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持久力運動中の味覚と嗅覚はどう変化する? 味と香りを考慮したスポーツ栄養戦略の可能性

持久力運動中の味覚や嗅覚の変化を検討した結果が報告された。運動時間の延長とともに、味覚についてはより濃い味を好むような変化が認められたという。京都女子大学家政学部食物栄養学科の成川真隆氏らの研究によるもので、「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に論文が掲載された。

持久力運動中の味覚と嗅覚はどう変化する? 味と香りを考慮したスポーツ栄養戦略の可能性

女子大学生に対する50分×4セットの運動負荷中に味覚・嗅覚の変化を検討

味覚や嗅覚が摂食行動に深く関係していることは、だれもが経験的に理解している。また、5種類の味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の中で、甘味は運動中の主要なエネルギー基質である炭水化物の感知、塩味は運動で失われるミネラルの感知に役立っている。

一方、身体活動が感覚機能に影響を及ぼすこともあり、例えば疼痛緩和のために適度な運動を行うことが推奨されている。さらに、レプチンなどの食欲に関連するホルモンの分泌動態への影響を介して、身体活動が味覚等にも影響を及ぼす可能性が示唆されている。ただし、その詳細は明らかになっていない。そこで成川氏らは、運動負荷中に複数回、味覚や嗅覚をテストし、負荷時間の延長とともにそれらがどのように変化するかを検討した。

研究の対象や評価手法について

事前の統計学的な検討から、このトピックに関する有意性の検証に必要と計算されたサンプルサイズの20人が、京都女子大学の学生から募集された。年齢は21.6±0.2歳で全員が健康な非喫煙者だった。なお、結果解釈の一般化のため、アスリートは除外されている。

自転車エルゴメーターを用いて心拍予備能の60%の強度で50分間の負荷を、10分間のリカバリーを挟み、計4セット施行。負荷開始前とリカバリー中の計5回、以下の手法により、味覚や嗅覚、疲労などを評価した。

身体的疲労

100mmのビジュアルアナログスケール(VAS)により、主観的な疲労度を把握した。

飲料に対する味覚と嗅覚の変化

市販のアイソトニック飲料(ポカリスエット)を4種類の異なる濃度(等倍〈基準濃度〉、0.5倍、0.75倍、1.25倍)に調整し、それぞれについて、味の強さ、好み、香りの強さを評価してもらった。味の強さについては100mmのVAS、好みは-3~+3の範囲のスコア、香りの強さは、0~+3のスコアで回答を得た。

嗅覚テスト

嗅覚刺激物質を染み込ませた紙片の臭いをかいで、-3~+3の範囲で好みの程度を答えてもらった。なお、5回の評価が終了するまで、水のみを摂取可とし、味覚テストに用いた試料は口に含むのみとした。一方、音楽を聞いたりビデオを見ることは制限しなかった。

持久力運動の負荷は、嗅覚よりも味覚に顕著な変化を引き起こす可能性

VASで評価した身体的疲労は、運動負荷回数を重ねるごとに増加していた。また、呼吸商は1回目の負荷終了後の値が最も高く、経時的に低下し、3回目の負荷終了後にはベースライン(運動負荷前)と有意差がなくなっていた。運動による消費エネルギー量も経時的に低下していた。累積消費エネルギー量は654±32kcalだった。

1.25倍の高濃度試料のみ、経時的に味覚が強まり、かつ好ましいと感じるように変化

アイソトニック飲料を用いたテストの結果は、等倍、0.5倍、0.75倍の3種類の濃度については、経時的な変化が認められなかった。それに対して最も高濃度の1.25倍では、経時的にVAS評価の結果が高値となり(味を強く感じるようになり)、ベースラインと4回目のセッション終了時点との間に有意差が認められた。

また、アイソトニック飲料の好みの評価についても同様に、等倍、0.5倍、0.75倍の3種類の濃度では経時的な変化は認められなかったが、1.25倍では経時的に上昇し(より好ましいと感知されるようになり)、ベースラインと4回目のセッション終了時点との間に有意差が認められた。

嗅覚については経時的な変化が観察されない

アイソトニック飲料を用いたテストでは、香りの強さも評価されたが、その点についてはどの濃度でも、経時的に有意な変化は観察されなかった。また、嗅覚刺激物質を用いて好みの程度を答えてもらうテストの結果も同様に、経時的な有意差は観察されなかった。

このほかに、香りの強さや好み以外の側面からの感情的な評価が可能とされる、カラーチャートを用いた香りの評価手法(Aroma Rainbow®)を用いた検討も行ったが、顕著な変化は観察されなかった。

※Aroma Rainbow®は長谷川香料株式会社の登録商標です。

栄養素+味覚でパフォーマンス最大化をサポート

著者らは本研究の対象が全員女性であること、アスリートは含まれていないこと、試料を飲まずに吐き出して評価したため飲用した場合には異なる結果となる可能性があることなどを、研究の限界点として挙げている。そのうえで、「持久力運動により味覚の強さと嗜好は変化したが、嗅覚の強さと嗜好は変化しなかった。これらの結果は、味覚に対する感受性は運動を長時間続けると変化し、嗅覚に対する感受性は味覚に対する感受性に比べて運動による影響が少ない可能性を示唆している」と総括。また、「味覚と嗅覚は食物摂取にかかわる重要な感覚であるため、我々の研究結果は、最適なパフォーマンス維持のための効果的な栄養サポートに関する、貴重な洞察となり得る」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Changes in taste and odor sensitivities during repeated bicycle ergometer exercises」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2441769〕
原文はこちら(Informa UK)

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