メンタル維持に睡眠の“質”改善が大切 新型コロナパンデミック下の7カ国の学生を調査
米国や中国など7カ国の大学生を対象とする国際調査から、心理的ストレスの自覚と不安、睡眠、反芻思考、およびレジリエンスの関係が明らかになった。知覚されたストレスと不安は睡眠の質と負の関連があり、この相関は反芻によって媒介され、レジリエンスを高めることが、これらの負の関連を弱める手段となりうるという。また、ストレスと睡眠時間との関連は明確でないとのことだ。この研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック第一波の中で行われた。
7カ国、二千人以上の大学生を対象とする横断研究
知覚されるストレスや不安レベルの上昇は、睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下につながり、睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下は、種々の慢性疾患の独立した危険因子であることが明らかにされている。また近年、ストレスレベルが高い状態では、良くないことに思いを巡らせるというネガティブな思考である「反芻」が増え、それによって睡眠が影響を受けることがクローズアップされている。
このような状態に対して、心理的な回復力「レジリエンス」の高さが、ストレスや不安が睡眠に与える影響を緩和する可能性をもっている。ただしそれらの関連は十分に研究されておらず、実際の効果は明確でない。それらが互いにどのように影響を及ぼすのかもよくわかっていない。
著者らは、多数の大学生を対象とするアンケート調査による横断的研究によって、この点を明らかにすることを試みた。
回答者の特性:睡眠時間は確保されているが睡眠障害が高率
このアンケート調査は、2020年4~5月のCOVID-19パンデミック時に実施され、7カ国(中国、アイルランド、マレーシア、台湾、韓国、オランダ、米国)、2,254人の大学生・大学院生が回答した。回答者は女性がやや多く(66.7%)、学部生が8割(79.9%)を占めていた。大半(87.0%)は留学生ではなく自国で暮らしていた。
年齢は22.5±5.5歳、BMI24.4±5.6だった。
睡眠時間・睡眠の質
睡眠については、平均睡眠時間が7.5±1.2時間で、72.2%は推奨される最小睡眠時間7時間/日を満たしていた。ただし、ピッツバーグ睡眠品質指数(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI。点数が高いほど睡眠の質が悪いと判定する)の平均は6.8±3.5点で、5点超を睡眠障害とすると60.3%が該当した。
ストレスレベル
知覚ストレスは、Perceived Stress Scale (PSS)で評価し、その平均は20.6±6.8点であり、5分の4以上(85.0%)が中~高レベルの知覚ストレスと判定された。より詳しくは、高ストレス21.8%、中等度ストレス63.2%、低ストレス15.0%だった。
不安レベル
不安は、Generalized Anxiety Disorder-7(GAD-7)で評価し、その平均は8.2±5.8であり、36.4%が中~重度の不安を感じていると判定された。より詳しくは、重度の不安16.2%、中等度の不安20.2%、軽度の不安32.0%、最小限の不安31.6%だった。
レジリエンスレベル
レジリエンスはBrief Resilience Scale(BRS)で評価し、その平均は3.2±0.7だった。
反芻
反芻はRepetitive Negative Thinking Questionnaireで評価し、その平均は82.9±23.0だった。
COVID-19によるメンタルヘルスと睡眠への影響
COVID-19は大学生のメンタルヘルスと睡眠行動に悪影響を及ぼしていた。具体的には、学生の半数以上にCOVID-19の前と比較して、知覚ストレス、否定的な反芻思考、不安の増加がみられた。また41.7%に経済的ストレス、29.5%にCOVID-19中のストレスに対するレジリエンスの低下を認めた。
睡眠に関しては、パンデミック前と比較して、ほとんどの学生(82.9%)が同程度の睡眠時間を保っていた。しかしその一方で、32.1%は睡眠の質が低下していた。
各因子の相関
各因子の関連のうち、単回帰分析で有意なものとして、以下の関連が抽出された。
睡眠の質と相関する因子
睡眠の質は、評価した因子のうち、年齢以外のすべてと有意に関連していた。
具体的には、PSQIが高い(睡眠の質がよくない)ことが、睡眠時間(r=-0.33)、レジリエンス(r=-0.28)、不安レベル(r=-0.33)とは負の相関、反芻(r=0.43)、BMI(r=0.19)とは正の相関がみられた。
