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低炭水化物食など特定の食事スタイルと、女性アスリートの摂食障害のリスクに関連あり

疾患治療以外の目的で何らかの特定の食事療法を行っている女性アスリートは、摂食障害のリスクが高い可能性が報告された。とくに低炭水化物ダイエットを行っている女性でその傾向が強いという。

低炭水化物食など特定の食事スタイルと、女性アスリートの摂食障害のリスクに関連あり

アスリートの摂食障害は一般の3倍、女性はさらに深刻

アスリートの中には、セリアック病のためのグルテンフリー食、乳糖不耐症のための乳製品除去食、てんかんのためのケトン体産生食など、疾患をコントロールするために特定の食事療法が必要な人がいる。その一方で、それらの疾患がなくても、健康管理や減量、参加競技に設定されている体重制限、および審美的要求のために、何らかの食事スタイル(食事療法)を自主的に、またはコーチなどの指導によって実践しているアスリートも少なくない。ときに、科学的エビデンスが不十分であるにもかかわらず、アスリートに対し特定の食事療法の実践が奨励されるケースもみられる。

既報によると、一般人口の摂食障害(eating disorder)の有病率は4.6%であるのに対して、エリートアスリートでは13.5%とのデータがあり、とくに男性では0~19%の範囲であるのに対し女性では6~45%と高いことが示されている。女性アスリートの乱れた食行動(disordered eating;DE)や摂食障害(eating disorder;ED)を早期発見することで、女性アスリートの三主徴(triad〈トライアド(利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症)を防ぎ、アスリートとして長期間活躍し、かつ健康な女性としての生涯を送ることが可能となる。しかし、DEまたはEDの状態にある選手本人がそれを周囲に訴えることは少なく、とくに自身の判断で何らかの食事療法を行っている場合は、周囲に知られないよう努力することが多い。

このような背景のもと、本論文の著者らは、何らかの食事療法を行っている女性アスリートは、DEやEDのリスクが高いとの仮説を立て、以下の検討を行った。

1,000人の女性アスリートを対象に検討

研究対象は、直近6カ月間に週4時間以上のトレーニングを行っている15~30歳の女性アスリート1,000人で、年齢は18.92±3.34歳。直近の6カ月間に怪我などのためにトレーニングを行えなかったアスリート、非アスリート、および男性は除外した。

食習慣と摂食障害の評価方法

研究参加者に対して、何らかの特定の食事療法を行っているか、または特定の食品を避けているかを質問した。なお、疾患治療のための食事療法(セリアック病に対するグルテンフリー食、乳糖不耐症のための乳製品の不使用など)を行っていると回答したアスリートや、漠然とした食事スタイル(例えば「健康のためにジャンクフードを避けている」といった内容)を回答したアスリートは、以下の全体的な解析からは除外した。

摂食障害については、次の3つの手法で把握した。アスリートの摂食障害の簡易アンケート(Brief Eating Disorder in Athletes Questionnaire;BEDA-Q)、プライマリケアでの摂食障害スクリーニング(Eating Disorder Screen for Primary Care;ESP)、および自己申告による摂食障害の既往。なお、前二者はいずれも精度検証済みの質問票であり、BEDA-Qの摂食障害検出能は感度82.1%、特異度84.6%と報告されている。ESPは4項目から成る質問票で、3つ以上に該当する場合に摂食障害ハイリスクと判定される(尤度比11(95%CI;6.4~18)。

それでは結果をみていこう。

女性アスリートの16.5%が、医学的適応のない食事療法を実践

実践者と非実践者でBMIは群間差なし

1,000人の女性アスリートのうち、何らかの食事療法を行っている人は234(23.4%)だった。これらのうち69人(全体の6.9%、食事療法実践者の29.5%)は医学的な必要性に基づく食事療法であり、また42人は漠然とした食事スタイルを回答した。

これらを除いて食事療法を行っているアスリートの年齢は19.80±3.50歳で、特別な食事療法を行っていないアスリートの18.66±3.20歳に比較しわずかに高齢だった。体重は前者が63.05±13.60kg、後者が62.54±11.16kgで、食事療法実践者群がわずかに高かった。ただし、BMIに有意な群間差はなかった。

低炭水化物ダイエットが約3割で最多

医学的適応なしに食事療法を行っている165人のアスリートのうち、81.2%は1種類の食事療法を実践し、18.8%は2種類以上を実践していた。

実践している食事療法が1回種類のみと回答したアスリート134人の食事療法として、最も多かったのは低炭水化ダイエットであり29.8%を占め、以下、ベジタリアン食(22.5%)、乳製品制限(22.5%)、グルテンフリー(14%)、ビーガン(6.7%)と続いた。

医学的適応のない食事療法実践アスリートの7割近くに摂食障害のリスク

医学的適応のない食事療法を行っている165人のうち、68.5%のアスリートが前記3種類の摂食障害スクリーニングツールのうちいずれか1つ以上で陽性と判定され、食事療法を行っていない群より有意にハイリスクだった(p<0.0001)。

食事療法のタイプ別にみると、低炭水化物ダイエットを実践しているアスリートは、食事療法を実践していないアスリートと比較して、摂食障害に該当する可能性が有意に高かった(80.0 vs 41.8%.p<0.0001)。ベジタリアン食を行っているアスリートも摂食障害に該当する可能性が高かったが、有意レベルには至らなかった(70.0%.p=0.0602)。

ビーガンやグルテンフリー、低乳製品、および、2種類以上の食事療法を行っているアスリートも摂食障害に該当する可能性が高かったが、食事療法を行っていないアスートとの間に有意差はなかった。

以上を総括して著者は、「女性アスリートにおいて、乱れた食行動(DE)や摂食障害(ED)は珍しいことではない。それらのリスクのあるアスリートを、本人からの訴えでなく周囲のスタッフが気づくことは困難だが、本研究から、何らかの摂取制限的な食事療法を行っているアスリートはそのリスクが高いことが示された。よって周囲のスタッフは、アスリートが医学的適応のない食事療法を行っていることを認めた場合、その理由などを詳しく尋ねることを検討する必要がある」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Specific dietary practices in female athletes and their association with positive screening for disordered eating]: a prospective cohort study」。〔AJ Eat Disord. 2021 Apr 17;9(1):50〕
原文はこちら(Springer Nature)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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