアスリート間での比較が可能な研究プロトコルの確立
  • 十分な研究期間と多様な運動負荷、環境条件での研究
  • 統計学的検出力を上げるための十分な研究参加者の確保と、そのための多施設共同研究が必要

文献情報

原題のタイトルは、「The Thermoregulatory and Thermal Responses of Individuals With a Spinal Cord Injury During Exercise, Acclimation and by Using Cooling Strategies–A Systematic Review」。〔Front Physiol. 2021 Apr 1;12:636997〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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