睡眠時間と相関する因子
睡眠時間が長いことは、前記以外に、不安レベル(r=-0.08)、年齢(r=-0.11)とは負の相関がみられた。
レジリエンス
レジリエンスレベルは、前記以外に、反芻(r=-0.47)、知覚ストレス(r=-0.50)、不安(r=-0.42)と負の相関、年齢(r=0.09)と正の相関がみられた。
反芻
反芻は前記以外に、年齢(r=-0.09)と負の相関、知覚ストレス(r=0.62)、不安(r=0.67)、BMI(r=0.09)と正の相関がみられた。
知覚ストレス
知覚ストレスは前記以外に、年齢(r=-0.12)と負の相関、不安(r=0.69)、BMI(r=0.10)と正の相関がみられた。
年齢
年齢は前記以外に、BMI(r=0.19)と正の相関がみられた。
睡眠時間ではなく睡眠の質へのアプローチが重要な可能性
多重回帰分析や媒介分析などの統計的解析により、知覚ストレスと、睡眠の質、睡眠時間、不安レベル、レジリエンスとの関連について、以下の4点が明らかになった。
まず、知覚ストレスのレベルが高いほど睡眠の質が低下し、この関連の一部は反芻の増加が媒介していた。この知覚ストレスと睡眠の質の関連は、レジリエンスが高いほど減弱し、レジリエンススコアが4.61以上の場合には、有意性が消失した。
次に、知覚ストレスのレベルは睡眠時間とは関連が認められなかった。レジリエンスの強さは、知覚ストレスと睡眠時間の関係に影響を及ぼしていなかった。
また、不安のレベルが高いほど睡眠の質が低下し、この関連の一部は反芻の増加が媒介していた。この不安と睡眠の質との関連に対し、レジリエンスの高さが緩衝的に作用する可能性が示されたが、有意性を消失させるには至らなかった。
最後に、不安レベルは睡眠時間とは関連が認められなかった。レジリエンスの強さは、不安レベルと睡眠時間の関係に影響を及ぼしていなかった。
食習慣や身体活動との関連も検討する必要がある
以上から著者らは、「知覚されたストレスと不安が睡眠の質と負の関連があり、この関係は反芻によって媒介されていた。一方、睡眠時間とは関連がなかった。心理的レジリエンスは、知覚ストレスと睡眠の質に対する不安との負の関係を弱める緩衝的作用があるようだ。よって大学生の反芻思考を抑制し、レジリエンスを向上させるためのトレーニングは、睡眠の質を向上させるのではないか」とまとめている。
ただし、本研究は横断的な研究であるため、因果関係は不明。著者も今後の研究の方向性として、「他のメンタルヘルス指標、さらには食生活や身体活動などの他の健康行動にもスポットを当てるべきであり、因果関係を特定するためには、長期的縦断研究でなければならない」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Increased Resilience Weakens the Relationship between Perceived Stress and Anxiety on Sleep Quality: A Moderated Mediation Analysis of Higher Education Students from 7 Countries」。〔Clocks Sleep. 2020 Aug 11;2(3):334-353〕
原文はこちら(MDPI)
新型コロナウイルスに関する記事
栄養・食生活
- コロナ禍では、”意外にも”メンタルヘルスが悪化しているアスリートのほうが食事の質が高い?
- COVID-19の影響を前向きな変化として活用 米国食事ガイドラインの実行性を高めるための推奨事項
- 発表! 2021年、スポーツ栄養Webで最も読まれた記事ランキング【新型コロナウイルス編】
- 新型コロナの影響で子どもの神経性やせ症が1.6倍に 国立成育医療研究センターが全国26医療機関で調査
- 質の高い食生活が、新型コロナウイルスの罹患リスクや重症化リスクを抑制する可能性
- 人の声を聞きながら食べると、一人でもおいしく感じる 独居者高齢者やコロナ禍の孤食対策に
- 新型コロナ関連の味覚異常や下痢への亜鉛による介入 根拠とメカニズムと留意事項
- コロナ禍の今、栄養士・管理栄養士がすべきこと・できることとは? Webセミナーリポートを「あじこらぼ」で公開
- 新型コロナの死亡リスクに予後栄養指数(PNI)の低さが関連 中国・武漢発の研究
- 感染経路不明のコロナ感染者の9割に飲食が関連 国立国際医療研究センターの報告
- コロナパンデミックで食生活が健康になった人と不健康になった人の違いは何? 国内6千人の調査
- COVID-19パンデミック中、栄養不良の二重負荷を予防するための取り組み
- 植物性食品中心の食習慣がCOVID-19重症化リスクを抑制する可能性が示される
- ビタミン、オメガ3脂肪酸等のサプリで女性のCOVID-19リスク低下の可能性 3カ国45万人の調査
アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者
- 新型コロナの影響か? 東京2020オリンピック・水泳選手のパフォーマンス低下を確認
- 新型コロナ発生以降、経済的理由で生理用品を購入できない女性は8%、20代以下は13% 厚生労働省が初の調査
- 新型コロナ禍、大学生アスリートの64%が睡眠の質が低下 仏国のアンケート調査より
- 新型コロナは東京2020オリンピックの記録に影響を与えたか? 競泳決勝タイムの数学的解析の結果
- ジョコビッチの強制送還問題と世界トップアスリートのCOVID-19ワクチン接種状況
- 新型コロナ禍のトレーニングで、アスリートの負傷を予防するために気をつけること
- アスリートの睡眠に関する推奨事項 COVID-19ロックダウン中の49カ国、4千人の睡眠を調査
- パラアスリートがCOVID-19パンデミックで受けたストレスの影響 健常アスリートとの比較
- 新型コロナウイルスがアスリートのトレーニングに与えた影響とは? 142カ国、1万2,526人の実態を調査
- 新型コロナ禍のサッカー無観客試合はアウェーチームに有利? 欧州トップリーグで調査
- ゴルフは新型コロナ感染リスクが低い? 欧州11カ国23大会に参加のプロ195人を調査した結果
- COVID-19緊急事態が東京2020候補アスリートの体組成に影響を及ぼしていた――HPSCなどの研究
- 新型コロナパンデミック中のスポーツ復帰に関する推奨事項 リスクを6段階に層別化
- コロナ禍のストレスはアスリートをも押しつぶす メンタルサポートの重要性あらわに
運動・エクササイズ
- 新型コロナの影響大! 全国の4歳〜21歳・5,400人対象とした「子ども・青少年のスポーツライフ」調査結果を公表 笹川スポーツ財団
- 新型コロナによる行動制限で子どもの転倒と肥満のリスクが増大 身体活動の質向上と良好な食生活が必要
- 香港での新型コロナ・パンデミックによる食生活と身体活動の変化 収入との関連などが明らかに
- 熱中症2021 オリパラ、早い梅雨入り、新型コロナ…今年は早めの熱中症対策が必要か
- 新型コロナウイルスが国民のスポーツ参加と健康状態に及ぼした影響を調査 スポーツ庁
- コロナ禍では身体活動量が多い人ほど食生活の質が改善している ブラジルの研究
- 運動習慣が新型コロナワクチンの効果を高める 市中感染症リスクのメタ解析で明らかに
- 新型コロナの影響か?「令和2年度 体力・運動能力調査」は、わずかに低下傾向
- 新年度を迎える児童・生徒・先生へ、新型コロナ感染予防に配慮した体育・保健体育の授業例を動画で公開 スポーツ庁
- コロナ渦でも楽しく運動を! 各府省庁の運動・スポーツ啓発コンテンツをスポーツ庁が紹介
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 令和2年(2020年)夏の熱中症救急搬送は6.5万人 新型コロナで年齢構成や発生場所、重症度に影響?
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査
関連記事
- 新型コロナの影響大! 全国の4歳〜21歳・5,400人対象とした「子ども・青少年のスポーツライフ」調査結果を公表 笹川スポーツ財団
- 新型コロナによる行動制限で子どもの転倒と肥満のリスクが増大 身体活動の質向上と良好な食生活が必要
- 香港での新型コロナ・パンデミックによる食生活と身体活動の変化 収入との関連などが明らかに
- 熱中症2021 オリパラ、早い梅雨入り、新型コロナ…今年は早めの熱中症対策が必要か
- 新型コロナウイルスが国民のスポーツ参加と健康状態に及ぼした影響を調査 スポーツ庁
- コロナ禍では身体活動量が多い人ほど食生活の質が改善している ブラジルの研究
- 運動習慣が新型コロナワクチンの効果を高める 市中感染症リスクのメタ解析で明らかに
- 新型コロナの影響か?「令和2年度 体力・運動能力調査」は、わずかに低下傾向
- 新年度を迎える児童・生徒・先生へ、新型コロナ感染予防に配慮した体育・保健体育の授業例を動画で公開 スポーツ庁
- コロナ渦でも楽しく運動を! 各府省庁の運動・スポーツ啓発コンテンツをスポーツ庁が紹介
- 新型コロナウイルスがスポーツや運動習慣に及ぼした影響を全国調査、その結果を公開 笹川スポーツ財団
- COVID-19ロックダウンの影響は日常の運動量が多い人ほど大きい? スペインでの縦断研究
- 令和2年(2020年)夏の熱中症救急搬送は6.5万人 新型コロナで年齢構成や発生場所、重症度に影響?
- 2,500METs/週の運動が、COVID-19パンデミック時のメンタルを維持 中国での縦断調査